あらすじ
お酒の国内消費が減少するなかで、従来の枠組みや伝統の壁を打ち破ろうとする新たな動がある。その挑戦を紹介し、意義を分析する。
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Posted by ブクログ
日本酒業界への新規参入の動きを扱っています。大変、貴重な情報です。
家飲み、居酒屋の内外比較も面白い。
酒の現状を手っ取り早く知るのに便利な本です。
Posted by ブクログ
■はじめに
以前に比べてお酒を飲む量がめっきり減ってきた。
20代の頃がとんでもない飲酒量だったこともあり、仕事や家庭など環境面の変化や、健康面を意識して減酒するようになってきたが、単純にアルコール分解の能力が下がったので飲めなくなってきたようにも感じる。
最近は量より質への転換を図っていて、特に「日本酒」の世界の奥深さに魅了されている。
ワインやウイスキーに比べて、日本酒は上質なものでも手頃な価格で買えるし、和洋問わず食事に合わせられるバリエーションがあるので、店で見かけると思わず手を伸ばしてしまう。
洋酒に比べてガブガブ飲むものでもないので、味わいながら少量で楽しむことができる。
ただお酒の味や食事との相性を楽しむのも一興だが、目の前のお酒がどんな理念や製法で作られ、今後どんな可能性を見せてくれるのかに想いを馳せるのも感慨深い。
本書は、そうしたお酒の楽しみ方をより一層広げてくれる一冊である。
■本書について
前著『お酒の経済学』に引き続き、経済学・経営学の視点+徹底した現場主義の取材をもとに「酒市場」を捉え直し、コロナ禍を経てお酒の在り方がどのように変化していくのかを描いている。
参入障壁の高い日本酒市場で活躍する新進気鋭の醸造所や、日本ワインの成果と課題、家飲み需要で人気を伸ばす「翠」などのクラフトジンの市場開拓など、最新のデータと学問的理論を土台に考察を深めている。
特に、梅酒市場の研究は今まで見たことがなかったので、梅酒の開拓者チョーヤの経営戦略や、中野BCのBtoBマーケ事情など、新たな知見が得られてとても新鮮だった。
前作の読書記録でも書いたが、何より著者が大のお酒好きで、それが節々から伝わってくるので読んでいて楽しい。
■日本と欧米の居酒屋事情の違い
各酒の市場構造については本書を読んでほしいが、特に興味深かったのが日本と欧米の飲酒事情の違いである。
欧米では外食する場合、食事はレストラン、お酒を飲むのはバーと明確な役割分担があり、レストランではオードブルからメインまでを最初に一括して注文するのが一般的だ。
対して、日本の居酒屋は英国のパブやスペインのバルとは全く異なっていて、食事もお酒も渾然一体で楽しむことが多い。
こうした違いが生まれた背景は、各々の文化的プロセスを辿ることで理解できる。
例えば英国では宿場としての「イン」や、パブリックハウスの中で「バールーム」「タップルーム」「パーラー」のような階級の違いで飲酒の場が区分されていたことに由来している。
英国パブは情報交換の場としての機能があり、現在のクラブのVIPルームのように入場ゾーンが分けられていた。
一方日本では、江戸時代後期に参勤交代で単身赴任してきた多くの武士や地方の労働者からの、酒も料理も提供してほしいという外食需要が大きかったために、現在のような居酒屋形態が誕生した。
面白いのが当時の居酒屋メニューが結構豊富で、「ふぐ汁「あんこう汁」「マグロの刺身」などが提供され、酒は上方からの下り酒として伊丹の「剣菱」「老松」、「灘五郎」などが好まれたらしい。
その頃のメニューが体現された店があれば、是非とも行ってみたい。
また、明治時代以降の文明開花による飲食の洋食化、それに伴うビヤホールの誕生も興味深い。
居酒屋の「和」とビヤホールの「洋」が並立し、戦後はこの和洋が統合していくことで、現在の居酒屋チェーンの原型を成していったのである。
現在の居酒屋業界では、ワタミやモンテローザのような大手チェーンによる「何でも屋」から、鳥貴族や磯丸水産のような「専門店化」が進んでいる。
ただし、個人経営のお店では専門店化の功罪が認識され始め、顧客とのコミュニーケーションとフィードバックを重視した経営手法へと見直されている。
■おわりに
本書では、近年隆盛している醸造所・蒸留所併設型(地産地消型)飲食店の「プレイス・ベースド・ブランディング」や、ノンアルコール市場拡大と選択肢の多様化など、今後の酒市場の予測や提言が多くなされており、酒好きにとってキャッチアップしておくべき情報が豊富にある。
本書を通じて、改めてコロナ禍以降のお酒の在り方を再認識でき、より広く深くお酒を楽しめそうだ。
人間関係を円滑にし、人生をより豊かにするための「潤滑油」として、これからもお酒を味わいたい。