あらすじ
「一緒に、失くした記憶を探しに行こう」。彼女の言葉で、僕らの旅は始まった。
過去を奪うものたちに抗い、ままならない現在を越えていく、〈愛と記憶〉をめぐる冒険。
デビュー作『鳥がぼくらは祈り、』、芥川賞候補作『オン・ザ・プラネット』を超える、鮮烈な飛躍作!
「ねえ、覚えてる?」--両親を知らずに育ち、就職した僕〈一志〉のもとに、見知らぬ女性が訪れる。
〈杏〉と名乗る彼女は忘れていた過去を呼び起こし、僕の凡庸で退屈な日常が変化していく。
〈不可視のシステム〉に抵抗し、時間の境界を越える恋人たちの行方は――?
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Posted by ブクログ
極めて難解だった。
そして面白かった。読んだタイミングが良かった。
初めて読んだ作家だったが、まさかこれほどまでに素晴らしいものとは思っていなかった。ぜひ芥川賞を獲ってほしい。
文体は確かに特異なのだが、それよりも表現の、特に比喩の美しさが僕は好みだった。
苦しい小説だった。
ひとつになる瞬間がたしかにあった(p.68)ことが、この二者の主観が描かれる文体により明確になっている。だからこそラストにかけての苦しさはより大きなものになっている。
ただ一志の一人称のみから描かれていれば、杏さんへ怒りが湧いてしまうようになっていたと思うが、この書き方だとひたすら苦しい。
答えは出ていない。僕も考えていきたい。
157過去から照射されたいつかの光、網膜にはじめてうつしたのかもしれなかったいつかの光で生まれる、失われた記憶や彼女と過ごした日々の影法師としての僕の身体だった。幽閉されていた僕に引き摺り回され、永遠を希求した僕に振り回され、だらしなく路面に伸びた僕だった。いつか追いつくだろうか。今現在を今現在のままの身体で受け止められるだろうか。失われ奪われ欠落していたとしてもその僕のまま僕の最前線に立たなければいけない。流転する肉体、現象としての一連の僕の最前線に。その僕すらも嘘で欺瞞であることを引き受けて。
Posted by ブクログ
久しぶりにこんなに良い本が読めた、凄かった
素敵な言い回し(何回読んでも理解できない表現もあったけど)がたくさんあって全体的にお洒落だったし、
一文のうちに語り手が代わるのも、読んでいて心地よかった。
記憶を見てからの鬱展開に自分もかなりショック受けてしまった、、
一志のそれからを、ふとした時に度々考えてしまうと思う
心に残る作品だった。
Posted by ブクログ
混じり合いの文章は意外に、さほど違和感なく良かった。
展開的には何となく読めるので、早く、早くと読み進めたくなる。
だからだろうか、終わり方が消化不良だった。
純文学はそういうものなのかもしれない。
けれど個人的には、何らかの希望が見えたり
一応のおさまりがついている小説が好きだ。
Posted by ブクログ
⚫︎感想
ストーリーでは二人の記憶が一つに収束していき、描き方では「僕」と「私」の視点が混ざり合い一つに見えるようにも仕掛けてあって、文章でこういう試みができるんだなぁと思った。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
「一緒に、失くした記憶を探しに行こう」。彼女の言葉で、僕らの旅は始まった。
過去を奪うものたちに抗い、ままならない現在を越えていく、〈愛と記憶〉をめぐる冒険。
デビュー作『鳥がぼくらは祈り、』、芥川賞候補作『オン・ザ・プラネット』を超える、鮮烈な飛躍作!
「ねえ、覚えてる?」--両親を知らずに育ち、就職した僕〈一志〉のもとに、見知らぬ女性が訪れる。
〈杏〉と名乗る彼女は忘れていた過去を呼び起こし、僕の凡庸で退屈な日常が変化していく。
不可視のシステムに抵抗し、時間の境界を越える恋人たちの行方は――?
Posted by ブクログ
人称が入れ替わる独特の文体なので、
なんとなく、彼と彼女が溶け合うような感覚でふわふわと読んだ。
小さな頃の記憶って、この物語のような外部要因がなくても
親や親戚から聞いた(聞かされた)話のツギハギだったりするので、
記憶の不思議さを感じる。
Posted by ブクログ
主人公の元へ、児童養護施設で一緒だった「杏」と名乗る女性が訪ねてくる。
杏が語る2人が幼少時にされた事とは─。
タイトルと装丁で読んだんですが、すごく内容にマッチしてると思う。
意識があっちへ行きこっちへ行きする、「僕」と「私」が混じりあっていく、のを文章に起こしたような文体。
(文学的なんだけど、この本の後は理路整然としたミステリーを読みたくなった)
「失った記憶も私の人生の一部だから」~ってテレビドラマのテンプレみたいな台詞を読みながら、児童養護施設ってことは十中八九ろくでもない児童虐待の記憶では…?と思ってたけど。知らない方が幸せなこともあるよね。
芥川賞系統だな~って、後味。