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Posted by ブクログ
8月になると、戦争を題材にした本を読みたくなる。「戦争を風化させない」「戦争の悲惨さを忘れてはいけない」等と言う、心持ちがある訳ではなく、自分の中では8月は「戦争の本を読む」と言う季節感というだけである。
「出口のない海」は、特攻機「桜花」に次ぐ、人間が弾頭になって海中を進む人間魚雷「回天」の話、というだけではなかった。野球を楽しむ学生たちが、敗戦色が濃くなりつつある時代に徴兵され、そこにいた「並木」青年に焦点を充てた物語りである。
温かな家族も、淡い恋も、野球への夢のことも、最期の時まで忘れなかった「並木」青年。彼の脳裏に蘇ったのは友達の笑顔か、仲間の言葉か、それとも戦争と回天のことだったか、それは誰にも分からない。
この本が教えてくれたことは、回天のことを忘れられたら、誰からも思い出されなくなったら、この戦争のために死んでいった兵隊たちは、死ぬために生きることはなかった、と言うこと。兵隊たちの青春が、戦火の中に青々と燃えていたこと。
若くして英霊になることを誇りにした者もいたかもしれない。けれど本当はどうだっただろう。生きることに縋り、日の本を背負う覚悟なんて。
「彼ら(米英たち)にも家族がいる。」
戦争は誰も幸せになんかしてくれない。私はそう思う。当時なら非国民と言われて迫害を受けただろう、母は何も悪くないのに世間に謝ってばかりいただろう。それでも、私は戦争の二文字に、幸福が入り込む余地はないと断言する。
しかし、「並木」青年は見つけたのだ。唯一の幸せを。自分の夢を叶えた幸福を抱いたのだ。それだけは誰の意見もつけいる隙はない。もちろん、この感想を書く私にも。
戦争の作品で、主人公が幸せの中で散った作品は数少ない。この本を多くの人が読み、一筋の幸福に目を向け、夢を叶えますように。そう思わせてくれた作品だった。
Posted by ブクログ
出口のない海、読みました。名作でした。外で読んで、ぼろぼろ泣いてしまったので、外出先で読むのはあまりお勧めしないです。
わたしは学がないです。国語は、まあそこそこ得意なほうではあったけど、歴史とかてんでダメだったし、というか今もダメ。頭が悪すぎるので。だから戦争の用語とか、本当になんもわかんない。
でも、それでも読みにくさを感じたりとか一切せず、ぐいぐい読めちゃいました。やっぱ文章力がすごい。
最初は並木があまりにもまっすぐな男で、主人公としてはすごく魅力的なんだけど感情移入できるかと言われたらどうかなぁと思いながら、ちょっと離れた視点で読んでいたんだけど、本人の特攻に対する葛藤とか弱さ(わたしは弱いと思わないけど、人間らしさとでも言えばいいのかな)が垣間見えたところ、まるで自分がその場に立たされているように手に汗握ってしまったし、並木のことが大好きになってしまった。心理が丁寧に描かれているからこそなんだろうな、離れた視点で読めなかった。
わたしはその場にいる人間ではないし、やっぱりなんだかんだ一歩引いた冷静な立ち位置にいるので、人につられてだろうが特攻志願しちゃだめだよとか思ってしまうんだけれど、でもあの空気感・戦争真っただ中・お国へ尽くすことこそが男なりって環境下だと志願してしまうのも理解はできるというか。理解できるからこそ、やっぱり、そういう世の中はよくないと思いました。平和ボケだろうが何だろうが、戦争で命を乱雑に消費するのはやっぱり悲しいことだと思う。
結末なんて最初からわかっているのに、それでも、死なないでほしいと強く願いながらページをめくりました。
おわりはあっけなかった。想像していたのは戦争で散る姿だったけど、でも本当はそうじゃなくて。あまりにもあっさりと、華々しい終わり方もせず死んでしまった。いや、自爆で敵軍をやっつけるのが華々しいとは思わないけど、戦果を挙げるというか。
でも、並木らしかった。
敵軍にも小畑のようないいやつがいるのかもしれないと思ったり、自分の家族の今後を本当に案じていたり、そういう優しい並木らしかった。
台風の後、並木の回天が発見されたところから本当に涙が止まらなくなってしまって、沖田への手紙も美奈子への手紙も全部が全部、並木の人に対するまっすぐな姿勢を感じて、なんでこんなことが起きてしまったんだろうって思ったり。
わたしは愛が人間の感情の中で最も尊ぶべきものだと思っていて、まあその「愛」は恋愛じゃなくて友愛でも家族愛でも愛国心でも何でもいいんだけど。
だから、とりわけ並木と美奈子のやりとりは心に響いてしまった。
美奈子への手紙の後、トンボが美奈子が自害するのを阻害してくれた描写で大号泣してしまって、まだ戦争なんてそんなものに巻き込まれなかった、軍人ではない並木との思い出がここで出てくるのかって。
船に乗った北と並木のやり取りもすごく印象的でした。
北の肩がふくらんでいるのが、なんかもうしんどくて、北のそういうところを並木がちゃんと見ていて、回天に搭乗するときにちゃんと「おふくろさんに会ってこい」って言ってくれたのが、もう……
北と並木の関係性、すごくよかったです。
一番記憶に深く残ったのは弟君の「立派に死んできてください!」なんですけど。
あのシーンと、並木と沖田が学校でふたりで話すシーン、衝撃がでかすぎたし、悲しかったな。
若者……というか、誰もかれもが、国とか情勢とかそういうでっかいものに巻き込まれて、ひん曲がった教育を受けざるを得ないとか、そういう社会はやっぱり怖いし、いやだ。まだ幼い子が、国のために命を投げ出すのを当たり前だと思い込んでしまうのは、やっぱりいやだ。わたしはそういうの嫌だし、戦争には断固反対です。
人が死ぬのはぬくぬくしたお布団の中でだけでいいし、つらい思いをしないでほしい。みんながみんな、誰かのために命を使わないでほしい。
そうずっと思って読んでたし、これからもずっとそう思って生きていく。
わたしは読書は勉強や成長のために必要なものではなくて、娯楽物だと思っているし、別に「勉強になった」とかにならんでいいとおもうんですよ。「楽しかった」「面白かった」だけですませて問題ないというか。
でも、わたしとしてはすごく「勉強になった本」です。恐怖で目を背けずに読めてよかった。
Posted by ブクログ
「魔球を打つ」という夢を持った並木が、なぜ特攻隊に志願したのか。
志願したあとの心の移り変わりがとても面白かった。
死にたくないと強く思う時期、受け入れる時期、最後は悟りを開いたような心情。
死ぬ事が分かっていても魔球を諦めない並木に切なくなった。
作中、並木は自分の事を弱いと言っていたが、私は沖田同様強い人間だな、と思った。
最後は回天で敵艦に突っ込むことなく亡くなった彼だったが、回天を世の人間に知ってもらうという夢は叶ったのかなと思った。
まだ若い子達が家族のため、祖国のためと命を投げ打って戦争に立ち向かったあの時代。
胸が苦しくなるが、温かい気持ちにもなるような素敵な作品だった。
Posted by ブクログ
戦争文学で、特攻を熱かった小説は少なくありませんが、「回天」を取り上げた作品は数少ないと思います。そもそも搭乗員の死を前提とした特攻自体が戦略としても許されるべきものではない、と思いますが、中でも「桜花」と「回天」はその最たるものでありつつも知名度が低く、歴史としてしっかりと残していく必要があると思っています。
この作品では「回天」という出撃したら必ず死ぬことになる兵器に搭乗することになった(志願せざるを得なかった)主人公の精神的な葛藤や、大学野球という開放的な世界から強制的に軍隊や潜水艦という閉鎖的な空間に送り込まれた哀しみが、鮮やかに描かれています。
主人公の辿る思考回路や、周囲の軍人・上官・家族・恋人などの態度や反応はほかの戦争文学と大きく異なることはなく、「全く新しい感情の揺れ」を体験することはありません。しかし、それでも心を揺さぶられるのは、戦争で亡くなった多くの人の無念さや、戦争という行為の愚かさ、悲惨さを改めて感じさせられるからだと思います。
つきなみですが、戦争文学を読み継いでいく、ということが平和につながる一つの教育だと思い、生徒にも紹介し続けていこうと思います。
Posted by ブクログ
人間魚雷 回天
発射と共に死を約束される極秘作戦
神風特攻隊の事は知っていましたが、
回天の事は他の方のこちらの本のレビューで知りました
絶対にあっていけない兵器です
甲子園優秀投手の並木くん
大学で肘の故障で投げる事に悩み、
そこに声をかけていく野球部の仲間
集っている喫茶店
恋や夢や、将来を話すキラキラした青春時代が彼等にはあったのです
回天に乗るまでの葛藤、苦しみ、心情
読んでいて本当に辛かったです
それでも、決して忘れてはいけない
この国に戦争が起き、
若者がどうしてこんなふうに
死に行く兵器に乗らなくてはならなかったのか
お国の為に死んでくるという忠義
自分の本心さえ言えない戦争
恐ろしいです
軍事訓練所で、上官から殴られる場面、暴力場面が苦手なので苦しかったなぁ
前半は青春の眩しさが感じるだけに、後半は辛かったです。
読んで良かったです
Posted by ブクログ
高校生や大学生最も楽しいはずのときに彼らは国を守るため家族を守るためと疑わず死を捧げていた。
今のわたしたちの世の中をみて彼らはどう感じるのか。豊かになりすぎて、大切な家族といれること好きな人に好きと言えること、友人たちと好きなことをできる事。私たちはそれが、どれだけ大切かもう忘れかけている。それが戦争のあった時代彼らには何よりも欲しいもので、何よりも大切だった。
並木の感情こそ人間誰もがもつものだと思う。
でもその時代で死こそ当たり前、死があってこそ、という洗脳のようなものがあって、人間魚雷さえ生まれてしまった。想像もできない。自ら志願するものがほとんどだった。
彼らがいて今の私たちがいる。
戦争は何があっても起きてはいけない。それを彼らが伝えてくれている。
Posted by ブクログ
堀越二郎の零戦と同じく、この季節に読もうと決めていた本。
戦争を知らない私達世代でも特攻という言葉は知っていて、そこから連想するのは神風。
知識として回天の存在、それが人間魚雷であり、すなわち特別攻撃隊である事は知っていた。
しかし、神風特別攻撃隊ではなく、神塩特別攻撃隊と呼ばれた事は本書にて知る。
本土決戦に向け一億総玉砕が叫ばれ、学徒出陣の名において多くの若者も戦地に送り出された。
死を覚悟して決死隊とし出陣された方と、必ず死ぬ必死隊として出陣された特別攻撃隊の方の想いとは祖国の為という鉄の仮面に包まれ、ただ愛する人を守る為という想い。
そこだけは同じような気がする。
しかし、決死と必死の差は大きく、まさにその人の運命を左右する。
そんな中で必死を選んだ若者の苦悩と想いが見事に描かれている作品。
出会えて良かった一冊です。
説明
内容紹介
最終兵器「回天」が意味すること。
戦争とは、青春とは――。
人間魚雷「回天」。発射と同時に死を約束される極秘作戦が、第2次世界大戦の終戦前に展開されていた。ヒジの故障のために、期待された大学野球を棒に振った甲子園優勝投手・並木浩二は、なぜ、みずから回天への搭乗を決意したのか。命の重みとは、青春の哀しみとは――。ベストセラー作家が描く戦争青春小説。
青春の哀しみとは、命の重みとは――
横山秀夫が描く「戦争」がここにある。
内容(「BOOK」データベースより)
人間魚雷「回天」。発射と同時に死を約束される極秘作戦が、第二次世界大戦の終戦前に展開されていた。ヒジの故障のために、期待された大学野球を棒に振った甲子園優勝投手・並木浩二は、なぜ、みずから回天への搭乗を決意したのか。命の重みとは、青春の哀しみとは―。ベストセラー作家が描く戦争青春小説。