あらすじ
「学生ラグビーの最強集団」である帝京大学ラグビー部。2022年1月には、ラグビー大学選手権で優勝し、前人未踏のV10を達成した。その強さの秘訣は、26年間、チームを率いてきた岩出雅之監督の心理学的マネジメント術にあります。
心理的安全性、成長マインドセット、ナッジ、心理バイアス、フロー、自己肯定感、OODA(ウーダ)ループ、マズローの欲求5段階、ハーズバーグの2要因理論、内発的動機(ときどき脳科学も)――。岩出監督が「これは使えそうだ」と思った心理学理論やビジネスツールを、実際の組織運営や人材育成に次々に取り入れ、実際に大きな成果を出しています。これらは、ビジネスの現場ですぐに役立つものばかりです。本書を読むだけで、最新の理論を実践例とともに、学ぶことができます。
中でも、著者が突出しているのは、逆境の中で組織の実力を100パーセント発揮させるマネジメントと、従来の若者とは違うZ世代のモチベーションの高め方。逆境に直面したとき、プレッシャーや不安に押しつぶされることなく、蓄えた実力を発揮できる「フロー状態」をどのようにつくりだすか。26年のラグビー部監督人生で編み出した「極意」を本書で披露します。
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Posted by ブクログ
前著も良かったが、期待通り今回も良かった。
失礼すぎる言い方をすると、
「大学9連覇はダテじゃない」ですね。
でも、今回のは、いったんそれが途切れて、
と同時にコロナ禍にもなって、
そこからの復活の話、その学びですから。
さらに参考になる事ばかりでした。
特にZ世代と向き合う人は必読、お勧めです。
血の通った心理的安全性の話です!
Posted by ブクログ
負けない作法からアップデートされた内容が載っていて、今後の自分に活かせていくために必要なことが多く書かれていた。自分と違う最近の世代に対して気をつけるべきことなどが参考になった。
特に心に残ったフレーズ
p.90 体験を経験に昇華できるかどうかで変わる。
p.159 真面目はすぐに飽きられる。真面目なリーダーは都合のいい存在になりがち。真面目だけでなく個性や人間的魅力が大事。
p.166 話あってみてという問いかけしている。
あるテーマについて分かった気になっても理解が浅かったり全く分かってなかったりする。説明するうちに整理されたり言語化されたりする。
Posted by ブクログ
心理的安全性や、リフレクション、禅の発想など、自分が関心ある分野を実践しており、非常に参考となる。「知っている・わかっている」と「出来る」は違うが、著者はこうした分野を実際に「出来る」レベルで再現していると感じた。
だからこそ、これまでの帝京大学での業績に繋がっているのかと気付かされた。
Posted by ブクログ
できる監督というのは勉強している。一流のスポーツ選手が勉強しているのと同じ。どうしたら自分の状態をフローにもっていけるかということについてとても参考になった。
Posted by ブクログ
本の内容よりまず指導者とはどういうものか、指導者の力を感じることができる。
心理的安全性を重視した成功談とその後陥った仲良しクラブ化、z世代の特徴(損失回避傾向、承認欲求が強い、他への貢献心も強い)は有用な内容。
心理的安全性+高い目標、強い責任感→ 成長する環境
心理的安全性+低い目標 → ヌルい環境
心理的安全性なく+高い目標 → ブラックな環境
心理的安全性なく+低い目標 → 不条理な環境
Posted by ブクログ
組織活性化のために心理的安全性は不可欠な要素ですが、心理的安全性があればそれだけで十分かというと、それは大きな間違いです。心理的安全性の研究の第一人者であるハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授は『恐れのない組織』(野澤智子訳、英知出版)の中で、「心理的安全性は、目標達成基準を下げることではない。野心的な目標を設定し、その目標に向かって協働するのに有益」と述べています。つまり、「心理的安全性」と「野心的目標」の両方が必要で、どちらが欠けても機能しない。
心理的安全性と責任がともに低い組織は、メンバーが無気力になります。職場は、形式的で非効率かつ融通の利かない状態になりがちです。心理的安全性が低く責任が高い組織は、メンバーが不安に襲われる。旧来の体育会組織はここにあてはまります。一方、心理的安全性は高いが責任は低い組織は、自由放任で居心地はいいけれど、だらしのない感じの空気が広がり、メンバーの成長への意欲も低い。
理想的なのは、心理的安全性と責任がともに高い場合です。この状態は、先に紹介したグーグルの「プロジェクト・アリストテレス」における高い成果を出すチームの特徴であり、メンバーそれぞれがリーダーシップを発揮し、日々学び、助け合いながら高い目標に向かって進んでいきます。
帝京大学ラグビー部では、「逆ピラミッド化」を進めてきた結果、心理的安全性を高めることはできましたが、実は、下級生におけるメンバー一人ひとりの目標達成への責任を高める改革が伴っていたため、この図の「快適」ゾーン、つまり「仲良しグループ」に陥っていたのです。
指導者やリーダーの立場では、多くの人がアメ・ムチに魅力(即効性)を感じるのはすごくよくわかりますが、メンバーの成長につながる効果が高いかどうか疑問です。そこで内発的動機に焦点が当たるわけですが、当然のことながら「内発的動機」であるがゆえ、外部からの介入の余地があまりない。となると、指導者やリーダーは、内発的動機を引き出すためにはどうしたらいいのかと、頭を抱えてしまいたくなります。
もし、「人々を強制的にではなく、内発的動機を発揮する方向にうまく誘導する方法」があれば、理想的です。
数年前から行動経済学の中で注目されている「ナッジ理論」は、それに近いかもしれません。行動経済学は、人間は必ずしも合理的には動かないという考えのもと、経済学と心理学の視点を組み合わせ、人間の経済行動をもっと現実に合う形で分析しようという学問です。ナッジ理論派2017年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授によって提唱されました。ナッジ(Nudge)とは「背中を軽く押す」という意味であり、命令や指示で強要するのではなく、「ナッジ」によって本人の選択の自由を残しながら、自然に良い方向へ誘導し、無理のない形で行動変容を促す狙いがあります。
実は、男子のトイレには、「ナッジ」が仕掛けられているところが少なくありません。男性読者の方は、小便器に的のような印がついている便器を見たことがありませんか。的があるとつい、そこを目がけておしっこをしたくなります。その結果、小便器への飛び散りが激減し、トイレを清潔に保ちやすくなります。小便器の前に、足形のシールを貼っている場合もあります。足形があると、ついその上に足を合わせたくなります。よく「一歩前へ」というシールが貼られたトイレがありますが、足形に合わせると、ごく自然に「一歩前へ」が実行できてしまいます。
同じ体験をしても、それを次に生かして伸びる人と、そうでない人がいます。その差は「体験」を「経験」に昇華できるかどうかです。「体験」というのは「自分で直接見たり触れたり行ったりする」ことで、これに対して「経験」は「行動したうえで知識やノウハウを身につけて新たな行動規範にする」ことです。
では、「体験」を「経験」に変えていくには、どうしたらいいか。まず、大前提として、はっきりした目的や目標を持つことが重要です。
大学選手権優勝と、社会に出た後の自分というダブルゴールをしっかりイメージしながら、大学やラグビー部の活動で味わうさまざまな体験をしっかりリフレクション(内省)して、そこから教訓を引き出すこと、やや専門的に言えば「概念化」することが非常に大切です。
概念化というと難しいと思うかもしれないですが、要は、教訓をちゃんと言葉にしてみるということです。
たとえば、ラグビーの試合で、タックルが甘かったことをリフレクションするとします。タックルという「行動」が「甘かった」という結果を生んだわけですが、行動と結果だけを見て対策を考える(シングルループ学習)のではなく、なぜその行動をとる気持ちになったのか、その「前提」にまでさかのぼって考える(ダブルループ学習)のがリフレクションのポイントです。
「前提」では、古い価値観や先入観、既成概念、油断、過信などの感情が幅を利かせていることがよくあります。リフレクションによってその状況に気づき、既存の前提や枠組みを取り払い、再構築(リフレーミング)すると、行動が劇的に変わる可能性があります。タックルの例で言えば、「前提」は、相手が格下だと思って気が緩み、その次の試合のために力を温存しようと思っていたことに、リフレクションで気づくかもしれません。試合中にリフレクションでそれに気づければ、すぐに修正することができます。
せっかく味わった体験ですから、ぜひ体験の背景にある「既存のモノの見方や枠組み」について考え、時にそれを打ち壊し、そこから改善や弱点の克服につなげる。それが体験を経験にすることです。
学生が味わう体験の大部分は「暗黙知的なもの」であり、言語で中々説明できないことが多い。体験を経験に変えていくには、普段から暗黙知を言語化するように練習しておくのがお勧めです。
コロナ禍で活動が中断した2020年は、5月くらいから学生が徐々に戻り始め、活動を再開させることにしました。学生は、可能な範囲で自主的に体づくりをしていたと思いますが、体力が落ちていることは明らかでした。そこで、簡単なマット運動を取り入れ、ハンドスプリング(前方倒立回転跳び)をやってもらいました。
ハンドスプリングは、助走をつけて両手をマットにつけ、前方に1回転して、たったまま着地する運動です。おそらく多くの人が中学や高校の授業で習ったはずですが、やり方を忘れていてできない人も多い。少し練習すると、成功する人が増えてきました。そこで、まだできていない人には、成功している人のやり方をよく見て「コツ」は何かをよく考えるように言い、成功した人に対しては、まだできてない人にコツを伝えるように指示しました。
実は、自分のやっていることを言語化するには、やっていることに対する理解をかなり深めていないとできません。逆に言えば、人に教えられるというのは、そのことをかなり深く理解した証しであり、教えている最中に自信がなくなってきたら、それはまだ理解が足りないことを示しているのです。リフレクションでは、さまざまな体験で得たことを言語化したうえで、教訓化、概念化し、経験として蓄積していきます。
授業でもクラブの活動でも、私は学生たちに、「〇〇についてポイントは何か、隣の人と話してみて」といった問いかけをしょっちゅうしています。あるテーマについて、わかった気になっていても、理解が浅かったり、実はまったくわかっていなかったり、することがよくあります。そんな時、誰かと話してみると、説明しているうちにどの部分を理解できていないかがわかったり、ぼんやりしていたことが整理されたり、言語化されたりして、より理解が深まることがよくあります。これが、頭のなかの考えをアウトプットすることが重要な理由です。
ラグビーの練習中でも、授業中でも、「今の話題(プレー)について、どこが大事なのか、周りの人と話してみて」と学生たちに言います。時間はおよそ1分くらいで、周囲の数人と話し始めます。これを私は「3人トーク」と呼び、授業では、話し合いの結果を発表してもらうこともあります。
話を少し戻しますが、A君に何か伝えるために、B君やC君を経由させるためには、その大前提として、学生たちの「人間関係のネットワークを概ね把握すること」が必要です。実はこれが、非トップダウン型の組織マネジメントの一つの重要ポイントだと私は考えています。
非常に手間がかかってまどろっこしいことをなぜするのか、と思われるかもしれません。直接言ったほうが何倍も早いし、効果的だと普通は思うでしょう。でも、教育においては、効果が早く現れるほど持続力がなく、結局はその場限りの改善で終わってしまうことが少なくありません。
学習においては、すぐ答えに辿り着けるようにするよりも、答えにたどり着くまでに「望ましい困難(頭を悩ませながら考え続けること)を体験させたほうが、より長期記憶として残り、効果的であることが、研究で示されています。
これは、人間の記憶力と関係しているのではないでしょうか。記憶は、ワーキングメモリーと呼ばれる短期記憶と、長期記憶からできています。短期記憶は一時的に数個の情報を保持し、長期記憶は大量の情報を保持することができるのですが、人間の五感から入ってきた無数の感覚情報がすべて短期記憶や長期記憶に収められるわけではありません。感覚情報の中のいくつかが短期記憶となり、さらにその中のいくつか(時間を空けて繰り返し使われた情報など)が長期記憶として定着していきます。
短期記憶は、吸収は早い反面、容量が小さく、同時に覚えられるのは四つか五つくらいで、記憶は別の情報が入ってくるとすぐに上書きされ、前の記憶は消えます。長期記憶は、なかなか定着しない反面、容量が大きく、しかも消えにくい(数年前の情報も思い出せる)という特徴があります。
直接教育というのは、いわば短期記憶に働きかけている教え方です。指導した直後は教えられたことを覚えていて実行できますが、時間がたてばほかの新しい情報がどんどん入ってきます。そうすると、短期記憶で保持できるのは四つか五つくらいなので、すぐに押し出されてしまいます。そのため、指導者は「前に言ったのに、どうしてできないんだ」とか「何度も同じことを言わせるな」という不満を抱きがちです。しかし、教えられた人が忘れるのは当たり前であり、それは指導者の教え方が安易だからです。
さらに、組織の中で大きな権限を持つ者(上位者)が、メンバーに何かを伝える場合、上位者にその意図がなくても「言われたことを守らないと、怒られる(評価が下がる)」という圧力が伝わります。すると、指導した内容(たとえば、常時、マスクをすること)を実行するのは、本来の目的(周囲にウイルスをうつさないようにする)ではなく、圧力をかわす(怒られないようにする)ため、となってしまいます。これでは、指導した内容の本質が伝わらず、本人の成長につながりません。
一方の間接教育には、時間がかかります。A君に伝えたいことを、あえてB君やC君経由で伝わるようにしたり、主将にあえて「正しい方向に進め」と曖昧で漠然とした指針を出したりと、できるだけそのメッセージを受け取った人が、時間を描けて自分の頭で考え、答えを出していくように誘導します。
あるテーマについて、反すうするように考え、言語化・概念化し、行動に移し、さらにそれをリフレクションすることによって、情報は長期記憶に刻み込まれていきます。リフレクションによって、自分の行動のもとになっている考え方や規範を改革し(リフレーミング)、行動を変えることができます。新しい体験を五感で感じ取るだけでなく、頭で考え、自分の行動の基準になっている規範に取り入れていくことで行動が変わり、その行動を継続すると習慣になり、それが一人から周囲に広がっていけば、文化になっていきます。
マインドセットとは、その人が持っている経験や価値観に基づく考え方の枠組みや思考様式のことです。『マインドセット「やればできる!」の研究』の著者でスタンフォード大学心理学教授のキャロル・ドゥエックによると、マインドセットには、「成長マインドセット」と「固定マインドセット」の2種類あり、どちらであるかによって、その後の人生に大きな差が出てきます。
ラグビーでも、中学・高校で才能があると騒がれた子が大学で伸び悩むケースがしばしばあり、「固定マインドセット」はその原因の一つです。失敗や挫折を前にして、どうせできないと思う(固定マインドセット)か、きっとできると思う(成長マインドセット)か。このマインドセットの違いによって、その後の成長に非常に大きな影響が及びます。成長マインドセットを持つには、前述の自己効力感や自己肯定感を高めることが肝要です。
また、メンバーの成長マインドセットを育成するには、リーダー自身が成長マインドセットを持っていることが欠かせません。その理由は、リーダーが固定マインドセットの持ち主だと、メンバーの成長や挑戦を阻み、組織の人間関係もぎくしゃくし、心理的安全性を保てなくなるおそれがあるからです。
組織をもっと活性化させたい、閉塞状況から抜け出したいと考えているのであれば、まず組織のトップが、自分のマインドセットを「固定マインドセット」から「成長マインドセット」に変えていかなければなりません。トップの行動をいつの間にか社員たちがまねするようになる、習慣として定着していきます。社員の自発性ややる気は、口先で支持・命令して引き出せるものではありません。
Posted by ブクログ
20221221
前著に続いて2冊目。
連続優勝を逃すようになり、体育会系の逆ピラミッドなど、前著の時よりも改善したところがあった。
Z世代の分析、扱い方、コロナ対策など、メディアに影響されてる感じがしたかな。