【感想・ネタバレ】生命式のレビュー

あらすじ

夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで――死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作のほか、村田沙耶香自身がセレクトした、脳そのものを揺さぶる12篇。文学史上、最も危険な短編集!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

中学生の時まさしく「オタク」と呼ばれて冷笑されていました。しかし、近年社会経済がオタクの価値を見出してこちら側に縋り付いて全員が何かのオタクであることを許容しています。それが私には本当に許せないことで、その経験があったので生命式の主人公には共感できるところがありました。昔の痛い経験が今は当たり前で、ただその今の文化にもちゃんと恩恵があるし共感できるところもある。少数派が急に多数派に連れてこられたら動揺しますが、社会は常に流動的なので、私も受け入れられるようにしていきたいなと思いました。
互いに人の価値観を受け入れはしなくても、理解し合える仲になれれば理想的です。

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2025年11月20日

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とても興味深く読んだ。
「生命式」「素敵な素材」はグロい描写に参ったが、ここまで書けるのがえらい。
「生命式」は「殺人出産」と同様、高級な倫理学小説だ。同じ枠組みの小説なので、ワンパターン感は否めない。「孵化」も「コンビニ人間」と同じだなあ。
「二人家族」は、結婚の哲学小説。

一番好きだったのは、「魔法のからだ」。高度なセックスの哲学小説だと思うし、メッセージも素晴らしい。

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2025年11月19日

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「生命式」と「素敵な素材」でガツンと正常とは何かを問われた。
「素晴らしい食卓」で、多様性を認める行動の気持ち悪い一面が書かれていて印象に残った。
多様性は混ぜたらいけない。

無意識にしてしまう正常と異常の線引きを考えさせてくれる短編集でした。

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2025年10月28日

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お久しぶりの村田沙耶香さん。特に最初の三編が好きだった。
『生命式』、『素敵な素材』は、「命を食べて、命を作る」葬式に代わる儀式も、「人間を素材として使う」よりも「全部燃やしてしまうほうがずっと残酷」という発想も、確かにそうかもなとも思うのに、想像するとどうしても気持ち悪かった。どうしても今まで生きてきた中で刷り込まれてきた倫理的価値観が、生理的感覚として自分の中に根を張っているんだなと思う。柔軟でありたいものだけど。
『素晴らしい食卓』は、無理やり文化を融合させるのは気持ち悪い、というラストに風刺が効いていてよかった。

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2025年10月07日

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 何か根本的な違和感を抱えつつ、それが合理性を持っている。この世界の根本的な在り方を問うている。その根本的な在り方とは、そもそもいったい何なのか。
 人間の始まりと終わりのタブーに踏み込み、世界が、人類が、脈々と受け継いできた常識という妄想への挑戦。常識など案外脆いのに、みなは大事そうに、それを信じている。最後の話は分人思想を思わせる。

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2025年09月12日

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ネタバレ

著者が自選した、短篇12作。好き嫌いが分かれそうな本だけど、自分は面白かった。登場人物はひたむきに狂っていて、それを笑って読んでいると、著者からの鋭い問いが直撃する感じがたまらなかった。表題作の「生命式」で、山本が言っていたが、常識や本能、倫理はずっと変容し続けていて、それに適応した多数の人間がその時代の「普通」を作り出しているだけだと思ったら、気が楽になった。一気に世界に引き込まれた「生命式」、面白可笑しくて一番好きだった「素晴らしい食卓」、比較的マイルドで共感しやすい内容の「孵化」が印象的だった。

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2025年09月05日

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この本に対しては生半可な感想は許されない感じがする。感想、つまり自分のスタンダードと本の比較行為が、社会規範という基準に対して石を投じ続けたこの本に対してはよりより一層と真摯でなければいけない気がする。

本書はクレイジー沙耶香らしさ全開。生々しく正しさとやらに挑戦している。正しさの元で犠牲になるのではなく、それぞれの世界の正しさ、のルールとそれに対峙する人の葛藤を記す。この葛藤を通じて、正の基盤は蒟蒻のようにゆるゆるだと言うことが伝わってくる。挑戦しているのだけれども、答えを出す訳ではない。だからこそ、この本に対して多様な解釈、そして感想を抱いた。読んでいて本がこちらに凄く語りかけてくるようだった。

どの話も違った角度で違った正に挑戦している。全ておもしろかったけれど、個人的には食に関わる4つの作品が好き(生命式、素敵な素材、素晴らしい食卓、街を食べる)。生きる上で欠かせないし、1番身近な食だからこそ、本の中の世界の異様さが湧き出てくる感じがしたし、その世界を通じて今自分が立っているルールに対峙した気もした。

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2025年09月01日

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ここ最近クレイジー沙耶香さんの作品を数冊読んで
【変容】という言葉が必ずでてくる。どの類の小説か難しいが、この生命式の短編集を何冊目に読むかで好みが枝分かれするだろう。

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2025年08月24日

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SFかなって思うほど独特な作品。少子化や世界的な食糧難が進み、合理性を突き詰めるとこんなことあるかもねって気がして面白い。

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2025年08月09日

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倫理的や感覚的に理解しえない世界観だけど、何百年先ではありえる世界なのではないかと思えてしまう不気味さにゾクゾクした。とても好き。

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2025年07月20日

購入済み

ハマってる

コンビニ人間を読んですっかり虜になった。そしてこの作品。ダークなのかシュールなのか。この絶妙なバランスはなんなのか。

#萌え #共感する

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2025年05月20日

購入済み

今まで読んだ小説の中で1番好きなレベルでした。
村田沙耶香さんの小説は好きで何冊も持っていますが、彼女の独創的な思想と文章を楽しめる作品でした。個人的には3つ目の話が好きでした。タイムリーに食の相性について考えていたので笑ってしまいました笑

#アガる

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2025年01月30日

Posted by ブクログ

消滅世界を読み、そのままの流れで読んだ。
同じような世界観を持っていたが、飽きることなく読み終えた。
結構昔に読んだから詳細は覚えていないが、面白かったことは覚えている。
多分、藤本タツキの庭には2羽ニワトリがいたと似てる気がする。

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2025年12月08日

Posted by ブクログ

自分は短篇集に少し苦手意識があるけれど、好きになりたくて色々読んでみている。
苦手な理由は、同じ本の中で刺さる篇と刺さらない篇が同時に存在していることに違和感を感じちゃっているからだと思う。
短篇集が好きな人も、自分と同じように合わない物語があるのかな...

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2025年12月04日

Posted by ブクログ

昔はおかしいとバカにされたり、
けなされたりした事が、
時代が変わって、当たり前になる。
自分の人生これの繰り返しだったなぁ。
何故かその時は受け入れられず、
10〜20年経つと、時代が追いついてくる。
周りがその話題で盛り上がっていても、
あの時散々けなしてたクセに、調子のいい奴ら!
と腹が立ってしまう。

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2025年12月04日

Posted by ブクログ

自分は正常な人間だという思いが揺らぐ短編集。
それぞれの世界観での常識と、それから逸脱した人々の話で構成されており、その食い違いようと現実の価値観との違いにいい意味で気持ち悪さを感じる。嫌悪感さえ感じるのに、読まざるを得ない感覚に襲われる。

「パズル」と「街を食べる」が特に異様に感じた。正常は発狂の一種というが、こうなるくらいなら、正常に発狂していたい。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

まずはこの本を読む際は「気分が悪くない時」「朝イチ」「食事した後」という条件が一つでも当てはまっていれば本当におすすめしない。定期的に村田ワールドに触れたくなってしまう私はこの「生命式」も楽しみにしていた。が、朝の電車で読んでいたことと朝食べたものと表題作が強烈だったことが重なり本当に気持ち悪くなった。しかし、村田ワールドは本一つで体の調子を変えることができるので中毒性がある。吐き気を催すような短編も多くあるなか、受け入れがたい世界を淡々と描いている面白い作品も沢山詰まっている。村田さんの作品は常識を覆す作品が多い。個人的には「素晴らしい食卓」が好きだった。笑う描写ではないのかもしれないが、それが普通に描かれているので面白くて仕方がなかった。
『世界99』が好きなのでそれに似た「孵化」と「ポチ」も面白かった。「孵化」は『世界99』の主人公空子と全く一緒でトレースしている主人公で「ポチ」はポチと呼ばれるよく分からないおじさんはピョコルンを思い出させるキャラクターだった。
『生命式』も「常識とは何か」を問いているような作品だった。ただ、読む際は気分が悪くなることを覚悟した上で読んでもらいたい。(良い意味で)

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2025年11月17日

Posted by ブクログ

文学史上最も危険な短編集!
癖強猛毒短編集と噂の今作。
村田沙耶香さんは初めて読みました。
まず、最初の2作「生命式」「素敵な素材」に面食らいました笑
葬式ではなく、故人の肉を調理し皆で食べる「生命式」
その場で気が合った男女は、受精しに行くというぶっ飛んだ世界…
「素敵な素材」の世界は、家具やアクセサリーに、髪や皮膚など人間の素材が使われているものこそが、最も効果でサステナブルという、これまた今の世の中では考えられない世界線。
読んでいて、まるで自分がこの異世界に入ったかのような奇妙な感覚になりました。
インパクトにおいてはこの2作がダントツでしたが、続くお話もとても面白かったです。
「二人家族」では、性格が正反対な二人の女性が、「お互い結婚しなかったら一緒に住もう」という、誰もが言いそうな約束を実行し同居していたり、とにかく街に生えてる雑草を食いまくる「街を食べる」と言う話があったり、「ポチ」という、おじさんをこっそり山奥で飼っている小学生の話が入ってたり…!
飽きることなく、奇怪さてんこ盛りの内容でした。
どの話にも共通しているのが、その世界の”正常”に対していろんな形で抵抗しているところです。
特に、最後の話の「孵化」は、コミュニティによって5人のキャラクターを使い分けているハルカの話ですが、成長するにつれ、普通人は多かれ少なかれ色んな面を環境によって使い分けます。
しかしハルカはそのことに対し「本当にこれでいいのか?」と自分を異常と捉え続けるのです。
皆、悩めることは違うのだなと、猛毒な設定の多い中読んでいて学びになりました。

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2025年11月01日

Posted by ブクログ

人間が別の生物や寧ろ無生物のように、ビルや機械が生き物のように感じてくるのはなに!!!やっぱ村田沙耶香すごい、、

生命式
山本の塩角煮、山本の団子のみぞれ鍋、山本のカシューナッツ炒め、山本を食べたり、台所から追加の山本を持ってきたり、
出来るだけ想像しないようにしているのに、滲み出てくる人肉のイメージに嫌悪してしまう

素晴らしい食卓
途中から笑いが止まらなくなった

街を食べる
これは自分のど真ん中の純文学に感じた
中国ではちょっと躊躇われるが日本に帰ったら、道端の野草を調理してみたくなった
「飼い猫が野良猫になるときって、こういう気持ちに」ってめっちゃしっくりきた
突然ひらがなで埋め尽くされるところゾワっとした

孵化
人やコミュニティによって異なるキャラを演じる
このことは自分も中学生くらいの時から思っていた
誰しも親、恋人、学校、仕事場でのキャラクターは同じでないと思うが、度が過ぎるとこの主人公のようになるのか

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2025年10月14日

Posted by ブクログ

村上春樹を読んだ時に似た気分の悪さを彷彿とさせた。心地よい気分の悪さ。
生命式、素敵な素材については、意外にも共感できて面白かった。

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2025年10月03日

Posted by ブクログ

体調良くない時に読むとちょっと気持ち悪くなる感じの内容だな〜と思ってたけど、結局それは自分の中のあたりまえと違ってたからなだけなんだなと解説まで読んで思った

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2025年08月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

常識を疑う小説がたくさん入った短編集。私は「孵化」が一番好きだった。誰しも本当の自分ってどれだろうと思ったことはあるはずだが、そのブレを究極まで突き詰めた女の子のお話。結婚するために新たな自分を生み出して、この子はこれから先また違うキャラクターを演じなければいけないのかと後味が悪かった。

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2025年07月28日

Posted by ブクログ

まず最初に、衝撃
食人に対しては、異常行動だったり、歴史上、宗教的な行動だったりで、実際にあり得ることであっても、嫌悪だったり、プリオン病や感染症などの恐れだったり、今の私には、無理
 けれど、人を素材として見れるか?
例えば、臓器移植、亡くなった人の臓器を必要な人が貰う
亡くなった人の骨から、焼成して石を作ってアクセサリーや位牌に当たるものを作る
刺青のある皮膚を展示してるのも見たことがある気がする
これらに肯定的か否定的かは、個人の感覚だと思う
こうやって考えたら、常識ってなんて曖昧で、他者と齟齬を産む言葉なんだろう

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2025年07月15日

Posted by ブクログ

短編小説集なので、ものによっては好き嫌いが激しい気もするけれど一貫した作者の考えが見えるので面白い。「食べる」という行為が大きな意味を孕んでいそう。

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2025年07月11日

Posted by ブクログ

本書を手に取った理由は立ち寄った書店での村田沙耶香フェア!

コンビニ人間を読んだ時に面白いと思ったが、その後遠ざかっておりました。


最初に申し上げたい事は、本書が村田沙耶香さんの初読み作品になると、なんだコレは!
だったり、永久的に忌避してしまう可能性があるので、気を付けてください。

特に生命式と素敵な素材!
現代の倫理観は通用しません・・・


生命式:人が死んだら死んだ人の肉を食べ会場で出逢った人と交尾する。

素敵な素材:死んだ人間の素材を生かした服やアクセサリーが高級品とされる。

素晴らしい食卓:妹が10年以上患っている厨二病、妹の婚約者の両親に前世の魔法都市ドゥンディラスの料理を出す事に!!?

夏の世の口付け:わらび餅・・・

二人家族:他の作品が強烈すぎてマイルド、同性愛者ではない女性同士が、一緒に暮らし一緒に子育てした人生。

大きな星の時間:眠れない世界に憧れる

ポチ:犬は噛み付くモノです・・・

魔法のからだ:少女達の心と性、表現はドロっと爽やか!

風の恋人:風太の正体は・・・

パズル:早苗さんのように人を見る事も大事、そんな人に愛されたら・・・

街を食べる:だいぶ柔らかくすると、有川浩の植物図鑑。一瞬、蒲公英 食べたいと思った

孵化:言われてみると日常生活においてもキャラは使い分けてるよね!?どこまでか許容範囲なんだろう?


どの短編も設定の倫理観が歪んでいて歪みすぎると気持ち悪いとなってしまうのかも・・・


しかし、以前より興味のある作家になった!




因みに、世にも奇妙な物語としてはアリかと思います。

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2025年06月13日

Posted by ブクログ

「そのときどきの、ちょうどいいところにいられるひとは正常で、そこからこぼれ落ちたら、狂人のスタンプを押される。」という表現に納得。
なんとなく、いつも「ちょうどいいところ」の隅っこにいるような気がしてしまっているのは、狂人の一歩手前なのか。むしろ「ちょうどいいところ」ににこやかに居られる人のことを少し怖いと感じてしまうのだけど、既にもうおかしくなっているのかもしれないな。

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2025年06月12日

Posted by ブクログ

全体として、自分が信じていたもの、頑なにしがみついているものなんて、脆くて存在すらしていないものかもしれないと滑稽に思わせてくれる話が寄せ集められていた
もっともらしい概念はそのパッケージが強固なものとして先に作られそこに中身を詰め込んでいるだけなのに、中身が先に存在していたように錯覚してしまっている。概念の生成に精を出し、その消費で束の間の安寧を得る。
意味わかんない短編もいくつかあったけど。


生命式
本当に正しいものなんてなくて常識や倫理なんていとも簡単に変容しうるのに、古来からこれが正解だった、もしくは、今出ている結論が最適解だ、みたいな態度に異議を申し立てたくなる気持ちに大共感
真実だとか正解だとか存在しなくて、存在すると表現するとしてもそれは一瞬一瞬に固有のもので、そうしたものの実存に重きを置きすぎている蜃気楼のような世界で刹那的な楽しみを得ていきたいという山本さんは清々しくて朗らかで好きだ

素敵な素材
人由来の装飾品嫌いな性質に父との不仲が関与しているのでは、という考察が皮肉が効いてて結構好きだった
倫理とか普遍的な価値観として扱うのではなくて、何を「残酷」と表現するのかも好き嫌い、快不快で表してしまえば(社会的に認められているものを快と見做しやすい性質なども、大勢の人の意見にフィットするのが心地よいかどうかという好き嫌いの範疇におさめる)、お互い棲み分けて争わずにいられそうだけども

素晴らしい食卓
全部生ゴミって言ってるの好き

街を食べる
田舎にあるいわゆる自然が本来あるべき自然の姿、といったような、ラベルがついているものを無意識に信頼する感覚が削ぎ落とされていく過程が気持ちいい
アスファルト、建築物、機械など人工的と言われる物に囲まれている都会の環境を田舎の自然と完全に区分けして考えているが、何の違いがあるか。
ただ一つ違和感あったのは、
記号を取っ払って全てを野生のものと感じるとして、地面に生える雑草を選りすぐりするのはまだ区分けする習慣から完全には解き放たれていないのでは?
記号化された街の姿、パッケージに入れられた食物を敢えて選んで食べる姿も一形態の自然じゃない?
言語も含めて記号化されたものに馬鹿正直に従っている感覚は不意に気づくととても不思議で、世の中がレゴ住宅みたいに感じられてくる。好きな話だった。
大多数の人と主人公の違いはなんだろうか
レゴ住宅に住んでいるのを外から見ているか、住宅の中でそれと知らず、自らを疑わず、与えられたラベルを信じ続けるかの違いなのか

孵化
ハルカほどではないにしても、対面する相手によって違う自分で対応し、その場の流れに一番即応する人格を作り出している自覚は多少ある
人生経験を積む中で、自分という対話相手に「あなたはこうあってほしい」「こうあるのでは?」という期待や予想を抱かれ、それに呼応するように自分はこういう人間かもと思うようになっている側面の方が大きい
自分が自分に監視されている感覚
「自分」が自然に思い込んでいる自分像、そしてそれが妥当な文脈を生み出しているのは自分なのに、それでいて本当はどういう人なんだろうと自分を疑い、その度に「綺麗なものが本質だと落ち着かない」汚いものを信じる性質が相俟って、自分がどんどん汚くなる
6人目のハルカを作り出して、それを疑っては、より妥当性の高い素の人格を作り出して、どんどん冷たい人間になっている
マサシへの6人目のハルカの語り口調が、もっともらしい陳腐なストーリーに対する皮肉maxでユーモラスでした
最後マサシがマザーになってしまったところが、そうくるか!と鳥肌。呼応に呼応を繰り返して作り上げられた最終産物を真のものと思う性質もありそう
基本的に真実の追及に関するものはだいたいアホらしい

きれいなものが本質だと落ち着かなくて到底真実だと思いきれないから、汚いものを信じる。この言葉がすごく腑に落ちた。
私がイヤミスの方が読んでいて安心するのも、善意だとか倫理だとかは何か綺麗で神聖な本質に根差したものではなくてただの学習とかご都合主義にすぎないんだっていう考えに納得するのも、全部この性質が根本にあるからな気がする
そう思うとフラットな目線で物事を見ようとして、今度は良い性質を真と思う方向に偏る
その調整をおこなって最終的には中庸で凡庸な、最初から何も考えていないのと同じような意見にいきつく。母数を増やせば誤差が収斂されていくように、考えれば考えるほど平均に近似され、均質化されていく。考えたってどこにも行きつかず、砂漠を地図なしで歩いて同じところぐるぐるしているようなものなのに、それが一番の暇つぶしだから困ってしまう

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2025年06月14日

Posted by ブクログ

村田さんらしい短編集でした。
どれも独特な世界観。
どの作品を読んでも思うのは『あなたが思っている常識(正常)は世界が変われば非常識になる』ということ。
自分が思っている正義は誰かの不義になっているかもしれない…という恐ろしさ。

作品中の主人公の変な考え方を学ぶことで、こういう価値観の人もいるかもしれないなと改めて考えることができる。
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今回の短編は他の作品の元ネタみたいなところが多かったです。特に最後の『孵化』は『世界99』そのもの…。ピョコルンは『ポチ』のバージョンアップかな?…と思ったり。

『魔法のからだ』も村田さんらしい性の考え方。アンソロジーエッセイの『私の身体を生きる』に通ずると思った。

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2025年09月18日

Posted by ブクログ

 「生命式」(せいめいしき)というのは、(このお話で言うと「30年ほど前の」)「お葬式」に対応する言葉です。
(丁寧・美化の接頭辞を付けると「お生命式」となるのでしょうか?w)
(ちょっと五条院 凌(ごじょういん りょう)さん(ピアニスト)みたいw)

 さて、本文では、こう説明されています。
「生命式とは、死んだ人間を食べながら、男女が受精相手を探し、相手を見つけたら二人で式から退場してどこかで受精を行うというものだ。」
 本書の表紙のイラスト(顔の部分が咲き誇ったお花になっている人が、「心臓」にナイフとフォークを入れようとしている絵)が象徴的です。

 「生命式」がスタンダードになっていった時代背景は、「人口が急激に減って、もしかしたら人類はほんとに滅びるんじゃないか、という不安が世界を支配し、「増える」ということをだんだん正義にしていった。」ことにあるとしています。そして、「セックスという言葉を使う人はあまりいなくなり、「受精」という妊娠を目的とした交尾が主流となった。」そうです。

 なので、お話の始まりから、
「総務にいた中尾さん、亡くなったみたいですね。」
「中尾さん、美味しいかなあ」
「池谷さんも行くでしょ? 生命式」
「どうしようかな~。(中略)最近胃もたれしてて、それに生理だし。」
 といった言葉が並びます。

 そして、「生命式」に行ってみると、中尾さんの奥さんが、白菜やエノキと一緒に味噌出汁で中尾さんを茹でて調理してから、こう言うのです。
「じゃあ、これから中尾の生命式を始めます。皆さん、命をたくさん食べて、新しい命を作ってくださいね」

 身の毛もよだつ、とは、こういうことでしょうか?
読者は小説の中で、異常な慣習が当たり前になった社会の描写にゾッとします。

 ここで気持ち悪くなって読むのを止めても良いのですが、ひとつ考えてみましょう。
「なぜ、人肉を食べてはいけないのでしょうか。。。」
「牛さんや豚さんや鶏さんは食べても良いのに、なぜ人を食べてはいけないのでしょうか?」と。

 タブーを超えた(小説)世界に身を置くことにより、現在の価値観を改めて考えさせられる。自分の文化と相容れない他の文化の価値観に気付くきっかけになるかもしれません。そうすれば、戦争や紛争を回避する思考が芽生えるかもしれません。
 相手を食べる目的以外に殺す動物は、人間だけだそうですよ。

 ゾッとする設定の小説から「学び」を見つけた気がしました。(あくまで個人の感想ですが)

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2025年08月28日

Posted by ブクログ

途中読まなかった話もあるが、今の世の中と全く異なる世界で気持ち悪くも、とても興味深く、楽しかったです。

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2025年07月28日

Posted by ブクログ

コンビニ人間以来の村田沙耶香さん。

故人を食べる、亡くなってから素材として活用する、花や虫を食べる、周りの人と呼応して性格をりあげてく主人公…

初っ端から今の常識とは違うことが当たり前の世界に連れて行ってくれる本だなあと。


【孵化】の性格のない主人公が 世界99 と関連してるしそちらも読むのが楽しみ。
発想がさすがのクレイジー沙耶香さん(褒めてる)でした。

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2025年06月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「生命式」がダントツに面白く、ほかは設定が面白いけど短すぎてあっけない。
「山本はカシューナッツと合うんですね」こんな文字列を目にすることがあるとは思わなかった。料理の描写が丁寧で湯気とカトラリーの音と匂いが目に浮かぶ。うっかり食欲がわくところでした。あと「素晴らしい食卓」のそれぞれの料理のぶっ飛び方と登場人物の変なテンションが面白く、読んでてニヤニヤしてしまった。村田沙耶香さんの「食べ物」小説は危険すぎるwww

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2025年04月22日

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