あらすじ
第28回小学館ノンフィクション大賞受賞作。
日本有数のドヤ街として知られる東京・山谷。
この地で2002年に民間ホスピス「きぼうのいえ」を創設した山本雅基氏と妻・美恵さんは、映画『おとうと』(山田洋次監督)のモデルとなり、NHK『プロフェッショナル』で特集されるなど「理想のケア」の体現者として注目を集めた。
ところが、現在の「きぼうのいえ」に山本夫妻の姿はない。
山本氏は施設長を解任され、山谷で介護を受け、生活保護を受給しながら暮らす。美恵さんは『プロフェッショナル』放送翌日に姿を消し、行方が分からないという。
山本氏は、なぜ介護を担う立場から受ける立場になったのか。
なぜ美恵さんは出て行ってしまったのか。
山本氏の半生を追う中で、山谷という街の変容と、特殊なケアシステムの本質を見つめた、第28回小学館ノンフィクション大賞受賞作。
選考委員絶賛!
●星野博美氏――「助ける側と助けられる側の境界線が曖昧な、山谷の特異な寛容性を見事に描ききった」
●白石和彌氏――「人間を見つめるとは、どういうことか改めて勉強になりました」
●辻村深月氏――「ユーモアを交えつつも、何かや誰かを否定するスタンスを決して取らないのが素晴らしい」
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
山谷という地区について、全く想像していなかった視点から描かれていて新鮮。一気に読ませる本なのだが、しばらくすると、何とも云えない悲哀に襲われる。限界まで堕ちることで差し伸べられる手。コミュニティの在り方、プライドと支援、公共と私、ありとあらゆる「生きること」に関わる問題を突きつけられる一冊。
それにしても、本当に、色々な人がいるのだ。だから、世界が成り立ってる。
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帯のノンフィクション大賞選考委員3名の選評どおり。「山谷の特異な寛容性を見事に描ききっ」ているように感じられた。山谷の福祉の今について知ることができる良質なレポート。
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東京のドヤ街・山谷をテーマにしたルポ。お目にかかったことのある方々がけっこう
出てくる。
狂言回し的な人物は、かつてホームレスや行き場所・居場所のない人のためのホスピ
スとして「きぼうのいえ」を立ち上げ施設長を務めていた山本雅基さん。その山本さ
んが、いまでは統合失調症をかかえ生活保護を受け、山谷のアパートでケアを受けな
がら暮らしているというドラマチックな幕開け。雅基さんの志ひとつと妻・美恵さん
の支え、二人の出会いのケミストリーでできたような「きぼうのいえ」だが、美恵さ
んは出奔し、もともと不安定ぎみだった精神面に拍車がかかったこともあって、雅基
さんは「きぼうのいえ」の要職を外れいまに至っているという。
ドラマチックでスキャンダラスにもとらえられかねないけど、著者の筆はそこから山
谷の本質らしきものを導いていく。それは、山谷ならではの地域ケアシステムともい
うべきものの存在。それぞれの分野・活動領域からホームレスなどを支援する複数の
団体(きぼうのいえ、訪問看護ステーションコスモス、山友会、友愛会、ふるさとの
会など)が連携することでなされるもの。数々のケースにぶつかりながら自然発生・
発展的にかたちづくられてきた(かたちづくられているといっていいのか……)。
では、どこか別の地域でまねできるかというとそうはいかない。山友会の無料クリ
ニックで長年診療を行っている医師の本田さんが言うように、山谷という狭い地域内
だからこそ回るものでもあろうし、こうした密な連携は公的な制度上ではできない
し、そこまでやっては制度化の数少ない利点である「広くあまねく」は実現できない
と思う。要は、はなはだ不安定で心もとないけれど、山谷に活動する人々のつながり
によって成り立っているシステムなのだ。
実は、山谷で支え手となっている人たちも流れ着いたり、救いを求めてたどり着いた
という人たちが多いと著者は書いていて、それもわかる気がする。共依存関係に支え
られたエリアのような面があると思う。だから親身になって濃密な支え方ができるん
じゃないだろうか。
雅基さん・美恵さんだってそういう人たちだった。山谷で生かされたから「きぼうの
いえ」のような活動ができたのだろう。雅基さんが著者に語った「現代はファミレス
(ホームレスじゃなくてファミリーレス)」って言い得ていると思った。雨露をしの
げる場所(ホーム)があっても満たされないものがある。必要なのは(血のつながり
なんかどうでもよくて)、つながる人(ファミリー)なんだといっているのだと思
う。いわば、山谷は大家族のようなもの。個を尊重するだけの距離感がありながら、
いざとなれば助けてくれる、助け合えるような関係性がある。
本書の個人的な白眉は、雅基さんをおいて出て行ったことになっている美恵さんを探
しあて話を聞いているところ。メディアに頻出して理想形のようにいわれる裏で、周
りの人に知られないようにしているうちに(周りの人が知ろうとしないでいるうち
に)、限界が来ていたのだなと思った。それを乗り越えるには、二人のケミストリー
は起きなかったし、人の手を借りることができていたらどんなによかっただろう。
「きぼうのいえ」を出ていったときの「もう魂に嘘はつけません」という書き置きの
意味がわかった。美恵さんがひっそりと、ちゃんと生きて暮らしていることがわかり
本当によかった、安心した。
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小生も一度所用があり山谷に行ったことがある。いつの頃か忘れたが三、四十年前の昼頃駅から歩くうち、あっ此処が山谷なんだと気がついた通りには歩く人は殆ど無い。職業安定所に近づいた時路上で酒を飲んでいる人達が居た。多分今日の仕事にあぶれた人達なのだろうと思った事があった。今となってそんな体験を本書を読んで思い出した。
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衝撃的なノンフィクション作品。東京・山谷のドヤ街で民間ホスピス施設を経営していた夫婦の物語。主人公の人生はある意味スキャンダラスでもある、それがかえって不器用ながらも真摯に生きてきた証なのかもしれない。
主人公である山本の生き様を描くことで、山谷という街の移り変わりを、生活保護や福祉活動における実態が伝わってくる。著者と取材対象者、そしてテーマが必然的に巡り合った稀有なノンフィクション作品だと思う。
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路上生活者の最期を看取る「きぼうのいえ」設立。“山谷のシンドラー”として持ち上げられたその人のその後。妻の失踪、統合失調症の発症、理事長解任、生活保護の受給。支援する方からされる方へ。谷底へ落ちる手前で受け止めてくれたのもその街。…日雇い労働者が集まる”寄せ場”。簡易宿泊所が立ち並ぶ”ドヤ街”。山谷という地名は今はなく通称のみ残る。台東区の北東部、南千住駅から徒歩7分。北の玄関口上野からもさほど遠くない。散歩にふさわしい街かどうかは知らない。ただ、ここで繰り広げられている物語は案外身近なものだと認識する。
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山本雅基さんのことは、朝日新聞の記事で知っていた。なぜ、福祉の担い手から受け手になったのか、驚きながら読み始めた。
精神面の弱さをかかえなから、奥さんと二人で
進んでいったことに心を打たれた。ひたむきな純粋さで周囲が見えなくなったのだろうか?
山谷の地域ケアシステム、素晴らしい。純粋なボランティア精神をもった人が集まっているのだろう。
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一人の熱い想い行動が山谷という地域を支えていく。様々な弱みを持つ人を支えることはとても大変だと思う。
しかし、山本さんにも弱さがあった。それを補うために勢力的になっていたところもある。
制度だけでは支えられないこともあり、人それぞれのオーダーメイドをどう実践していくのか。
難しい!
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少し気持ちが暖かくなると同時に何処か、虚しい、寂しいけど気持ちになった。福祉の難しさ、家族とは?、対人援助とは?考えさせられる。ルポとしては、素晴らしい!
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山谷でホームレス労働者(元労働者)を助けるNPO「きぼうのいえ」を夫婦で創設し、その後、妻は書き置きを残して失踪し、夫は、アル中や統合失調症などで、理事の座を追われた山本夫妻を描くルポ
抑えた筆致が心にしみる。
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小学館ノンフィクション大賞受賞作。
山谷、という場所は、私にとって遠くもないが近くもない場所である。
その物騒なイメージとともに、どこか下町のあたたかみのようなものも感じられる不思議な場所だ。
そこにボランティアや支援がどうやって根付いていったのかを、一人の男の数奇な運命とともに辿る。
純粋で、まっすぐで、でもどこか壊れている……そんな男がつくった、いやそんな男でなければつくれなかったのかもしれない、ある意味「奇跡のような場所」が、山谷なのだろう。
ここに出てくる、他人の幸せをとことん考え抜く支援の方たちには、ほんとうに頭が下がる思いである。
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山谷の共助・互助の仕組みと施設を立ち上げた主人公その人が、愛情と、その元になっているかと思われるような病的気質と不遇・不器用さ。具現化のパワーは発想の自由さと執着、拘り。全残スマートでも格好良くもなく、現状は幸福でもない。意外性が興味深かった。
Posted by ブクログ
たまたま障害者界隈のノンフィクションが続いた
不思議な本だ
きぼうのいえすごいという本でもなく
山本夫妻すごいという本でもなく
山谷のシステムが紹介されるけれどもそれがすごいという本でもない
山本夫妻という不完全なところのある(みんなそうだ)人間が、がんばって衝動的とも言えるエネルギーで作ったきぼうのいえ
その不完全さや夫妻がいなくなってしまったこと、きぼうのいえのシステムは残っていることになんだか映画的とも感じる感動があった
予定調和でない物語の面白さというか
妻が出ていったことも、夫妻やきぼうのいえを取り巻く状況が丹念に取材されることでなんとなく納得がいく
筆致は全く違うが、静謐な小説のような印象を持った
福祉をテーマにしたノンフィクションなのに読後感が全く予想したものと異なり、それが心地よい
追記
最後にボロボロの山本さんが言うファミリーレスは鋭いと思う
ものとしての家でなく家族あるいは家族のような人間がいないことが問題なのだろう
Posted by ブクログ
民間ホスピス「きぼうのいえ」を創設した山本雅基さん夫妻の活動を中心に、「きぼうのいえ」創設の経緯、活動、山谷ならではの地域福祉活動などを描いたノンフィクション。
統合失調症を主とした精神疾患が影響し、「きぼうのいえ」の活動からは退からざるをえませんでしたが、山本さんの人生そのものが山谷にあったのだなと思います。そして、美恵さんの葛藤。最後の美恵さんのインタビューから山本さんや「きぼうのいえ」に対する思いが伝わってきました。
「ファミレス(ファミリーレス)」が問題になるという彼の考えにも納得
Posted by ブクログ
民間ホスピス【きぼうのいえ】を創設した山本さん夫婦の活動を中心に描いたノンフィクション。山本さんが精神疾患の影響で活動ができなくなるという思いもよらない展開が待っていた。