【感想・ネタバレ】脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論のレビュー

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Posted by ブクログ

脳の仕組みを解明しようとする研究者の著作。この本が面白いのは、作者がアカデミック出身ではなく、パームコンピューターで大成功した起業家であること。ビジネスで大成功を収めてから、元々関心あった脳の研究所を設立し、打ち込んでいるという変わり者。だからかもしれないが、内容はとてもわかりやすい。人工知能がもたらす変化なども、シンギュラリティを恐れる必要はないし、映画のような機械の反乱などが起こらないことをわかりやすく説明してくれる。脳を機械に接続して保存したものは、人間なのかという問いや、地球外生命体とのコンタクトまで、脳を題材にいろいろなテーマを取り上げていて、興味が尽きない。

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2024年04月14日

Posted by ブクログ

前作(「考える脳考えるコンピュータ」)を読んでいないと深く理解するのは難しいと思われる。

前作が日本で発売されたのは2005年。当時、ものすごく興奮して読んだ覚えがある。そして、前作の帯には「10年以内に実現する真の知能を持つ機械」と書かれていた。

それから17年。
今作を読んでわかったのは、脳のメカニズムを理解することは想像していた以上に難しそうだということだ。

 前作では、脳のメカニズムを理解するには柱状構造(本作での皮質コラム)と新皮質の六層構造を理解することが必須だと指摘されていた。
 本作でもその課題意識は引き継がれているが、結局は「コラムはこのような機能を持っている筈だ」という推察にとどまり、どのようにそれが実現されているのかは全く書かれていない。というより、理解するのにかなりの時間を要するという見通しのようだ。

今流行りのGPT-4の能力は凄いが、筆者が指摘する通り、深層学習ベースのAIでやれることには限界がある。
 そして、その先に行くためには脳の理解が必須となるが、その道のりは想像していたよりずっと長そうだ。GPT-4がこの道のりを短縮してくれるんだろうか。

脳のメカニズムが解明されることを誰よりも願っているジェフ・ホーキンス氏が生きているうちに、この謎が解けると良いなと思う。

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2023年06月04日

Posted by ブクログ

脳が情報をどのように認識しているのか、理解できた。そして、それを理解した上でのこれからの時代がどう変わっていくのか、そしてその変化に対してどのような考え方を持つのか私達ははっきりさせるべきだと思った。

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2023年01月30日

Posted by ブクログ

完全文系の私には理解できない部分も多かったが、情報量も多く文才もあってか読みやすく良い本でした。
最後の将来予想はまあ頭の良い人の時間軸やスケール感は凡人には理解できない部分もあるので、そんなこと考えてるんだなあという以上の感想を持てませんでした。

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2024年03月20日

Posted by ブクログ

新しい脳と古い脳の構造の話が興味深かった。
本書で肝となるのは座標系の話。1000の脳理論。脳は予測する。記憶には動作が伴う。
誤った信念、維持するために直接の経験だけを信頼する必要がある。
脳の教科書を片手に読むと理解が深まりやすかった。

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2023年11月02日

Posted by ブクログ

元実業家で脳科学の研究者である筆者が人間が物事に対処するときに脳では何が起こっているのかを
知的処理を司る新皮質領域を中心に平易な言葉で解説する.

ブラックボックスだった人間の脳の構造を説明する理論的な枠組みがわかりやすく説明され,その理解が深まるとともに知的好奇心が大変刺激された.

個人的な話に落としてしまうと
日々仕事やその他領域で感じる自分の知識不足やスキル不足は先天的な問題ではなくこれまでの経験・学習が故に,脳でモデルが作られていないだけに過ぎないんだと腹落ちすることができた.ウダウダ言わず,やっていきましょう.

ーーーーーーー

1000の脳理論
「考えることは一種の動きでもある」

爬虫類脳、古い脳→砂糖、ケーキが食べたい
哺乳類脳、新しい脳、新皮質→ダメ。本に書いてある。医者が忠告している。

古い脳がセックスの進化論的目的を「認識」していたらコンドームを使用する行為は耐えられない痛みを伴うだろう。

利己的な遺伝子(古い脳)に抗うことができるのは人間の大脳新皮質の誇り

新皮質は哺乳類のみにある。音楽、数学、工学...知能的な行動には新皮質の関与が不可欠。人間は特に新皮質が大きい。
新皮質は筋肉とは直接繋がっていない。→行動をとるときは古い脳に指示を委託。

筆者のキャリアの凄さ。
望む研究者キャリアがない→当座のしのぎとしてITで成功→金に縛られない研究者として本格的に参画。
年単位の行動、圧倒的行動量(論文読み漁り、起業)、揺るがないベクトル。

脳は常に各種の入力から世界はこうなっていると予測している。だから私たちはあらゆる物事に対応できるし意外なことが起きたらそれに気づける。そしてその結果がモデルの更新につながる。

学習とはニューロン間に新しい接続をもたらすこと。
予想外の入力は多くのにニューロンを「自分の出番か?」と活動的にさせる。

新皮質は世界を予測するための座標を持っている。
コーヒーカップとそれを持っている手、指の相対位置

座標系=知識を整理する方法=非直接経験、言語や宗教も取り扱い

素数や政治といった物理的ではなく感知できない概念はどう理解しているのか?
→概念的な座標系を作る
→例え話のうまさは一見関係がなさそうなものにニューロンの発火パターンの類似を見出せること?

場所法
→何かを記憶したいとき、記憶したいものを家のあちこちに配置。
→頭の中で家のあちこちを歩く姿を想像すると記憶対象も思い出せる
→行動と記憶をリンク。いわゆる"体で覚える"

今のAIブームからは汎用人工知能はできない。
知識をコンピュータ上でどう表現するかという問題を避けて、統計やデータの多さに頼っているから。

ニューラルネットワーク、
写真に猫がいるかの分類はできても「猫に分類されてた画像に似てるから」以外持つべき情報がない

生命の謎が科学や生物学によって徐々に解明(絶対的なもの、不可知的なものから相対的なもの、分析可能なものへ)になったと同じく、意識についてもそのようなパラダイムシフトが将来起こる。

新皮質は世界のモデルを学習する。しかしそこには目標も価値観もない。危険を避ける、子孫を残すといった目標をもつ古い脳と繋がっているから新皮質にもそれがあるように見えるだけ。
→人間の知能システムを模倣する知能機械は全く人間と同じする必要はなく持たせる価値観や目標、機能はカスタマイズ可能

今のAIが解決するものは静的問題
・経時変化しないもの
・継続的学習を必要としない

機械知能ができた場合,それが人類の脅威となるかについては筆者はNoの立場
・機械にそのような用途を組み込むことと機械自身がそのような結果を自律的にもたらすことは別.
・機械知能が人間の知能を上回り機械知能自身がフィードバックループを回す知能爆発は起こり得ない.なぜなら実世界のインプットや
 継続的学習という点で物理的な障害にぶつかるから.
・機械知能の株が爆発的に増えることも物理的な制約や機械自身にそのような目的志向を持たせないとそもそも始まらないという点で脅威となり得ない.


「地球は平ら」といったトンデモ陰謀論を信じている人:
脳のモデルがそのように構築されてしまっている.モデルを否定する主張は全て「信用できない」「捏造だ」と棄却.
(モデルを更新しない)

ウイルス性の誤った信念
・直接経験できない
・反証を無視する
・何かしらの大義名分のもと、ウイルスのように拡散させる
 例:良かれと思って、権威者(空想)への反発


五感からの外部入力、思考による内部入力(活動電位)→活動電位発生、ニューロン発火。
ニューロン発火のパターンが特定事物と思考対象の紐付け=本書における"座標系"?

座標系は物体の位置や方向、地図といった表現通りの領域で役割を果たすのはもちろんだが"思考を整理する方法"として民主主義や数学、哲学といった抽象的な概念すらもカバー

抽象的概念を取扱い高度な現実の問題を解決できる人間=座標系の広さ、深さ=脳の大きさ、構造?

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2023年07月08日

Posted by ブクログ

人間の脳の約7割は新皮質で形成されている。新皮質は一見単純なコラムの大量コピーで形成されているが、それによって柔軟な働きをする。脳は世界をこのようなシナプスネットワークの発火のパターンでモデルを構築し、常に予測をすることによって効率的に高次の処理を行える。また、座標系を用いた知識の形成を行うことによって身体と、常に変化し続ける外環境を認識し、制御することができる。現在の機械知能にはこのような新皮質の構造の一部しか実現できておらず、また古い脳が作り出す生物学的な動機がないという点が最も異なる点だと述べている。

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2023年04月28日

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# 人間の脳の不思議な能力に感服した一冊

## 面白かったところ

- 原始時代を生き抜いた古い脳から生存競争に脅かされない今日を生きる新しい脳に成長した過程や、違いについて詳しく書かれていた点

- 「脳は座標系を用いて独自に世界のモデルを構築している」という主張からなる論理の展開が面白い

## 微妙だったところ

- 3部で地球や人類の生存戦略のようなスケールのでかい話が書かれていたが、当書とあまり関係がなさそうな話で面白くなかった

## 感想

脳には「古い脳」と「新しい脳」があると聞いたときに『ファスト&スロー』をすぐさま思い出したけど、似てる部分もあるし非なる部分もあるし比較しながら読み進めて面白かった。

脳内で独自の世界のモデルを構築しているから、目を閉じていても文字を打つキーボードがどんな形でどんな感じで打鍵するかがわかる。

すげえ当たり前のことなんだけど、改めて並べられた言葉をなぞるとわかる人間の脳の凄さに感服した。

ChatGPTというAIも台頭してきたことだし、技術的特異点がある日いきなり到達したときの考え方の見聞が広がったことはとても良かった。

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2023年04月24日

Posted by ブクログ

脳とは何か?
それはもちろんこのように文字を打ったり、言葉を操るなど知能と呼ばれる高等機能をつかさどる器官である。

が、それが物理的にどのように知能を生み出しているか?
と聞かれると、わからなくなる。

仕組み自体単純で、スイッチの入り切りの連続でしかないコンピュータについて同様に聞かれても頭を傾げるのに、生命である我らホモサピエンスについて聞かれると尚更である。

この本で扱うのは、そのような「人の思考や知能はどのように作り出されているか?」を問う内容。

本書の議案の審議は今後、歴史的発見の中で明らかになるとは思うが、そのメカニズムは革新的で面白い。

基本的な要素はコラムと呼ばれるニューロンとシナプスの繊維のようにした集合体である。これが人の新皮質には15万個ある。

これらの基本機能は座標を作る事。
つまり自分の位置と、周囲対象物との位置をモデル化する「どこ?」細胞と周囲の対象を形状や化学特性から解析する「なに?」細胞からできている。

この基本要素自体は古い脳の周囲の地図を作成する能力を基本としてコピーされたものである。

このように位置と、物のデータベースが脳内に蓄積されていくわけだが、この機能は科学、数学、政治、哲学といった位置座標とは関係なさそうな抽象概念を生み出す基礎となっている。
著者の論では、3次元、2次元の地図上を歩いて区別するように、脳内に地図を作り、その中にある場合分けの地図を作って、そこを歩くように思考をする。
(数学などは分かりやすい。方程式を解くときにまさしく地図を持って歩くように解いている)

このように場合分けと、その型というか法則のようなものを関連付けることで、地図を持って歩くように人は思考するようになったという論理。

完全には理解できなかったが、面白かった。
ただ、最後の2章、人類の滅亡可能性と宇宙関係は蛇足だったかなと思う。

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2022年12月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

古い脳(生物的な本能を司る領域)の周りに人間の知能を司る新皮質が発達している。マウントキャッスルの提唱する説では新皮質は微妙な差こそあれ、基本的には同じでニューロンやシナプス結合の差異により機能が分かれているに過ぎない。新皮質は世界のモデルを学習しており、ほの学習には座標系が使われる。人間は学習したモデルに基づき絶えず無意識下で予測を行っており、投票により不採用になった予測は意識される事はない。AIが人間を支配する事はなさそうである。なぜなら機械知能は新皮質をシリコンチップ等で再現するものであり、動機を司るより構造が複雑な古い脳を再現するのは技術的にも難しいし、やる意味がないからである。脳を完全に再現してアップロードするとして、その脳による意識はあなたなのか?違うだろう。脳を機械に結合する未来はあるかもしれない。

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2022年12月17日

Posted by ブクログ

神経科学の観点から脳がどうやって人間の知能を生み出しているか知ることができる。
人工知能を勉強する人にもおすすめ。

【概要】
●脳の古い部位と新皮質
●脳による世界のモデルの学習
●脳と機械知能の違い
●人類存亡のリスク

【感想】
●人工知能を勉強しながら、人間の脳も少しずつ勉強していたが、この本で人間の脳と人工知能の違いについて理解度が深まった気がする。
●特に、座標系の理論、世界のモデルの学習方法、脳と人工知能の違いについては、人工知能の限界を考えるための勉強になった。

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2022年12月11日

Posted by ブクログ

【はじめに】
著者のジェフ・ホーキンスは、パーム・パイロットを世に出したパーム社の創業者である。IT先端企業を起業し、一定の成功まで導いた間も、その頭の中にあったのは脳の仕組みの解明であったという。そして、経営から身を引いて研究の世界に身を投じた。自らの意識がどのように生まれ来るのかという謎はかくも人を惹き付けるものなのである。

【概要】
脳は世界をモデル化して予測している、という考え方は現在の脳神経科学の世界では主流となっているように思う。中でもフリストンの自由エネルギー理論などが有名だ。本書でも、予測こそが脳の新皮質のもつ普遍的な機能であるとされる。脳は常に予測をしており、感覚器官からの入力に対してその予測が間違っていた場合にはその誤りに注意を向けてモデルを更新する。そういった絶え間ない学習を通じて、脳は世界のモデルを学習し、世界とそこに含まれるすべての構造を反映するように体系化するという。

本書では、その脳内での世界のモデル化がどのようにして行われているのかの仮説を提案している。それが、著者らが「1000の脳理論 (Thousand Brains Theory)」と呼ぶものである。

■ 大脳新皮質 (皮質コラム)
まず、新皮質の物理的構造は、六つの層からなっている。さらにその新皮質に含まれるニューロン間の結合はほとんど垂直方向に層をまたがってつなっている。この層構造を貫くニューロン接続のコラム型構造がその新皮質の構成単位になっていて、そのコラム型構造は脳全体で約15万個あり、それらが脳内にぎっしりと並べられているという。これらの皮質カラムが並行してモデル化と予測を行うことをもって著者は「1000の脳理論」と呼んでいる。
また、皮質コラムの構造が脳内のどこでも同じであることが、新皮質がどこでも同じ原理で動くことを示している。視覚であっても、触覚であっても、言語であっても、高次の思考であってもすべて同じ原理が適用されるはずだというのが著者の考えだ。身体器官からの感覚のインプットをなくした新皮質が他の機能を行うようになることは臨床的にも確認されていて、その考え方をサポートする。脳の領域はすべて同じように見えるにも関わらず、ペンフィールドの身体マップやブロードマンの脳地図を見て、脳の中でそれぞれの分業体制があるように見えるのは、その先にどのような感覚器官がつながっているかによって違っているだけであるというのだ。

新皮質は哺乳類にだけ存在しており、中でも人間の新皮質は大きく、脳の容積の70%を占めている。人間の新皮質がこれだけ大きくなったのは、その構造が単純でかつ汎用的でパワフルであるからだ。進化の過程で新しい機能や構造を発見することなく、新皮質をコピーして増やす方向にさえ持っていけば、生物としての生存に有利となる認知機能を増大することが可能となることから新皮質が大きくなるように進化は働いたと言える。この考えは非常に明快である。進化のタイムスケールから見て非常に短い間に急速に脳の新皮質が大きくなったのは、この汎用性のおかげだと言ってよいだろう。また、われわれが様々な環境の変化に対応できるのもこの汎用性のおかげである。

■ 座標系
では、その共通原理とは何なのか。著者によると、それは「座標系 (reference frame)」を使って世界をモデル化することにあるという。本書内でも例に出ているが、マグカップを手に持って口元に持ってくるにあたっても、三次元のモデル化と身体との関係の構成が必要となり、そのために脳は座標系によって位置と動きをモデル化して予測しているはずだという。その背景には、嗅内皮質と海馬にある格子細胞と場所細胞の存在がある(格子細胞は2005年にモーセる夫妻によって発見され、2014年ノーベル賞が授与された)。
そして、この座標系によるモデルの獲得は、空間や場所の認知だけにとどまらず、一般的な知識に関しても使われているというのが新しい切り口となる。著者によると、脳はこの座標系を使って知識を配置し、その座標系の配置における「動き」が思考であるのだという。哺乳類は、すべての物体の位置と姿勢、そして自分の身体各所との関係を認識するために座標系を発達させてきた。人間はこの新皮質の座標系を、汎用的なアルゴリズムとして知識を含む他のすべての活動にも適用しているのではないかというのだ。

■ 知能・AI
いずれにせよ、新皮質によって実現された知能とは、世界のモデルを学習するシステムの能力だ。結果としてでき上るモデルそのものには価値観も、感情も、目標もない。目標や価値観は、なんであれモデルを使っているシステムによって提供される。そして、人間においてその価値観は古い脳が生み出すものであり、感情も目標も古い脳に依存している。著者が繰り返すように、新皮質は目標を生み出さないのだ。

著者はまた、1000の脳理論で得られた知見からいくつかのAIの未来について論じている。巷で言われるAIが人間の脅威になるかどうかという点については、AI自体では目標を生み出さないという観点でもそのようなことは懸念することはないという。また、AIが意識を持つかどうかに関しては時期は明言しないが意識をもつようになるのではないかという。意識はいずれ「ハードプロブレム」ではなく、プロブレムですらなくなっていくのではないかという。

【まとめ】
第一部の新皮質の汎用性と座標系の話は知的にも新鮮さがあった。よく考えると新皮質がどこでも同じアルゴリズムで動いているであろうことは自明であるように思う。座標系を使ったモデル化が汎用性を持って知能と呼ばれる認知を実現しているというのはありえるようにも思える。それが真実であった場合に導出される結果についての論考がまだ不足しているようにも感じたが、その点は研究の世界で論証が進んでいくのだろうと期待できた。

著者は積み上げられた人間の知識を人間がいなくなった後世や宇宙の中に存在するであろう他の生命体に対して伝えることについて思いをはせる。その点を論じた第三部を書いた理由を、遺伝子よりも知識を優先することを主張するためだという。この辺りの論考が好きな人はいるだろうけれども、自分には少し腑には落ちなかった。
それよりも新皮質が生み出すモデルには価値観も目標もないという点はもっと強調されるべきだと思う。古い脳や身体、感情も含めた総合的な意識の理論というものが構築されていくのではないかと思っている。

著者の来歴も含めて刺激的な本であった。

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2022年12月11日

Posted by ブクログ

 ベストセラーだけあって、なかなか面白かった。
 遺伝子の複製と生存を目的とする古い脳に対して、新皮質は知能をつかさどる。見る、触れることで、新皮質は常に世界モデルを学習し、予測をするようになり、合理的な判断ができるようになる。しかし、古い脳にも支配されるゆえに、人間は争いや他害をしてしまう。今後の真の汎用型AIには知能をつかさどる新皮質をモデルとすべきで、逆に古い脳をモデルとしない限り、AI自体が人間の脅威になることはない。この考え方は、説得的でかつユニーク。これと関連して、いわゆるフェイクニュースや陰謀論が広まってしまう仕組みも説明されている。
 もっとも、皮質コラムだとか、専門的で、少し理解しづらい部分もあるし、古い脳の具体的な定義も少しあいまいな気がした。また、最後の2章は、著者の希望的観測が多く含まれており、少し壮大的すぎる。
 それでも、脳の仕組み、AIに興味があれば、読んで損のない一冊。

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2022年08月26日

Posted by ブクログ

脳が知識や知能を獲得・発達させた仕組みを解き明かすとともに、AI開発を含めた人類のあるべき未来に向けた方向性を提案する一冊。

IT企業家兼脳科学者という特異な経歴を持つ著者は、自身のライフワークとして脳の仕組みを研究する中で、人類の脳は、”遺伝子の乗り物”としての動物的な生存本能を司る「古い脳」の上に、知識や理性を司る「新しい脳」である新皮質を徐々に積み重ねることで進化してきたが、脳の総重量の7割を占める「新しい脳」が外部世界を認識し、知識として蓄積するメカニズムを解明する新説を提案している。

具体的には、「新しい脳」が行なっているのは感知した事物の情報の「モデル化」であり、新皮質に存在する約15万の「皮質コラム」が、事物そのものに付随する特徴的な情報と、それを感知している人間との位置関係の「座標軸」を整理することで、脳は世界の構造を効率的に学習するとともに、新たな情報を感知した際には既存のモデルを使ってその内容を「予測」することができる。

このようなモデルは数多くのコラムが保持しており、複数のコラムによる「予測」を「投票」することで、人間は効率的に外部世界を把握したり、新たな情報を学習したりすることができ、しかもこれは物理的に感知できるものに限らず、言語や数字や民主主義といった概念上の情報にも適用できることから、これらの知識を活かすことで人類は、他の生物を一線を画する進化を遂げることができたのだという。

一方でこのような「新しい脳」の進化がもたらした知能とその成果である新技術などは、人間が相変わらず「古い脳」に支配されていることで、本来あるべき目的外に悪用されるリスクを孕んでいる。著者はだからこそ、AIは「古い脳」の要素を排して「新しい脳」の要素のみを活用することで安全に汎用人工知能を開発することが可能であり、また知識の未来への保存を遺伝子の保存よりも優先するならば、人間自身も含めた遺伝子組み替えは正当化できると主張する。

ともすれば極論として批判されるであろう内容も数多く含まれるが、長年謎とされてきた脳の仕組みに対する有力な新説を提案するとともに、我々が直面しているのは「古い脳 vs 新しい脳」の戦い、つまり人間の存在の目的を相変わらず動物的な「遺伝子の保存」に求めるのか、それともそこから脱却して「知識の保存」へとシフトするのか、という対立軸であるという視点を持つことによって、地球温暖化といった現代社会が抱える問題への対処の難しさの要因も見えてくるのが非常に興味深い。

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2022年08月22日

Posted by ブクログ

【総合評価 ⒋0】

・革新性⒋5
1000の脳理論については世界の見方を変えさせてもらった。

・明瞭性⒌0
神経科学やAIについての高度な内容を非常にわかりやすい表現で書き表していた。

・応用性⒋0
古い脳と新しい脳という区分は日常生活にも現れてくる教えである。

・個人的相性⒊0
1、2章は良かった。神経科学とAIを理解している著者だからこそ書ける内容であった。ただ、3章については内容が飛躍しすぎに感じた。もっと前半戦を掘り下げて欲しかったというのが個人的な思いである。

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2022年05月21日

Posted by ブクログ

2021年フィナンシャルタイムズ紙のベストブックに選出されたほか、ビル・ゲイツの「今年おすすめの5冊」にも選ばれたらしい。だから手放しで面白いか、というと少しクセがある。主張の論拠が乏しいため、ただただロマンが語られる雰囲気もあり、論理の飛躍が激しい。

本著のテーマは「遺伝子vs知能」、「古い脳vs新しい脳」から始まり「人口超知能vs人類」という纏め方も可能だろうか。脳は、経験を通じて、複雑な予測モデルを学習する。私たちが知的なのは、1つのことを特別にうまくできるからではなく、ほぼどんなことでもやり方を学習できるからだ。絶えず動きによって学習し、たくさんのモデルを学習し、知識の保存と目標指向の行動のために汎用の座標系を使う。 AIは現時点では、経験による学習ができないが、いずれ、予測モデルを得て、人類を凌駕する。

その時、人類は、脳をコンピューターと融合させる。目的は、超知的なAIに対抗するためという話。私たちの脳を超知的なコンピューターと融合させることにより、私たちも超知的になる。

新しい脳、知能、人類が勝利する時、人類にとって古い脳とは、麻薬のような快楽を度々与えてくれる供給源の役割となり、快楽頻度と程度をランダム化する事で生きがいを見出すような、本能も能力も完全に可視化された存在になるのではないか。人口的に天才が生み出されれば、最早偶発的かつグラデーションのかかった才能ランキングと集団により、上位者の生活を支えるレガシーシステムも必要がなくなるからだ。

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2023年12月24日

Posted by ブクログ

近年のAI進歩の最大の要因はディープニューラルネットワークの実装だろう。これが脳の構造を模して開発されていることは周知だが、脳と知能については分かっていないことのほうが多い。脳の中でどうやって知能が実現されているのかを解明すれば、本当に人の知能がコンピューターで実現できるかもしれない。

本書の著者の経歴は独特である。大学卒業後にインテルで勤め、脳科学がやりたくて大学の研究室を志したが断念。そこでモバイルの元祖で有名なパームを起業し、一財産作り、大学に頼らず脳科学の研究所を起ち上げた。凄いとしか言いようがない。

本書は3章からなり、その研究所の成果の中心である、千の脳理論を一般向けに説明するのが第1章。第2章は人工知能の可能性を脳の構造から考察。そして第3章ではこれまでにない高い知能を持つ生き物として、どんな未来を実現すべきかという哲学的な論考。

脳の理論はとても分かりやすく、人工知能についてもさすが専門家という内容。脳構造と意識や倫理を研究する他の本(アントニオ・ダマシオ「意識と脳」、ジョナサン・ハイト「社会はなぜ左と右に分かれるのか」)と併せて読むと、人の頭の中で起こっていることについてかなりシステマチックに理解できる気がする。

第3章は微妙。生きる意味や善悪は、大脳新皮質だけで考えられる課題ではない、と思う。

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2023年10月07日

Posted by ブクログ

脳の中でも、知能に関わる新皮質がどのように機能しているのか?
新皮質の細胞の構造はどこでもよく似ているそうで、なので、どこでも同じようなことをすることで機能するのではないか。
脳科学に今までなかったという、そのような統一的なパラダイムを筆者は本書の前半で提案している。

新皮質には、皮質コラムと言われる単位が何千もあり、この皮質コラム1つ1つが、世界の地図、モデルといえるような「座標系」をつくり、この座標系に基づいて、新皮質は常に世界を予測している。

後半部分では、筆者の提案する新たなパラダイムによって、汎用知能と言えるようなAlの可能性が示されている。

最後の第3部では、人類滅亡後に、知性ある存在がいたことを保存するための提案がなされていたりする。

個人的に、脳科学に詳しくないこともあって、正直、どれだけすごい内容なのかわからなかった。
ただもしかすると、もう少しの将来に、この本で示されていた内容が脳の機能を説明するスタンダードとなるかもしれないし、汎用知能のAIが使われる世界が来るのかもしれない。
きちんと理解するには、知識が足りなかったと感じた。

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2023年05月18日

Posted by ブクログ

古い脳と新しい脳の関係、それを踏まえた汎用人工知能の定義提案、人工知能が暴走するシナリオのあり方など、興味深い議論も少なくなかった。

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2022年11月20日

Posted by ブクログ

興味深く読めたが、後半は少し飽きてしまった。
古い脳と新しい脳の役割の違いや、脳が一つではなくてたくさんの働きの繋がりであることは今までのイメージと違っていて、新鮮で面白かった。ただ、脳が座標系でとらえるというのが??で、科学的な立証がされているのか気になった(信じられない、、)

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2022年11月09日

Posted by ブクログ

脳は物体だけでなく、抽象的な概念も座標系で保存し、理解しているということらしい。そして、感覚を動かすことで認識している。
抽象的な概念と座標系の関係が良く分からなかったが、頭の中を整理出来れば記憶も理解も進むので、何となく理解は出来る。
後半の知識のアーカイブは、考え方としては面白いがその必要性と目的には懐疑的である。

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2022年11月01日

Posted by ブクログ

最新の脳の研究をしている作者は、パームパイロットを創業者として開発しながらも本当は脳の研究がしたかったそうな。晴れて脳研究にもどって20年近くの研究成果を一般書にまとめた。曰く 大脳新皮質の15万個の皮質コラムは、それぞれが固有の世界モデルの予測をして、予測するための座標系を独自に持っている(はず)。それぞれのコラムが投票をすることによって、一つ(場合によっては複数)の知覚が生成される。詳細なメカニズムはまだ不明だが、この仕組みを1000の脳理論と呼ぶ。
たくさんの予測演算が脳内だ行われ、メモリー空間を整理する適切な座標系が3次元だけでなく 問題によっては高次元で組まれる。数学の方程式を格納する座標系は何次元かは不明だが、個別の問題ごとに座標系を持ち、知らない問題は座標系がないので迷子になるという説明は腑に落ちる。作者1000の脳理論に絶対の自信を持っているようだが、真実はどうかは今後の研究結果を注視したい。
2部・3部は著者のAIや人類の未来に関する想いであり、古い脳と間違った(だまされた)知識が重なり、強権国家やカルト宗教が地球を滅ぼすのが心配というのは同意だが、本書の1部の科学的記述に比べて蛇足と思えたので星3つ。

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2022年08月22日

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