【感想・ネタバレ】梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

いや、これは凄い。傑作だ。 
現在の事件のからくりに驚愕した後、過去とのつながりが明かされ、物語はさらなるカタストロフへ。戦時中の気配が残る寒村の雰囲気や、伏線回収、そして読者への挑戦状を思わせる一文まで飛び出し、これはもう徳間書店に感謝せざるをえない。


↓以下、トリックの記録含む感想
まず、美緒が明かす赤髪連盟的真相。これがその後の智一の推理の土台になっていく。伏線は車を使うはずの花島先生が駅にいたこと、聞こえてきた電話での言葉など。ひき逃げの犯人が花島先生で、とすれば目撃者となっていてもおかしくはない都会風の男に脅されていたというのが巧い。

そして、現在の事件での一番の驚きは、やはり死体の身元だ。だが、最初は花島先生の智一を騙すための言葉もあり、見抜く手がかりはやや少ないように感じた。が、あの二又の道、何者かの尾行、「電線しか通ってない」と電話の矛盾、吉爺さんに会う日だけ薬を飲ませなかったこと、などを考えればフェアと言えなくもない。

そしてさらに驚くのが秀二は生きており、黒島先生と同一人物であるということだ。
まず、マキ子の”秀二さん”という呼び名の伏線が巧い。マキ子が知るはずのない智一の母の病気を知っていたことなども補強となっている。
そして犯人の黒島が、殺しても構わない(結局爺さんを一人殺しているのでむしろその方が楽)智一を殺さなかったこと、土地の者でないと知らない事実を知っていたことなどと組み合わせて秀二の現在の姿までも暴いている。

そして、秀二の二度の入れ替わりの真相を知ることで、一気に秀二に対する印象は変わっていき、それは智一にまで及ぶ。これが壮大なカタストロフを生み出し、読後の余韻を生み出す。
梶龍雄の今後の復刊も楽しみで仕方ない。

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2022年05月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

● 感想
 1977年に「透明な季節」で乱歩賞を取っているが、著作が絶版で古書価格が高騰している梶龍雄の代表作の1つ。徳間の特選で復刊され、期待して読んだ。期待が高すぎたため、期待以上とまではいかなかったが満足できるデキではあった。
 メイントリックは、2つの人物入れ替えトリック。仲城秀二は妙見義典となり、妙見義典は「竜神池の小さな死体」となる。その後、23歳の頃に、大柏たえという人物の息子を殺害。別の人物=黒岩教授になりすます。
AがBになりすまし、さらにCに成りすますという二重の人物入れ替えトリック
 秀次の死の真相解明のほかに、コンクリートブロックの亀裂の実験があり、そもそも、この実験結果改ざんのために、智一を山蔵にとどまらせるという「赤毛連盟」的トリックが加わる。
 この2つが有機的にかみ合う。すなわち、秀二の父は特攻の大熊弘三であるという「血」があり、秀二は母親を独占された智一に復讐をするために、同じ研究者として近づく。智一の研究を利用し、実益と復讐を行おうとする。
 さらには、伏線を仕込みつつ、黒岩のアリバイ工作が披露される。バーでの偽黒岩のアリバイは、この作品全体の人物入れ替えとも関係する。龍神池での物理的なアリバイ工作はご愛敬だろう。
 美緒による推理では、黒岩が犯人であることまでは辿り着くが、黒岩=秀二にまでは辿り着かず。
 智一による、大熊弘三殺し、秀二殺しと、三沢ダム決壊まで暗示したラストにつながる。
 印象としては詰め込み過ぎである。目新しい、斬新なトリックはないが、既存のトリックの組み合わせと、巧みな伏線がウリだろう。「やられた」とか、「えー」という印象まではないが、「うまい」、「なるほど」と感じさせる伏線は多数。玄人の評価が高い作品、売れないけど古書価格が高騰する作品っぽい印象である。
 期待が高すぎたから、期待以上ではなかったが、がっかりするようなレベルではない。文体も読みやすく、驚愕はできなかったが、感心できた秀作。★4としたい。● 「赤毛連盟」的構造
 仲城智一は、ダム建設のためのコンクリート関係で重要な実験を行っている。その実験結果を改ざんするために、仲城智一の弟でもある黒岩教授は、自分の弟は死んだと思っており、その死の真相を調べるために山蔵という土地に向かった仲城智一を足止めしようとする。
 コンクリートには、仲城智一の予測どおり、亀裂が入っていたが、そのコンクリートはすり替えられていた。
● 人物入れ替えトリック1
 戦時中、疎開していた際に、仲城智一の弟、仲城秀二は、妙見義典と入れ替わる。妙見義典は「竜神池の小さな死体」となり、秀二は、妙見義典として育てられる。
● 人物入れ替えトリック2
 妙見義典として生きていた秀二は、大柏たえという人物の息子を自分として殺害し、村を出る。その後、仲城智一に復讐するため、同じ研究をし、仲城智一を失脚させようとした。今回のコンクリート実験は、自分の手柄という実益と仲城失脚という復習を兼ねた計画だった。
● 秀次の出生
 秀次の父は、特攻の大熊弘三。大熊は父として秀二を疎開先に尋ねるなどしていた。
● 黒岩教授のアリバイトリック
 バーで自分の名を騙り、つけで飲んでいた人物を脅し、アリバイ工作に使った。この男については伏線がある。

● 時系列
s43/9/2
 仲城智一、黒岩に授業を代わってもらい、弟、秀二の死の真相の捜査を始める。
S43/9/3
 智一、麻川マキ子、青田京子、本庄明と会う。同日、麻川マキ子は黒岩教授の依頼を受け、夜、智一と食事をし、探りを入れる。
 山蔵でひき逃げ事件。犯人は花島医師
S43/9/4
 智一、秀二の疎開先で教師をしていた工藤という老人に会う。
S43/9/5
 智一、山蔵に行く。駅で、黒岩の依頼を受けていた花島医師に出会い、花島医師宅に泊まることになる。
 苗場鏡子から話を聴く。鏡子の案内で龍神池を見る。
 吉爺と呼ばれる井葉吉助だと誤解して、大柏辰平に会う。
S43/9/6
 栗田巡査の話を聴く。
 秀二が疎開していた頃、疎開先と別の旅館の女将だった小谷直子の話を聴く。
 郷土の研究家の苗場浩吉に話を聴く。
 智一の荷物が、花島医師に荒らされる。
S43/9/7
 智一が黒岩に襲われ、頭を打つ。
S43/9/8
 智一の療養開始
 仲城の大学で学生運動が行われる。
S43/9/9
 智一の療養2日目
S43/9/10
 智一の療養3日目
S43/9/11
 智一の療養4日目。佐川美緒が山蔵に来る。
 学生大会開催、封鎖解除の決議
S43/9/12
 レントゲン結果報告。智一、翌日に帰ることになる。
S43/9/13
 黒岩による伊葉吉助殺害。智一、容疑者となる。
s43/9/14
 智一の取調べ。容疑者となった智一は、山蔵を出れない。
 花島医師が、黒岩に殺害される。
S43/9/15
 新聞の切り抜きから、花島医師の家にあるはずのない新聞が見つかったことから、智一以外の者が犯人だという疑いが強くなる。
 智一、美緒、山蔵を離れる。このとき、智一は、秀二の父親が特攻の大熊弘三ではないかという疑惑を持つ。
 智一は、大学時代の友人で、警視正である高峰雄一に大熊弘三の行方の調査を依頼
 智一、研究室で、コンクリートのすり替えがあったことに気付く。
 智一、大熊弘三に会い、弘三が秀二の父であることを聞く。智一、弘三を殺害
S43/9/16
 美緒による推理。美緒は、花島医師が、薬を飲まなくてよいといったことを聞き、推理小説でいえば、ここで犯人を推理するデータはぜんぶ出つくしたというところよ、と発言
 智一と、美緒が、黒岩の名を騙ってバーを利用している男を発見。黒岩のアリバイを崩す。
 美緒は、智一が、吉爺である伊葉吉助と大柏辰平を取り違えていることを知る。これがアリバイトリックに使われていた。仕掛けを利用し、発見を早めさせ、アリバイ工作をした時間が犯行時間と予測されるようにした。
 智一は、美緒の話を聴き、自分の推理を構築して麻川マキ子のところに。マキ子と秀二が知り合いであること、秀二が生きていること、秀二が黒岩医師であることをマキ子に伝え、マキ子のところにいた黒岩医師と対峙
 智一は、秀二を殺害
 智一はコンクリートの実験の結果を計測する。亀裂は入っていた。
 智一のところに美緒、高峰雄一が来る。智一は、黒岩教授と大熊弘三殺害について、高峰に話すという。そこに、三沢ダムのクラックについての電話がある。

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2022年10月10日

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