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Posted by ブクログ
前作『医療現場の行動経済学』の続編として、様々な医療の現場での行動経済学の”実践”的な事例を示した一冊。2018年に出版された前作から今作への大きな変化といえば新型コロナウイルス感染症の猛威と、編者である大阪大学 大竹教授が政府の新型コロナウイルス感染症対策部会に行動経済学の専門家として招集された点であろう。行動経済学を用いた行動変容への期待が高まっているこのタイミングで、様々な領域での実践事例が紹介される意義は大きい。
前作でも様々な領域での実践事例が紹介されていたが、本書ではその領域の広がりを感じられる構成となっている。
例えば、40歳以上の国民に受診が義務付けられている特定健診の受診勧奨においては、一般的なハガキではなくSMSを利用することで、ハガキよりも費用対効果を高められる可能性が示唆されている。
また、”稀有な事例がメディアなどで報道されることで非常に高い確率で発生する”かのように誤解してしまう利用性可能性ヒューリティクスの典型例として、HPVワクチンの事例に加えて、アトピー性皮膚炎などに対するステロイド剤利用への忌避が取り上げられている。後者はまさに極めて強固なバイアスがステロイド剤への忌避を生み、結果として悪質な代替医療ビジネスが跋扈しているという点で、行動経済学などの知見をフルに活用してその忌避を解きほぐしていくことの重要性は非常に大きいはずである。
行動経済学自体は当然、どんな場合にも効果を発揮する万能薬なわけではないものの、医療現場において極めて汎用的に使える一つの”ツール”である。その幅広い領域での有用性を実感できる良書である。