あらすじ
ふと気付くと、涙がぼろぼろとほおをつたっていく。
「あれ、俺、なんで泣いてんだろ」
自分でもわけがわからなかった。
「東日本大震災以来の、とんでもないことが起きていると思って」ーー
2020年1月、横浜を出港した豪華客船、ダイヤモンド・プリンセス号は、香港、ベトナム、台湾をめぐっていた。
沖縄・那覇を経て、2月4日に横浜に戻る予定だったが、その直前、香港で下船した中国人乗客が発症したことが判明する。船内でも発熱した乗客が次々に医務室を訪れていた。
しかし、そのとき、多くの乗客はまだ「異変」に気付いてはいなかった。
正装のディナー、外国人歌手によるエンターテインメント、絵画展、マージャン、有志による合唱発表会などが行われ、旅のフィナーレを目前にしていた。
日本政府には、衝撃的な情報がもたらされる。発熱した31人の乗客のうち、10人が「新型コロナウイルス陽性」だったのだ。
横浜で下船予定だった乗客たちは、船内に足止めされることになり、まず厚労省の医系審議官と、横浜検疫所の検疫官らが乗船。その後、災害派遣医療チーム=DMATの面々が乗船した。
DMATは震災や水害など、災害時に発生する病人の救護にあたるボランティア医師たちである。事務局が片っ端から電話してかき集めたメンバーだった。当然、感染リスクはある。家族は反対する。活動の法的裏付けさえ満足になかった。
「俺たちがやらなければ」という使命感だけがよりどころだった。
連日、乗客・乗員数十人の感染が判明。2月17日、陽性者は99人にのぼった。
ある外国人女性は、感染が判明したものの下船することを嫌がり、駄々っ子のように床を転がった。部屋で暴れたイタリア人男性もいた。
混乱をきわめた船内で、医師たちは感染と隣あわせになりながら、困難なミッションにあたっていた。
「薬を」「情報を」焦燥を募らせる乗客の気持ちに、どう向き合えばいいのか。
やがて迎えた、大切な人との別れーー。
医師、乗客への重厚な取材で描きだす、感涙のノンフィクション。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
2022.9のコロナのことが大分分かってきたけど、感染者は増え続けている状況で読んでいる。
その状況下なら、コロナと聞いて純粋に相手の体調を心配できる人が多いと思う。
けど、未知の状況であればそれさえ難しくなるのだと感じた。
Posted by ブクログ
新型コロナウイルスを乗せた大型客船が横浜に寄港したとき、
飛び込んでいった医療従事者があのときあの中で経験したこと
受け入れに構えていた医療機関が経験したことが中立的に書かれていました。
何名かの乗客、医療従事者を取材し、実際にあったこと、思ったこと、不安だった気持ちが偏見なく赤裸々に描かれています。
本件に関わった一医療機関の一職員として、読みました。
Posted by ブクログ
いつも聞いている大竹まことさんのpodcastの番組に著者の高梨ゆき子さんがゲスト出演していて、本書の紹介をしていました。
高梨さんは読売新聞編集委員です。
新型コロナウィルス感染症流行当初、ダイヤモンド・プリンセス号を舞台にした船内感染の顛末は日本国内のみならず世界的にも大いに注目されました。船内は実際どんな状況だったのか、乗客・乗員そして感染対策のために派遣された人々はどんな思いで、どう行動していたのか。DMAT(Disaster Medical Assistance Team=災害派遣医療チーム)の活動を中心に、綿密な取材をもとにした様々なエピソードが紹介されています。
Posted by ブクログ
日本におけるコロナウィルス感染症クラスターの、最初にして最大の規模となったのが豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス号」を舞台としたものである。乗員乗客合わせて3713名が乗船し712名が感染(14名が死亡)、外部入船者9名も感染した。
本書はその始まりから全員が下船するまでの1か月を、日付順に追ったノンフィクションだ。
感染症対策本部の初会合で安倍総理が発した「DMATの仕組みを活用して」の一言が、この国のその後の対応を決めることになる。例によって根回しも何もない唐突な発言だったようだが(笑)。
驚いたのはDMATは管轄外(本来の役目は災害救助法が定める医療救護班である)のうえにボランティア組織であることだ。そのため、勤務先からは疎まれ不当な差別まで受けてしまう。「救える命を救う」という使命感だけで尖兵に立たされた彼らの熱い思いに頭が下がるが、政治への不信が拭えない。
Posted by ブクログ
悪くはないが、良質なノンフィクションとするには、客の小説タッチな文章挟む事で紛らせてはいるが、あった事柄の浅瀬だけ並べてるだけで深度というか、取材というか、方々足りない印象。一面的で浅い。最後の最後に「当時こんな事もあったらしい」と1、2行書いてたが、そこらも入れて、もっと多数目線で多数の声を書くべきだったのでは。
とはいえ、当時の自分や社会の雰囲気や報道を思い出しながら色々考えられたのは良かった。あの最前線がボランティアだったという事に目眩。その点は良い話というより酷い話として知れわたって欲しい。宣伝並みにメイン扱いなんだし。あと、よく理解ってないまま聞き心地の良い文句を発っしておきながら、すべき連絡や指示をすべきところにせず先手を間違えた政府の所業はもっと明るみになっても良い。2007年に既に指摘されていたのに即時対応できる感染症専門機関を設けなかった政府とか何なん。流石にもう動いてるよな?
Posted by ブクログ
現場を見ていない人たちはメディアによる情報から得るしかない
それなのに好き勝手なことを言ったりする人がいることに現場の人たちは傷つくし、自分達は身の危険を冒してまで仕事をしているのに理不尽なことだと悲しくなる
DMATなどの人たちの活躍があってこそ最小限に防げたことを忘れてはいけない