【感想・ネタバレ】ななつのこのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

再読になる。もうずいぶん前に読んだ本だったので、記憶を新たにするために読んだ。
入江駒子という短大生が児童書(と思われる)連作短編「ななつのこ」の熱狂的?ファンになり、著者の佐伯綾乃にファンレターを出す。そのファンレターの内容が「ななつのこ」の短編の感想だけでなく、その短編から連想した日常の話で、そこにある日常の謎、駒子にとっては謎とも気づいてないような謎がファンレターの返信によって解き明かされるという話。

「スイカジュースの涙」
道に点々と続く血痕と短大同期のお嬢様 愛ちゃんの家の愛犬行方不明の話。

「モヤイの鼠」
尾崎炎という著名な画家の絵がすり替えられたのか?という話。

「一枚の写真」
駒子の元に届いた一枚の写真。長らくアルバムの中で空白になっていた所にあった写真だった。それが引っ越して高校を中退し、今は子どももいるというかつての同級生から送られてきたものだった、という話。

「バス・ストップで」
瀬尾登場。米軍基地のそばで妙な行動をとるおばあさんの話。

「一万二千年後のヴェガ」
ブロントサウルスのアドバルーンが飛んでいく話。

「白いタンポポ」
小学生のキャンプに手伝いとして参加した駒子と集団になじめない真雪ちゃんとの交流の話。

「ななつのこ」
「ななつのこ」のイラストレーター麻生さんとの再会、真雪ちゃんとの再会、そして瀬尾の正体判明の話。


今はもうLINEやメールなどで、本当に手紙を書く、ことはめっきり少なくなってしまった。しかし手紙の良さを実感することもある。手紙形式の小説は本当にするすると読める。姫野カオルコ「ラブレター」(今は改題されて「終業式」というらしい)
も凄くするすると読めた覚えがある。人との問答というのは理解を深める上でもいいんじゃないか、というのはソクラテスの産婆法でも言われていること、と言ってもいいのだろうか。自信はない。

印象に残ったエピソード
「モヤイの鼠」で書かれていた駒子の高校時代の友人、たまちゃんと一緒に入っていた美術部の話。駒子は絵が上手ではなく、顧問の先生に手を入れられる。その絵は良くなるのだが、まるで自分の絵ではなくなってしまうように感じる。たまちゃんは絵が好きで上手。そして顧問の先生が手を入れることをたまちゃんははっきりと拒むのだ。
私も小学生の自画像で先生に手を入れられた。まるでそれが当たり前かのように。良くなるのに、何が悪い、というように。あのときに感じたモヤモヤと同じものを、ここで感じた。

「白いタンポポ」で書かれていた進藤先生の言い分。駒子が真雪ちゃんのそばにいることで進藤先生は自信をなくすように見える。「気持ちがわかる」と言われて、心にしみ入ることもあれば、「ふざけんな、お前に何がわかる!」と思うときと両方あることを思い出す。そして西の生まれながら、いつか見たいと図鑑で焦がれていた「シロバナタンポポ」を東京で見たときの感動。

再読して、よかった。

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2024年04月19日

Posted by ブクログ

加納朋子さんのデビュー作。『ななつのこ』という絵本に惚れ込み、その勢いでファンレターを書いた短大生の駒子。ファンレターに駒子の周りで起こる不思議な謎も書き添えると…。
連作短編小説で、最後に全ての話が繋がるお洒落な物語になっている。日常の謎というジャンルを確立させた北村薫さんへのファンレターのような気持ちで書き上げたとインタビューでお話されていたように、北村薫さんの作品同様、謎が解き明かされた時、登場人物たちの心の機微が鮮やかに浮かび上がる。どれ程この物語に考え方の影響を受けたことか…。とにかく最高。

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2024年02月12日

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かぁらーす~なぜなくの からす…… 童謡「七つの子」を題材にした童話集「ななつのこ」を題材にした短篇集?

加納朋子のデビュー作。1992年刊、女子短大生が遭遇するほっこり不思議ミステリー。作中で登場する童話集「ななつのこ」の内容と、作中での現実が交錯する入れ子構造が面白い。謎解きミステリーでありながら、扱われるのは主に日常で遭遇する出来事であり、殺人などの殺伐した事件は起きない。一つ一つの物語における謎解きの鮮やかさに感嘆しつつ、7つの短篇が最後につながって長編になる、カタルシスを得たような清浄感にうっとり。読後感は見事で、本を手に取る前の予想を完全に超えた一作。こういう出会いがあるから読書はやめられない。

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2023年05月13日

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女子短大生駒子が出会った童話集「ななつのこ」。作者へのファンレターとその返信で綴られる、日常の小さな謎と推理を描く連作短編集。
淡々とした日常にある謎を、やさしく、時には大胆に紐解いていく美しい物語です。
再々読。自分の読書歴の中でも、とても重要な作品であり、これからも読み返すと思います。

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2022年12月05日

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著者の作家デビュー作。
とても良くできた日常ミステリであるとともに純文学的な色彩が強烈な物語。

今読んでも会話のセンスがいいなーと思う。
個人的に好きなプラネタリウムや星座の話が多めで嬉しい。

ペルセウス座のアルゴルという星の明るさ(等級)が変化する仕組みを解明したグッドリックという人物が21歳で亡くなった早逝の天才だったが、彼は聴覚と発声に障害があったというエピソードがとても印象的。

この著者の本を色々な経緯で20年以上に渡ってチビチビと読んでいる。
きっかけがみんなバラバラで、子育てだったり白血病だったりミステリだったり青春ものだったり、それぞれ全く違う印象の本。
著者の幅広さを感じる。
米澤穂信氏のおすすめに従ってやっとデビュー作にたどり着いた。

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2022年05月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人が死なないミステリーもあっていいじゃないか。

この作品のような小説に出会う度、思う。

しかもこの小説は二段構え。

この小説の中にはさらに『ななつのこ』という別ストーリーがパラレルに展開していて、これがまた懐かしさを誘う。

以下、駒子の日常の方の「ななつのこ」各短編の概要で、特に僕が気に入っているのは⑥。そして、③、④も好み。②は衝動的に目の前の女の子の三つ編みを引っ張ってしまった40年以上前の苦い記憶を思い出させてくれるなぁ。ああ、胸が痛い。

小説として、全体の構成が素晴らしい。

①スイカジュースの涙
ベビーカーとすれ違ったあとに気づいた、道路に点々と続く乾き切らない血痕。
②モヤイの鼠
個展会場で絵画『悠久の時間』の出っ張りに触れたとたん、ポロリ。・・ああ、痛い。
③一枚の写真
6年の時のクラスメイト一美が8年近く経って、私のアルバムから取った一枚の写真を返してきた。
④バス・ストップで
ささやかなロマンスの香りを孕みつつ、おばあさんとお孫さんの心温まるレジスタンス。
⑤一万二千年後のヴェガ
デパート屋上の巨大なブロントサウルス、一夜明けたら30km離れた保育園にいて・・・。
⑥白いタンポポ
低学年のサマーキャンプで真雪の担当となった駒子。人見知りの真雪が不愉快でなかったのは。
⑦ななつのこ
再会した真雪がプラネタリウムが終わると消えていて・・・。
○追伸
駒子のファンレターの相手、〈佐伯綾乃〉の秘密が分かってからの後日談。

またも、フォロワーさんの本棚・感想にあった一冊にこの一週間、堪能させられた感じ。

次は何とか、自力で一冊、面白い作品を嗅ぎ当てたいもの。

兎にも角にも、ありがとうございました。

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2021年12月23日

Posted by ブクログ

何度も読み返している大好きな本です!入れ子の構成も日常の謎に関する推理も素晴らしく、女子大生の日常、彼女らの感性に共感しながら(懐かしく)読みました。手に取ったのは、鮎川哲也賞を獲った新聞記事が印象に残っていたのがきっかけでしたが、才能あふれる著者のデビュー作として記念碑的作品と思います。

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2021年11月20日

Posted by ブクログ

「日常の謎」の代名詞のような本。
朝起きて、登校して、講義を受けて、下校して、夜を過ごし、眠る。
そういった日常生活の中で、「あれっ?」と思う一面を純粋に不思議に感じること、それが「日常の謎」だと思います。
その断片をファンレターという形で繋げて、フィナーレの謎に落とし込む。
その繋げ方が非常に秀逸です。

この本を読むと、自身の日常生活に対する自分の感情を豊かにしてみようと思うことでしょう。
「いつだって、どこだって、謎はすぐ近くにあったのです。」

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2021年07月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

加納さん2冊目。相当凄い本だと思うが、完全には理解できておらず、少しモヤモヤ感が残りました。この物語は2つが並行している。それがいつの間にかミックスされる。①で今の「私」と手紙の相手「佐伯綾乃」とのやり取りで解決していく話しと、②では「ななつのこ」の童話の「はやて」と「あやめ」。②のノスタルジックな雰囲気がなんとも古風で純朴な2人だった。最後に①との共通の登場人物となるが、そこにも仕掛け。この高級感は凄まじいい!①で起きるミステリーの解決が鮮やかで、ステレオタイプだけでは語れない優雅さと気品を感じた。⑤↑

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2021年04月23日

Posted by ブクログ

駒子のいる現実とななつのこが交わるところがぼんやり読んでいると曖昧になってきて、読みづらいところがあったけど、面白かった。推理本というよりは、駒子のふわっとした気性に包まれて、ホワホワした気分で読める本かも。
私もタンポポの色は真雪ちゃんと同じ感覚でした。都会に来ると西洋種が優位になるんですよね。

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2020年11月10日

Posted by ブクログ

先輩に薦められてすっかりお気に入りになり、そこから自分を遅咲きの小説読みへと変えた思い出深い作品。その時既に20も半ばを過ぎてた気がする。
劇中本(?)を読んで作者にファンレターを送ったことによって起きた物語を本にまとめた体の本。
駒ちゃんに惚れる。

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2018年02月13日

Posted by 読むコレ

何故もっと前に読まなかったんだろう...。
文句のない素敵な作品。微笑ましくも、不思議と
郷愁感漂う作品の世界の居心地のよさ。
読み終えるのが勿体ない感覚を久し振りに味わいました。

この作品が鮎川哲也賞を受賞したという事は、
所謂ミステリーとして評価されたと言う事ですよねー。
そういう意味でも今のミステリーの懐の奥行きにも、
個人的には嬉しいのです。
今なら人に「なんか面白い本ない?」と訊かれたら、
迷わず今作を挙げる!

今まで読んでなかった事を後悔すると同時に、
今後、必ず読む大量の未読作品に出会う事が楽しみです!

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2013年02月16日

Posted by ブクログ

『ななつのこ』で第三回鮎川哲也賞を受賞し、作家デビューしていることをすっかり忘れていた。
そして、今になって読むこととなった。

物語は、短大に通う入江駒子が書店の新刊本コーナーで表紙に惹かれて手にした『ななつのこ』というタイトルの本を読んだことから始まる。
幻想的な懐かしさを覚える不思議な絵。
れは、7つの短編集で弱虫なはやてという少年が、サナトリウムにいる優しいあやめさんという女性に身近に起こる些細な謎を相談し、鮮やかに推理してもらうという話。

それを読んだ駒子が、作者である佐伯綾乃へファンレターを書くのだが、そのなかで自分の周りに起こった不思議な出来事も追記しているのだ。
驚くことに佐伯綾乃からの返信があり、駒子の不思議な出来事について解明しているのである。

最終話でこれまでの話が伏線であったと明かされるところが凄い。
それまで日常のちょっとしたなぜ⁇にミステリー要素が含まれ、これは童話なのではないな⁈と感じつつ、童話と関連した事件が身の回りで起こり、その謎を作者の佐伯綾乃が、手紙で解決するという…なんとも不思議な体験後に実際、佐伯綾乃の手紙を書いたのは…○○で。

二重にこの不思議感を堪能でき、今までとは違うミステリーを楽しめた。




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2024年01月25日

Posted by ブクログ

 加納朋子さん作品7冊目にして『ななつのこ』。偶然ながらいい巡り合わせ! 本作は、92年刊行の加納さんデビュー作で、7篇の連作短編集です。

 主人公は短大生の駒子。偶然一目惚れし、手にした本『ななつのこ』。その本の主人公は<はやて>という男の子で、日常の不思議な出来事の謎を、<あやめさん>という女性が解き明かしてくれます。

 駒子は『ななつのこ』著者の佐伯綾乃へファンレターを書きます。第一話を読んだ感想に、思い出した出来事を添えて‥。すると、駒子の周囲で起こる小さな事件の謎を、新たな視点を加え鮮やかに解いてくれる返事が返ってきたのでした。

 駒子と綾乃、作中のはやてとあやめさん、この謎解きの二重構造的な発想が面白いです。
 一編一編が、作中童話からくる詩情と郷愁にあふれ、日常の小さいけれど大事な謎に輝きを与えている点が素晴らしいと感じました。
 作中の綾乃が駒子を評して、「つまらない既成概念や価値観や常識を、控えめに、けれどあっさりと否定してしまう」‥。まさに、加納朋子さん自身の真摯な物語づくりの姿勢ではないでしょうか?

 7つの短編が、それぞれが独立しているようで、最後に意外なつながりを見せてくれる、清々しい作品でした。

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2023年11月17日

Posted by ブクログ

ほのぼのミステリ。殺される人も失踪する人も出てきません。身近にありそうな(なさそうな)謎を読者である主人公と主人公が惹かれた物語の作者が解き明かします。説明難しいけど読んで損はありません。読後感はほっこりです。

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2022年08月14日

Posted by ブクログ

デビュー作だったのか。加納さんはとても好きで、あれば(古本オンリーだけど)買います。人をいやな気持ちにさせない素敵な作品ばかり。
駒子さんがいい。「いつだって、どこでだって、謎はすぐ近くにあったのです」という言葉がいい。
三部作、一気に読みます。

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2021年08月02日

Posted by ブクログ

○ 動かしたいのになぜか身体が動かせない恐怖。
○ 声を出したいのになぜか声が出せない恐怖。
○ 誰かが自分の上に乗っているような恐怖。

さて、あなたは、このような体験をしたことはないでしょうか?“金縛り”。そう、そんな恐怖な体験を”金縛り”と呼びます。私はかつてこの体験に悩まされていた時代がありました。当時住んでいたマンション。その隣が墓地だったこともあり、きっとこれは何かある、何かが影響している、まあそれだけの理由ではないですが、家庭環境に変化があったこともあって、そんな何かがあると思ったマンションから引っ越したところ、それまでが嘘のように、そんな”金縛り”がピタリと止まりました。やっぱり…と思い、幸いにもそれ以降一度も体験することなく生きてきた私。そんな中、”金縛り”は、”長時間の昼寝が影響している”、”上向きで寝る人に起きやすい”という”金縛り”の原因を取り上げたテレビ番組を見る機会がありました。その瞬間私の脳裏に蘇った”金縛り”に悩まされた当時の記憶。思い返せば、その症状があったのは土曜か日曜の夜、そして当時の私は週末の昼寝が日課だったという事実。また、現在まで上向きでしか寝付けない私というこれまた見事な一致。えっ、それが理由だったの?、と唖然とした私。詳細な解説を聞いてなるほどと納得した私。てっきり、霊の悪戯と長年思い続けていた私にとって、まさかの種明かしの機会となりました。

『身近で起こるミステリーなんて、およそこのような代物である』

そう、テレビをつけずとも、小説を読まずとも、私たちの周りには思った以上に、”なぜだろう”、”どうしてだろう”と思うことが溢れているように思います。血を見たり、人が殺されたりということでもなければ、そんな疑問をことさら意識することはないのかもしれません。しかし一方で、”なぜだろう”、”どうしてだろう”という思いは心のどこかにいつまでもモヤモヤとした感情を残します。もし、そんなモヤモヤをスッキリさせることができたなら…。この作品は、そんなモヤモヤをスッキリさせてくれる物語。『手を伸ばせば触れることのできるミステリー』をスッキリ、サッパリあなたの前で解決してくれる物語です。

『しばらく前に、スイカジュースなる飲料がはやったことがある』というその飲み物。『スイカジュースと銘打っておきながら無果汁と小さく印刷されていた事実』に違和感を感じるその飲み物。『どこかの大会社の社長令嬢』という友人がいることで『自分でお金を払ったわけでもない』のに、その飲み物を味わい『旨いだのまずいだのと偉そうに論評している、ふとどきな人間』という主人公の入江駒子。そんな駒子は、『生まれて初めて〈ファンレター〉なるものを書』きます。その経緯を振り返る駒子。『書店の新刊本コーナーで』偶然手にした一冊の本。『「ななつのこ」というタイトルの、短編集』というその本の『表紙に惹かれた』駒子。『薄汚れたランニングシャツは少年の痩せた肩からずり落ちかけ、裾も半ズボンにきちんと納っていない』という『麦藁帽子をかぶった少年』の表紙を見て『不思議な絵だった』と感じる駒子。『〈既視感〉という、使い慣れない言葉を舌の上で転がしながら、私は表紙をめく』ると、『「ななつのこ」というタイトルにふさわしく、全部で七つの短編が入っていた』というその本。『舞台はどこかの田舎で』あり『主人公は〈はやて〉という名の少年』。『ところがはやて君は、その名のように勇ましくもなければ、力強くもない』というその少年が『すいか畑の番を命ぜられたところから、話ははじま』ります。『その日のうちに、彼は夜の見張りに立った』ものの『ごろりごろりと転がるすいかのひとつひとつが、人間の生首に見えて』恐怖する少年。そして夜が明け、昼寝をしていると『仕様のない子…やっぱり眠ってしまったん…』 、『一晩中起きていろというのも……子供のことだから』という声が聞こえてきました。少年が番をしていたはずなのに『すいかはやっぱり盗まれていた』という事実。『とにかくこのことは、はやてには内緒だぞ』という父の声を聞いて、無我夢中で山の中に走った少年はそこで『一人の女の人に出会』います。『あやめさん』というその女性。そんな女性は『はやてちゃんは眠ったりはしなかったわ。すいか泥棒は来なかったのよ』と告げます。そして…と展開する「ななつのこ」というその本の内容。そんな本を気に入って衝動買いをした駒子は、作者に『ファンレターを書こう』と思い至ります。『この物語を書いた〈佐伯綾乃〉という人に、直接語りかけてみたい、という強い欲求に駆られ』た駒子。そんな駒子は、自身の身近で起こった出来事について、佐伯綾乃への手紙で触れるようになっていきます。そして、そんな佐伯から届いた返信には…というこの短編。基本的に同じ構造を取る各短編に先駆けるこの短編は、身近に起こるミステリーの謎解きをとてもわかりやすく見せていただいた好編でした。

七つの短編から構成されるこの作品は、一方で主人公の入江駒子が『書店の新刊本コーナーで』偶然に見つけた「ななつのこ」という短編集の内容がまさに入れ子になる形で構成されています。小説内小説が登場する作品は他にもありますが、この作品が凄いのは、両方の小説がそれぞれ七つの短編で構成されていて、かつ、その両方のストーリーがそれぞれの短編の中で同時に展開するという、非常に凝った作りがなされていることです。まずは、この作品の各短編のタイトル、および小説内小説の方のタイトルを一覧にまとめてみました。

本作タイトル - 小説内小説タイトル
1編目〈スイカジュースの涙〉- 〈すいかお化け〉
2編目〈モヤイの鼠〉-〈金色の鼠〉
3編目〈一枚の写真〉-〈空の青〉
4編目〈バス・ストップで〉- 〈水色の蝶〉
5編目〈一万二千年後のヴェガ〉- 〈竹やぶやけた〉
6編目〈白いたんぽぽ〉- 〈ななつのこ〉
7編目〈ななつのこ〉-〈明日咲く花〉

というような組み合わせになります。一編目の『すいか』、二編目の『鼠』以外は少なくともタイトルだけではその繋がりを感じることはできません。しかし、実際にはそのそれぞれが絶妙に絡み合い、雰囲気感を共有しながら物語は進んでいきます。どの作品も甲乙付け難いですが、特に上手いなあと感じたのは六編目の〈白いたんぽぽ〉でした。物語では小学校のキャンプのボランティアに駆り出された駒子の体験が描かれていきます。そこで出会った『いかにも儚げな少女』、それが真雪(まゆき)でした。『生命感の希薄な、線の細い子供』という真雪は、花が印刷された教材に色を塗るという課題で、チューリップや水仙だけでなく『タンポポまで、真っ白にしてしま』います。その行為を『あの子、情緒が欠落してる』と困惑する担任教師。一方で小説内小説の短編〈ななつのこ〉では、『その村の紫陽花はほとんどがピンクなのだが、はやての家の花だけはきれいな青』であるという不思議が語られます。そのそれぞれに、真雪がたんぽぽを白くした理由が『佐伯綾乃』からの手紙によって解き明かされ、はやての家の紫陽花が青である理由が『あやめさん』によって解き明かされるという展開を辿ります。ネタバレになるのでその理由は書けませんが、両者とも”科学的知識”によって、読者もなるほど!と納得の種明かしがなされる二つの物語。豆知識をもらった上で、スッキリ解決されるミステリーという形で展開していく七つの短編と小説内小説。入れ子という凝った構成がなされているにも関わらず、とても読みやすい作品だと思いました。

そして、そんな各短編では、上記した六編目同様に、『身近で起こるミステリー』を題材に、駒子が遭遇する身近で起こった謎がそれぞれ解き明かされていきます。私たちはミステリーというと、つい殺人事件が起こる血生臭い世界を想像しがちです。もちろん小説はフィクションですから、色んな場面を舞台に、色んな物語をそこに見ることができるのが魅力です。しかし、私個人としては、あまり血生臭い物語は苦手です。その一方で、なぜだろう、という謎解きを楽しむミステリーというものにはとても興味をそそられます。『なぜ、一美ちゃんは私のアルバムから写真を盗んだのだろう?そしてなぜ、今になって彼女はその写真を返してよこしたのだろう?』、『Tデパートの屋上にあった高さ約三メートル、体長約五メートルの怪獣のおもちゃが、約三十キロメートル離れたM市の保育園園庭に一夜にして移動したのは?』、そして上記したように少年が『すいか畑の番』をしたにもかかわらずスイカが盗まれた、その真犯人と手口とは?など、血生臭い殺人事件とは全く縁遠い、でもそれでいて主人公たちにとってはとても気になる疑問の数々、そういったものを本作品と小説内小説をパラレルに入り組ませながら見事に解き明かしていくこの作品。主人公・駒子が『いつだって、どこでだって、謎はすぐ近くにあったのです』と気づかされるそんな身近なミステリーが描かれる物語は、血生臭くないミステリーを探している、そんな読者にピッタリな物語だと思いました。

『きっと必要なパーツはすべて揃っているのです。揃い過ぎていると言ってもよいくらいに。いくつもの些細な”なぜ?”があります』というように、私たちの周りは、思った以上に”なぜ?”に満ち溢れています。一方で、日々忙しい私たちは、そんな”なぜ?”を十分に解決せぬままに時を過ごしてしまい”なぜ?”が”なぜ?”のままに終わってしまっていることも多々あると思います。そんな身近な”なぜ?”に正面から向き合ったこの作品。

なるほど、そういうことか!そうだったんだ!と解き明かされていくそれぞれの結末に、気分スッキリ!後味スッキリ!な気持ちにさせてくれた、優しさに満ち溢れた作品でした。

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2021年04月17日

Posted by ブクログ

予想を超えた結末でした。
殺しであれば上質なミステリーと言えるのですが、殺しは出てきません。
ミステリーといってもほのぼのとした、どうして??? なので
とても不思議な世界に入っていけます。

論理的に設計されたストーリーです。
(仕事柄、設計ということばをつかってみたかっただけ)

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2021年01月13日

Posted by ブクログ

この作者の文庫新刊をほしい本のリストに入れているのだが、中古本屋にはまだ出て来ないので、代わりに100円の棚にあって★も良かったこの本から買ってみた。

短大生の駒子ちゃんが主人公。
表紙に惹かれて手にした「ななつのこ」という本に惚れ込んだ彼女が、作者の佐伯綾乃にファンレターを書こうと思い立ち、身近に起こった事件を交えて手紙を送ったところ、その事件の”解決編”ともいうべき返事が返ってきて、そこから二人の間のやり取りが始まって…というお話。
7つの短編からなるが、それぞれの中に「ななつのこ」の話が出て来て、そこで謎解きが行われる一方、それと似通った駒子の日常での何となく腑に落ちない出来事についても綾乃による絵解きが届けられる。
何だか変わった作りで、最初の2つの話はちょっとこなれなかったのだが、3つ目の話がなかなか泣かせる話で、この辺りから興が乗ってきた。
4話目で瀬尾さんが登場して、茶目っ気がある5話目に続く。12,000年後のヴェガの話もいいよね。
駒子ちゃんがなんともいい塩梅の子で、思い出し笑いをしたり自分で思いついたことに一人で照れたりするところも、そこはかとなくほのぼのとする。
その一方、真雪ちゃんの抱える生き辛さに気付き寄り添うことが出来る心根を持っていて、まさに作中にあるように『ありふれているようで、本当は滅多に出会うことができない』女の子。
6話目の北原白秋の歌に対する解釈がまた見事で、最後の話で明かされる瀬尾さんの秘密も如何にもと思わせながらもうひと捻りひねりあって読ます。
はやて君の村の生活に加えて、プラネタリウムとかデパートの屋上とかアルバムの写真など、郷愁を誘う背景の色々も佳い雰囲気。

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2020年11月12日

Posted by ブクログ

この人の他の作品が面白かったから読んでみたが短編集だと思っていたら最後にしっかりとまとめられていたりと、ちょっと不思議な話だと思いました。心が暖かくなったり、ちょっと悲しい気持ちになったりと、楽しく読めました。

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2020年11月04日

Posted by ブクログ

何年も前に読んだことがあったけれど、ちょこちょこと内容を忘れていた。
非常に読みやすく、物語が二重構造になっているところが面白い。
駒子のキャラクターがいい。力が抜けていて。

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2019年08月22日

Posted by ブクログ

古さを感じさせない/ 主人公の女の子が非常にかわいい/ 現代でも通用するレベル/ セリフまわし、単語のチョイスが抜群/ しかし謎とその解が抜群かと言えばそうでもない/ 

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2018年10月08日

Posted by ブクログ

本作は、鮎川哲也賞受賞だが、鮎川っぽくないというか、
北村薫の「わたしと円紫師匠」シリーズぽいって感じだ。

北村薫の場合、国語の先生ということもあってか、
文学や芸術関連の談義もおおいが、こっちは、天文学のようだ。

だが、身近な謎をのほほ〜ん説くというのは、初期「わたしと円紫師匠」シリーズと
様で、問っても心地よい。

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2018年10月27日

Posted by ブクログ

短大生の駒子が、表紙に惹かれ衝動買いした本「ななつのこ」。勢いに任せ日常で起こった不思議な出来事を綴りファンレターを書いたら、作者から返事が返ってきた。駒子の日常で起こるちょっとした不思議な出来事と「ななつのこ」の文中の出来事がリンクしミステリ仕立てで物語が進んでいく七つの連作短編集。作者と駒子の邂逅も意外な形で。作中作の「ななつのこ」も「ななつのこものがたり」として出版されているみたいなので機会があれば読んでみたいです。続編もあるということなのでそちらも読んでみたいシリーズになりそうです。

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2024年04月11日

Posted by ブクログ

鮎川哲也賞を受賞したデビュー作。

主人公である女子短大生が、日常生活の中で遭遇する不思議な出来事を、手紙のやり取りで作家が解き明かしていく連作短編集です。

謎の解明を手紙で行うスタイルは、スマホやパソコンが全盛の今、とても新鮮に映りますし情緒が感られます。

随所に作中作を挟む構成も効果的で、一つの作品で二つの物語と謎解きが楽しめるのが面白いですね。

ミステリとしては物足りなさを感じますが、全編を通して柔らかで温かな雰囲気に満ちていて、心を和ませてくれる一冊でした。

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2024年01月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ふとしたことで出会った本が、ずっと忘れられない一冊になることがある。 駒子は、あんまり好きじゃないけど、主人公にはぴったりな、良くも悪くもフツーの大学生。 児童文学と青少年文学の間みたいな 『ななつのこ』と日常で遭遇する謎は、羨ましいほど駒子の世界を広げていく。 作家さんと文通ができるなんて、なんてラッキーなことだろう。謎に無理はないけど、物語にはちょっと唐突さがあるなって思っていたら、青年が答えを加えていたことがわかって、それは姉への想いなのかなと思う。ならよし、と思ってしまった。

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2022年10月08日

Posted by ブクログ

序盤から犬の扱い方に嫌な気持ちになったけど、その後は問題なく読めた。
それぞれの謎解きも(いくつか出てくる)面白かった。この作者の他の本も読んでみたいと思う。

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2020年10月08日

Posted by ブクログ

まるで童話かのようにパッケージされてるんだけど、描かれているものはシビア。
入れ子構造で飽きない。
人物も魅力的。
さらりと読めて意外に残る。
真雪ちゃんが好きだなー、名前も含めて。

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2019年08月06日

Posted by ブクログ

穏やかで少し不思議な日常の謎を物語にかけてよみ解いていく。
主人公が微笑みながら手紙書いてる様子が目に浮かぶ。

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2018年06月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

女子大生駒子は「ななつのこ」を読んで感動し作者にファンレターを出す。作中の「ななつのこ」も魅力的な作品。瀬尾くんの正体が明かされてびっくり。なにか秘密がありそうだとは思ったけど、まさか「ななつのこ」作者だったとは。駒子と真雪の関係、瀬尾の真雪家族へのサポートの仕方がよかった。

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2018年06月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

北村薫氏へのオマージュときいて。

最後のオチをきいて、表紙をみて 女子高生に読ませたいなぁ、と。キュンキュンするのではないだろうか。。。
ただ、ラストの主人公のセリフ、もっと彼女らしくて、でも可愛らしいのがあったのではないかなぁ。。。と思ってしまった。
そこで吹き出して笑ってくれるかなぁ。。。
ぁ、それほど手紙のやり取りで関係性が伝わっていたという事だろうか。
それか、同じ価値観、感性という事で。

二十歳への見解と、天文学の連星の話が面白かった。

比較してしまうと、北村氏の方がより読書好きの女の子を上手く表現しているのでは、と感じてしまった。

これはこれで綺麗にまとまっているので
続きがどのような方向性にいくのか。。。気になる。

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2018年01月15日

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