あらすじ
「あをによし奈良の都は咲く花の…」とうたわれた白鳳・天平時代の古代人はいかに生きていたか.壬申の乱から説きおこし,天皇を中心とする当時の支配層内部の葛藤を暴露するとともに,その専制と戦乱の下で苦しむ人民の生活と哀歓を生き生きと再現し,萬葉集を生み出した時代背景を明らかにする.真に萬葉集を理解するための道を開いた名著.※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.
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Posted by ブクログ
壬申の乱から平安遷都にいたるまでの歴史の流れをたどりながら、同時代を生きた万葉歌人たちの歌を紹介している本です。
天武および持統天皇の時代に確立され、大仏造立という国家的事業をなしとげた聖武天皇にいたるまでの白鳳・天平時代は、天皇による専制を志向しつつもその内部で藤原氏がしだいに権力を掌握するというかたちで、政治が動いていきました。宮廷歌人であった柿本人麿は、天皇の治世を寿ぐとともに、権力闘争のなかで命を落とした人びとへの哀悼を歌に託しました。
他方、農民たちの苦しい生活に目を向けた山上憶良は、「貧窮問答歌」に代表される独創的な作風を追求します。さらに東歌・防人歌には、公民の支配が強化されるなかで苦しみにさいなまれる庶民の心情が表現されています。
『万葉集』は、こうした幅広い階級の人びとの思いを表現する歌を採録しており、この時代を生きた人々の息吹に触れることのできる作品になりえています。その背景には、中国文化を取り入れて詩作をおこない、遊園の席でそれを口誦する宮廷人たちの文化的成熟と、庶民のあいだで口ずさまれる民謡が洗練されて彼らの文学的な資質が高められるという、二つの潮流がありました。本書は、こうした文化史における変化と、政治史における出来事が相互にからみあって展開される時代の様相をえがき出しています。