【感想・ネタバレ】戒厳のレビュー

あらすじ

ソウルの大学への就職話というのもそれほど悪いものではないかもしれない。なにしろ自分はこの2年というもの、横文字ばかり読んできて、すっかり頭が欧米向きになってしまった。フランス語も英語も存在しない、この不思議な文字の連なりからなる国に足を向けるというのも、考えようによっては面白いに違いない。焼肉もキムチも好きだ。焼肉は食べ放題だっていうではないか。きっとこれは真の意味で冒険となるだろう。何しろまったく予備知識のない社会に、白紙同然の状態で行こうとするのだからな。となれば、ぐずぐずはしていられない。今すぐパスポートを申請し、ヴィザの発給を受け、この文字に少しでも親しんでおくことだ。わたしはそう決意した。わたしはパスポートを受け取ると、その足で南麻布にある大韓民国大使館に向かった。
1970年代に日本人が韓国を訪問するには、理由と期間の如何を問わず、ヴィザの発給を受ける必要があった。とりわけわたしの場合には、観光や就学のヴィザではない。一年間を外国人教師として過ごすには労働ヴィザを取得しておかねばならない。それは極めて稀なことだったのである。……

「ところで皆さん、韓国に行ったことはありますか。」宴会のなかで梁さんの発したひと言が「わたし」の運命を大きく変えた。20代前半の「わたし」は日本語教師として、ソウルの大学に赴任し、そこで朴正煕大統領暗殺、戒厳令の施行に遭遇する。『ソウルの風景』(岩波新書)の著者による渾身作。

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Posted by ブクログ

127非常に面白く閉鎖的だった時代の韓国の市民の描写がいきいきと描かれていて一気に読んだ。軍事政権ですぐ逮捕される。されたら帰って来られない、と言うことを刷り込まれていた世代からすると、当時日本人が教鞭をとっていた事実にも驚かされる。時代と民族と国家と、何かと考えさせる物語でした。

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2023年10月24日

Posted by ブクログ

まさに「ソウルの春」直前までソウルの大学で日本語教師を務めていた四方田先生の自伝的小説。1979年のソウルの街がイキイキと描かれている。日帝統治時代を過ごした世代は懐かしそうに日本語で思い出話を語り、大学生は密かに日本のサブカルチャーに憧れ日本語を学ぶ。予備知識なく乗り込んだ四方田先生を困惑させるのであった。
最後の事件に向けてギリギリと緊張感が高まるところは現地に滞在していた著者ならでは。それにしても、あと半年滞在すれば「春」を体験でき、それを(日本人として)記録して後世に伝えることができたのに残念です。
東大のご学友たちの韓国に対する態度の腹立たしさよ。3.5

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2025年04月08日

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