あらすじ
著者初の自伝的小説集。
因習的な故郷に、男性社会からのいわれなき侮蔑に、メディアの暴力に苦しめられた時に、
「わたし」はいつも正論を命綱に生き延びてきた――
7年ぶりに声を聞く母からの電話で父の危篤を知らされた小説家の「わたし」は、最期を看取るために、コロナ禍の鳥取に帰省する。
なぜ、わたしの家族は解体したのだろうか?
長年のわだかまりを抱えながら母を支えて父を弔う日々を通じて、わたしは母と父のあいだに確実にあった愛情に初めて気づく。
しかし、故郷には長くは留まれない。そう、ここは「りこうに生まれてしまった」少女にとっては、複雑で難しい、因習的な不文律に縛られた土地だ。
何度埋められても、理屈と正論を命綱になんとかして穴から這い上がった少女は東京に逃れ、そこで小説家になったのだ。
「文學界」掲載時から話題を呼んだ自伝的小説「少女を埋める」と、
発表後の激動の日々を描いた続篇「キメラ」、書き下ろし「夏の終わり」の3篇を収録。
近しい人間の死を経験したことのあるすべての読者の心にそっと語りかけると同時に、
「出ていけ、もしくは従え」と迫る理不尽な共同体に抗う「少女」たちに切実に寄り添う、希望の書。
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Posted by ブクログ
なぜ自分がこの作家が好きだったのかよく分かった作品。少女を埋めるでは、考え方や思想が驚くくらい同じでびっくりした。
家父長制に違和感を感じ、従順できずにもがいた女性の話。「女性だからこうあるべき」っていうのに従う方が楽なこともたくさんあると思うけど、そうやって生きることが苦しい生物学的に女である人もいる。
ジェンダーギャップ指数の順位が低い日本の、女性の幸福度は高いときく。男の人に稼いでもらって、奢られたり守られたり、仕事で重い責任を負うより専業主婦が希望って女性も多いだろうから、それを希望する女性にとっては、その生き方はかしこく正しいと思う。でもその生き方を希望しない女性は、煙たがられて排除されるべきなのかな?
持ってしまった違和感を捻じ曲げることができない私も、その社会では異分子だったと思う。その点新しい所謂東京的な価値観は、息がしやすい。
正論は自分を守る命綱、まさにそうだった。
キメラ以降では、問題をただ切り捨てるのではなく、後の世代のために思考して進んでいくべきというメッセージを強く感じたが、私もそう思う。