あらすじ
大正時代・帝都。新富町で歯科医院を開く花守啓介は、治療で使う道具を追究するうちにある鍛冶職人の作品に興味を持つようになる。人づてに頼んで向島の指物師が持つ十本組のノミを見せてもらうが、その名品が忽然と消えた時、花守が犯人と疑われてしまった。現場を調査したのは、農商務省の嘱託・白菊芳史。彼は人の悪意を養分にする“異客”と呼ばれる寄生植物の対応に当たっていて……? 明朗快活な好漢と人を寄せ付けない美貌の男の出会いから始まる、謎めく植物をめぐる探偵譚。
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Posted by ブクログ
水仙に菫、つゆ草に菊。
馴染み深い花々の美しさ、事件の哀しさ、そして花守の底抜けの優しさが印象的な物語だった。
歯医者ながら人間の悪意を養分にする寄生植物「異客」を枯らすのではなく解いてしまう器用な手を持つ。
植物を愛しながらも枯らす手を持ってしまった白菊にとって、花守の手はまさしく救いの手だった。
彼の「花を守る」名に相応しい優しさも。
それゆえ、彼の「解く」行為に伴う代償怖さに、白菊は一度彼から離れようと決意してしまうが。
ここで、自分が傷つくことを恐れず、まして白菊に「僕が傷つく覚悟をしてくれないか」という花守。
この発言には驚いた。
ただ優しいというだけではない。
友を信じているからこそ言える言葉だと思う。
一人で抱えるのではなく、共に傷つこうというのだ。
敵わないなと思った。
白菊も、きっと。
どの事件も一筋縄では行かず、「そう来たか!」と驚く話が多い。
特にラストの「菊」の話は、真犯人の意外な正体も含めて本当に驚いたし、結末の切なさが印象的だった。
書き下ろしペーパーにあった話を読んだ後だとより辛い。
でも美しくて、哀しいのにその美しさにどうしようもなく惹かれてしまう。
心に残る物語だった。
願わくば、彼らの更なる活躍を読めますように。
Posted by ブクログ
なんて綺麗で静かな文章なんだろう
人に寄生し悪感情を増幅、養分とする寄生植物異客を見つけ取り除く二人の出会いと想いの物語
言葉や文字が草花を表すような雰囲気があってイラストもとても合っていました
自身の命の危険に対して、大丈夫や平気だ、ではなく、(君が)傷付く覚悟をしてくれないか、と返す場面にぐっときました
異客の事件は終わらないと思うので、続編あったら嬉しいな!