あらすじ
第166回芥川賞候補作!令和版「女生徒」
どうして娘っていうのは、こんなにいつでも、
お母さんのことを考えてばかりいるんだろう。
社会派YouTuberとしての活動に夢中な14歳の娘は、
私のことを「小説に思考を侵されたかわいそうな女」だと思っている。
そんな娘の最新投稿は、なぜか太宰治の「女生徒」について――?
第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」を同時収録。
感情タグBEST3
うまい、と思わず唸る二作。東京都同情塔から九段作品に入り、彼女の魅力に取り憑かれています。芥川賞候補だったschool girlの現代的な作品世界に驚かされ、文學界新人賞受賞作品の悪い音楽には声を出してわらってしまった。
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最っ高。①『Schoolgirl』、②『悪い音楽』の二作品。
①太宰治の『女生徒』を読んでからすぐ読んだら、かなり対比が分かりやすく、読みやすかった。
とはいえ、30ページくらいでおなかいっぱいなほど現代で母親になることの難しさ(?)に心が限界を感じ始めた笑
今回は主人公は大人の「元女生徒」で、14歳の娘がいる。
「何気ない雑談を額面通りに受けとってくれる素直な人って、最近はもうどこを探してもいない。」
これを30ページで既に痛いほど丁寧に言語化してくれてる。
②これは本当に素敵すぎる音楽教師のはなし。子どもの頃、「社会経験を通してない、子どもの社会に居続ける教師」という存在がほんっとうに嫌いだったが、教師に「なる」と考えてみたら中々愉快で不純物の少ない社会に身をおけるのは悪くないのかもしれないと思う。
あと最後の下り最高に音楽が壮大を体現してて良かった。
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これは面白かった!
2編とも好き
Schoolgirlの意識高い娘と箱入りお嬢様風母のやりとりと関係性がいい
悪い音楽の先生、才能を持つ人って意外とこういう感じなのかもしれない
総じて若い女性の自意識に批判的なんだけど、そこには著者自身の若い時を写してるのかもしれない
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school girl 2022年の芥川賞候補、小説を愛する母親と、社会問題に目を向ける娘のそれぞれを描く。太宰治の女学生を踏まえた作品。何だかんだいって、娘には母親がとても気になる、という点に落ち着く。
併録の悪い音楽はこの作家のデビュー作らしい。 毒が効いていて面白い。
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面白かった。
楽しませてくれる小説に出会った喜びを感じます。
144ページ「悪い音楽」
「事前に私の人となりを詳しく知ってしまったら、音楽以外の要素があなたの作品に影響を及ぼしてしまうのでは?」
この言葉にドキッとした。
芸術作品を本当にそれだけ鑑賞しているのかと日頃感じているので、刺さりました。
86ページ「Schol girl」
「頭の中からできるだけ自分を失くす」
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『School』
“みんなを愛したい”
からの
“美しく生きたいと思います”
が良かったです。
あと、少女のうちに死にたかった、、、ってところも。
上記だけでなく、冒頭から太宰治『女生徒』のオマージュを彷彿とさせるはじまり。
太宰治『女生徒』が十代の少女の日記をベースにした小説であり、語り手というか本来の日記の書き手の少女は当然ひとり。
それに対して『Schoolgirl』は母と娘が、母のモノローグと娘が一方的に社会派YouTuberとして配信する動画で語っている。
娘になめられている母親も読み進むにつれて母親然としている。
偉そうなことを言っている娘もお母さんお母さんと繰り返す。
今まで一番ひどい、と塞ぎ込んでいる娘に対して、たかだか14年分だけのニュースを頭の中で振り返るだけで済ませる母親。東日本大震災でさえも対象にならない。それが娘の、少女の年齢を極端に浮かび上がらせてきたと感じた。
太宰治『女生徒』を書いた1937年は戦時中だったと。そんな話をしたとき、小説に囚われた母親のことどう思ったんだろうかってまだ少し考えてます。
母も娘も名前が出てこない。これは母と娘のふたりが語っている(娘は動画を通して)けど、結局これは一人なんだろうな。ってよく分からない感想に行き着きました。
―――――――
『悪い音楽』
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グレタさん風社会派中学生YouTuber × 文學が好きな専業主婦の母を描いた「School girl」、音楽で食べていく道を断念した元音大生の音楽教師×合唱コンクールで優勝したい熱心な生徒を描いた「悪い音楽」の2編から成る作品。
社会に揉まれていく内に諦めと限界と妥協を知った大人と、そんな大人の冷めた態度に純粋な気持ちで真っ向から反抗する子供の対立構造。軽快な文章とその表現力、時に皮肉が込められた台詞などそのどれもが面白く飽きない。
九段理江先生の感性はめちゃくちゃ新しい発見になる。
School girl|変な反抗期を迎えると子供はこうなるのか。太宰治の「女生徒」など小説を愛読する母に対して、フィクションを読むのは時間の無駄だと一刀両断する娘。娘が母の本棚を遡っていったシーンが印象的。確かに人の本棚ってある意味その人の持つ思想や何か核のような部分が反映されているのかも。ここでも「東京都同情塔」の主題の1つである、生まれながら恵まれているから善人、恵まれていない人は悪人になりうるという一節があった。
悪い音楽|問題を起こした生徒の保護者と面談する場面で、脳内でリリックを再生して韻を踏んでいたのは、まさか合唱コンクールの後夜祭で披露する演目のテーマだったからというのは想定外で笑った。
同居人のサエは、感情が不安定な時があり、自分が話したいことをつらつらと話してスッキリして満足するタイプで、聴く側の感情を置き去りにする。不謹慎や道徳的線引きが違うので、こっちはセーフでも向こうはアウト…みたいなことがある。クライマックスは、地震が起きて担当クラスの合唱が中断したのに、再開せず自分の演目をやり切ったのは、さすがに実際にいるとドン引きしたけどソナタの気持ちも分かる。読後感はなぜかすっきりとした不思議な作品でした。
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『Schoolgirl』も良かったが、『悪い音楽』に登場する音楽教師ソナタのズレが印象的だった。
保護者を呼んで生徒指導する場面で、その内容をネタにしたラップを考え、教師や保護者から問い詰められたり、合唱コンクールな学級指導で音痴な男子をカバーするために声量をあげることを指導し伴奏者の生徒から反感をかったりと、音楽的才能は優れているのに、あまりにも周囲と噛み合わない感じが、実に面白かった。
今後の作品にも目が離せない。
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表題作『Schoolgirl』の親子は、簡単に病名が付く令和では客観的に診察されたら何かしらの病名が付くのかもしれない。親子関係としてはありふれた現代的な親子で、情報社会に影響を受けまくった活動家もどきの子供っていうのは沢山いる気がする。大抵は予防接種みたいなもので、厨二病の亜種のようなものなのかもしれない。
『悪い音楽』の主人公は音楽家になっていれば芸術家らしいと称される人物だろう。全てが音楽を中心の彼女が、音楽のために同居人を手放してしまわないことを祈る。登場する女子生徒は、私はめちゃくちゃ苦手なタイプ。なんで女が二股すると男同士が殴り合うんだろうな。二股した張本人を殴るならまだ理解できるんだけどな。
『Schoolgirl』の親子はこの後も親子として相手のことがちょっとわからなかったり、言いたくないことがありながらも親子であり続けるような気がするが、『悪い音楽』のソナタはふとしたキッカケで全てを手放してしまえる。しかもそれに対して後悔はしなさそうで心配になってしまう。
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表題のと、悪い音楽、との二本立てだったが、悪い音楽の方が好み。
小説というより、現実に近くて面白かった。
ただ、いつも読みたい話ではないかも。並行して読んでいた別の小説も良かったのに、それの現実離れ感が増してしまって白けるくらい、インパクトはあった。
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⚫︎受け取ったメッセージ
言葉で表現することの可能性
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
祝・第170回芥川賞受賞
新芥川賞作家の原点。第73回芸術選奨新人賞受賞作。
どうして娘っていうのは、こんなにいつでも、
お母さんのことを考えてばかりいるんだろう。
社会派YouTuberとしての活動に夢中な14歳の娘は、
私のことを「小説に思考を侵されたかわいそうな女」だと思っている。
そんな娘の最新投稿は、なぜか太宰治の「女生徒」について――?
第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」を同時収録。
⚫︎感想
2作ともこれぞ純文学という感じで、芥川賞に選ばれてもよかったじゃないか?と思えた。大変面白く読めた。
「School girl」
小説の可能性を見出せる小説。母になる前の母を知りたいと思い娘が見つけた太宰治の「女生徒」
太宰治の「女生徒」を踏まえた、対照的な娘と母の話。「女生徒」を読んでから本作を読み、よかったと思う。社会派YouTuberの聡明で正義感あふれる娘をもち、娘に小馬鹿にされる発言を受けながらも一生懸命子育てはしようとしている母である主人公。当たり障りのない言葉を探しながら。でもしれっと不倫していたりもする。
「東京都同情塔」でも指摘されていた2点。
誰も傷つかない言葉の追及、生まれながらにして恵まれていれば当然良い人になり、悪い人になりようがないという指摘。
周りのでき事も人も早回しで進み、娘は世界の真実を把握するのに「5分で分かる世界の真実」の動画を再生し、あっという間に子供に追い越され遠ざかる。これは現代の親の立場では共感する部分だ。
太宰が書いた時代の女生徒と、九段さんが書いたSchoolgirlとでは、同年齢の女の子たちでも、およそ100年違えば相当に異なった状況にある。思考のスピードの違いを「女生徒」の読点の多さという表記に重ねて考察しているところもおもしろい。
また、娘は、母親を小説に思考を侵されたかわいそうな人という一方で、母の蔵書のラインナップを探索することで、自分が生まれるまえの母という人を探る、そして見つけた「女生徒」。母を思う(いいも悪いも)気持ちは時代を超えても変わらない。
※特に印象的だった部分
「私とあなたではたぶん、前提の共有ができてないだけだと思う。あなたにとっては本当の反対は嘘で、夢の対義語が現実なんでしょ?フィクションの反対はノンフィクションで、良いの反対は悪い?…でも私の脳の言語野ではそんなきれいに言葉の意味ってわけられていないのよ。…」
「戦争に勝利すれば何かいいことがある」のような大きな「大説」は今はほとんど相手にされていないにしても、少なくとも太宰治が残したような「小説」は私もあなたも共有している。
「悪い音楽」
感情がうすい音楽教師、三井ソナタ。音楽の抜群の才能がある。生徒が怪我する場面、父(世界を飛び回る音楽家)が音楽教師などだめだと意見する場面、「横田かのん(情熱的だが、音楽の才能は皆無)」が訴えかけてくる場面…など深刻な場面で、ほぼ感情が動かないどころか笑えてきたり、別のことをかんがえたりしている。真剣な場面で無意識に微笑んでいたらしく、指摘される。
彼女自身、感情について考察する場面がある。芸術家たちがが感情のバリエーションを創り出し、それらを吸収しているだけではないのか?と。「表情なんてものは、ただの顔を組織している筋肉の動きじゃないか」。と、考えたその夜、表情筋トレーニング講座に申込をしている。生徒たちの合唱よりも、合唱祭にかける自らの音楽とその完成度からも、全く教師には向いていない。最後は横田に担任先生としての立場を奪われる。
三井ソナタと横田かのんは対照的な人物像で、おもしろい。二人ともバランスが著しく悪い。一方は音楽の天賦の才能を持つが感情が薄く、もう一方は大変情熱家で自らが中1にもかかわらず、生徒を率いる力があるが音楽の才能はない。
感情がうすくて客観的すぎるものの見方のせいで、笑える箇所が何ヶ所かあり、最初から最後まで一気に読めた。
Posted by ブクログ
ネットと繋がって自己発信することが当たり前、生まれながらに多様な価値観に触れて生きてきた「娘」と、時代の流れには乗らず「少女時代」から触れてきた文化を大切にしている「母」が対照的に描かれていて、序盤、娘の強さに圧倒されて母の気持ちや境遇を考えるといたたまれない気持ちになるのだが、終盤立場がガラリと変わる。結局、体験せずに見聞きしただけの情報から「自分」を方向付けるよりも、自分の世界にとっぷり浸かって、考え、感じたことの方がリアルで、重みがあって生きた価値観なのかなと思った。
九段先生は、現代社会に新たに発生した価値観を否定したいわけじゃないのだろうけれど、メスを入れるのが上手いと思う。とてもおもしろかった。
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「School girl」、「悪い音楽」の2篇
「School girl」は太宰治の「女生徒」を踏まえた作品で面白かった。
「悪い音楽」の方が面白かった。語感が良くて読むのが楽しかった。
米津玄師に憧れている生徒に米津風作曲のコツでも「レクチャーしてやって、好感度を上げておくんだった」の一節がウケた。
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語感が良くて笑ってしまう。
一話目の娘と二話目の音楽教師が特に面白い。
ユニークな登場人物が多いが実在しそうなタイプばかり。
人を殴るときは床の素材を考えて欲しいとか、口には出せないけれど掃除する側は確かにちょっと思うかも……
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田内学さんが薦めてて読んだ
グレタさんが娘だったら相当しんどいな
親に言えないことをyou tube配信しちゃう人いるけど不思議だよな。親が見てるかもしれないのに。
刀だと切れないけど銃だと撃てるみたいな感じなのか?
世界が理不尽な殺し合いをしていても助けたいのはお母さんただひとり、なぜ女の子はこんなにもお母さんのことを考えているのか
泣いた。作者、子供いるのか??
女生徒を読みたくなった
ラップ刻みたくなった
Posted by ブクログ
変人なのに自分が真っ当だと思っている、っていう点で、『成瀬は天下を…』の成瀬もそうなのだが、成瀬はジェダイで九段理江の人物たちはダースベーダーみたいな。
勝手にそんなイメージ。
『Schoolgirl』は太宰『女生徒』と対だが、短編のもう一作『悪い音楽』とも対になっている。短編内二作の主人公二人は似ている。対する「娘」と「教え子の女子」も似ている。後者たちは「正しさ」を振りかざし、文学や音楽(といっても高度な音楽)を否定(もしくは理解しない)。前者は敗北者。女の敗北の対として、普通は「権力者=男」みたいな構図で話を進めていく女性作家が多い中で、九段理江は特殊。また自己(=私、あなた)を深追いしていく。文体はめちゃくちゃ読みやすいが、後から考えると脳が割れそうになる…。
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少女と女性
娘と母
女生徒とSchoolgirl
それらの対比で娘と母の関係や女性と世界の関係を描いている傑作。
太宰治の『女生徒』を中心に母と娘と世界が交わる物語。
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直前に太宰治の「女生徒」を読んだのは、本書を読む事前情報収集のためでした。なにしろ本書には、〈令和版「女生徒」〉〈「女生徒」を大胆に更新〉等のキャッチーな宣伝があり、本作も芥川賞候補だったこと、さらに九段さんがBS番組で、かつて三島由紀夫にのめり込む前に太宰治にハマっていた(真逆な二人と思うのですが…)と話され、興味が増したのです。表題作の他、デビュー作「悪い音楽」も収録されています。
表題作「Schoolgirl」の主人公「私」は、母親と娘で視点が交互に切り替わります。タワマンで暮らす母親は専業主婦(夫は出張中)で、大の読書好き。一方、14歳の娘はインターナショナルスクール生で、環境や社会問題に意識が高く、英語で発信する中学生YouTuberです。
実際作中に太宰の「女生徒」が登場しますが、それだけでなく、設定や物語の構造、語り口、アクセントになっている物や言葉、そして何よりも母と娘の感情の揺れ動きや葛藤など多くの共通点があり、九段さんの太宰へのオマージュが感じられます。
二人の関係は、なかなか噛み合いません。母親は、賢い娘を大切に思うものの、いろいろと抱えています。娘は意識高い系で母親を見下し、上手く関係性を築けません。母娘の関係は普遍的なのでしょうか? 真似た設定故なのでしょうか?
結果的に、小説「女生徒」の存在が、二人の歩み寄りのきっかけとなるのでした。物語の力ですかね。
もう一編の「悪い音楽」のレビューは割愛しますが、なかなか「心」が伴わない中学女性音楽教師の話です。こちらも一気読みできるエンタメ性がありました。構成や筆致、あふれ出る言葉の煌めきに引き込まれました。九段さんのその後の活躍を予感させる2作だと感じました。
Posted by ブクログ
九段理江さんといえば、なんといっても、芥川賞受賞作品である「東京都同情塔」だとは思うのだが、捻くれている私は先に初小説集である、こちらから読んでみて、どんな感じなのかを確かめたくなってしまう衝動に駆られてしまったと思ったら、こちらも表題作が芥川賞候補作だったのですね。
そして、読んでみて驚いたのは、このタイトルが若い頃に読んだ小説(内容は殆ど覚えていないが)の英語版だということで、帯にも「令和版『女生徒』」と書いてある通り、現代の多様化した社会に於いても依然変わらずに残り続ける、鬱屈とした雰囲気をシニカルに描きながらも、元の作品に於ける当時の空気感漂う文体との邂逅を果たすことで、それが母と娘との関係性の変わらない部分であったり、思春期に胸に抱いた方もいるであろう、この世界に生まれてきたことへの漠然とした不安感であったりといった、そうした普遍的なものを元の作品から得られたことによって、実は時が経っても変わらないものは確かに存在するのではないかと実感できたことが、今を生きる人達にとって大きなひとすじの希望となるのではないかと感じ、それを九段さんは『Awakening(目覚め)』に込めているようで、この言葉は本書に収録されたもう一つの作品、「悪い音楽」に登場することからも、本書の共通するテーマ性を窺わせるものがありました。
更に本好きにとって嬉しいことに、表題作では小説が嫌いな娘が作品との出会いを介して、少しずつそれへの印象が変わっていく様子を文学的に描いている点に、まるで小説と出会ったことは、新たな自分への萌芽を表しているような素晴らしさでもあり、それは『私とは別の思考を持った女の子が、頭の中に入り込んできて、私を乗っ取っていく感じがする』といったフィクションなのに、とても臨場感のあるそうした感覚は、まさに小説ならではの内から湧いてくるリアルさなのだと感じ、彼女は最初『小説は現実逃避のための読み物でしかなく』と言っていましたが、小説はそれを読むことで元気をもらって現実世界を生きる活力にもなりますし、そもそも現実逃避は自分自身を癒すための本能的な、自分が自分を思い遣っていることの裏返しの行動だと思うので、決して悪いことではないと思います。
それから、表紙の西山寛紀さん作『Afternoon』の、どこか懐かしさと新しさが融合したような装画には、まるで女生徒とSchoolgirl、それぞれの良さの結晶とも感じさせるような、決して華がある感じではないけれど、つい何度も見てしまう魅力がありました。
次に、もう一つの作品「悪い音楽」ですが、現代社会に於いて、問題のある教師のニュースが時折話題となる中で、随分と挑戦的な作品だなと感じましたが、これが読んでみると、声に出して笑ってしまうくらいの不適切極まりない自分を痛感しまして、そこには、人間の嫌な部分をあけすけに描いたことによる潔さから、そういった部分は表に出すか出さないかだけで程度の差はあれど、誰もが持っていることを肯定してくれたことに、表現の自由の素晴らしさを感じましたが、それにしても、問題を起こした生徒二人と保護者と先生方が集まった場で、心の中とはいえラップの韻を踏むのはまずいと思いますがね。
そういえば、私の通った中学校の音楽教師も、どこか他の先生とは違う雰囲気を放っていたというか、その独特な話し方や仕種に、ああ芸術家とはこういったタイプの方のことを言うのかなと思いましたが、ここでの音楽教師(女性)は内面を知ると、とても気さくな印象を持たせてくれながら、大人の持つ純粋な狂気性も併せ持つことに加えて、知識量がある分、その万全なセルフケアによってメンタルの強さはあるものの、終盤の展開には侘しさを漂わせるものがあることに、現実の厳しさを思い知らせるけれど、彼女も根っからの悪人ではなく、ただ自然体で生きているだけなのだと思われる点には、いったい何が正しくて正しくないのか分からなくなる・・・って、ならないか(^_^;)
ただ、それでも彼女自身の音楽好きには、別格で尊敬できるものがあり、それは学校で開催される合唱祭の中の特別演奏で、テルミンやガムラン、タブラ等、比較的マイナーな音楽を本気で演奏することや、ロックにジャズ、クラシックと幅広いジャンルの音楽に精通した話も面白く、私からしたら彼女の悲劇は、昔のロックに対して持たれていた悪いイメージのような、見る人によっては、そんな狂気性も芸術的な感動や衝動的でイカしたカッコよさに変わったり、パンクの精神に近い世界平和に繋がるものであったりと、どんな人間にもそうした多面的な見え方があるのだということを、取りあえず信じたいです(笑)
色々と書きましたが、とにかく私の中で画期的だったのは、深淵なことも書いてありながらこんなに笑わせてくれた、当時で言うところの未来の芥川賞受賞作家の作品(「悪い音楽」)は初めてだということで、他の方々のレビューから難しい印象を抱いていた、「東京都同情塔」も俄然楽しみになってきました。
Posted by ブクログ
グレタに憧れる女子中学生と文学を愛する母親。
フィクションは時間の無駄だという娘と
戦時中ですらフィクションこそ生き残るという母。
九段さんと小川哲さんの文章に共通点を感じ、この人の文章が好きだと直感が働いた。
太宰治の女生徒を基に書かれたそうだが、知識がないせいか「なるほど、女生徒はこういう作品なのか」としか思わなかった。
AIスピーカーやYouTubeのない時代、女生徒はどんなふうに書かれていたのだろう。
娘がフィクションを信じていないにも関わらず、母の本棚をどんどん散策していき、遂に「女生徒」にたどり着く。
そして。。
母を毛嫌いし、馬鹿にしつつも、母の世界に入りたい娘の気持ち。そこが絶妙だった。
心に残った文章。
“あさ、目を覚ます時の気持ちはおもしろい”
“少女のうちに死にたかった。”
そして、デビュー作の「悪い音楽」はある意味ぶっ飛んでいる…でも読む手が止まらない。
こういうものを面白いというのだろう。
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少女ゆえの全能感、自分以外のみんな、特に自分の世話を焼く母親が馬鹿に思える。そんな少女期を通過していく様子が、読んでいて痛みを感じるほどよく描かれている。母親に愛されているからこその辛辣な言葉と、赤の他人に向けて吐露される本音。「明日から戦争が始まるっていう日でも、お母さんは小説の話をするの?」母親の答えに少女が気付きを得るのと同じように、私もハッとさせられた。
「悪い音楽」にも、全能少女が登場するが、対する音楽教師もなかなかのものである。行き過ぎた音楽ファーストによって、教師として窮地に立たされることになる。こちらは「Schoolgirl」とは違って笑いながら読めた。面白い。
Posted by ブクログ
つい最近芥川賞を取ったばかりでマスコミに露出も多くなった作家なので受賞作はまだだが先ずは本作から読んでみた。2作の短編だがどちらも女性が主役だ、文章に区切りがなく読みにくい作風だが、そのたたみ掛けが良いのかもしれない。一人は主婦そしてその娘、もうひとつは音楽教師とその生徒。どちらもその役割を実際の行いとその思想に問題はあるが必死にその役割を果たそうとしている、何故か生きるのがつらそうだ、世の中の女性は皆そうなのかと疑ってしまう、その点男の単純なこと、なぜだか悲しくなってしまう。
Posted by ブクログ
新人賞受賞作「悪い音楽」から読みました。
人の心がわからない教師の話。
音楽家の父につけられた名は「ソナタ」。
もうこれは呪いだな。
確かに、心に寄り添うとか感情を揺さぶるとか、やたら共感を求められる時代にあって、他人の感情を忖度しない人は悪者扱いされてしまうのかも。
ソナタ先生は感情が無いわけではなく、自覚が薄いだけで喜怒哀楽の末に苦しんだり傷ついたりもしている。サエはちゃんとそれを感じとっているのだとラストシーンを解釈しました。
「Schoolgirl」はステレオタイプな思考が並び実態がつかみづらい。世界は大小のさまざまな説でできている。良い意味で最初の印象が裏切られていきます。
主義にとりつかれている娘は、生きている実感が欲しいのかな。だとしたら私も誰かが語る「現実」よりも小説を支持します。
Posted by ブクログ
「School girl」では、14歳の娘をもつお母さんの想いと映像で語っているyoutuberの娘の想いを交差しながら読むことが不思議な感覚でした。
さらにそこに太宰治「女生徒」の話しが出てきて、時間軸的にも面白く描かれていました。
まだ「女生徒」読んだことないので、読んでからまたこの本を読み返してみたいです。何かまだトリッキーな仕込みがありそうです。
そしてもう一つの「悪い音楽」ですが、癖があり、新しい視点であり、そしてつい笑ってしまう場面あり、音楽で例えるとロック?いやカートコバーンやビリーコーガンを思わせるオルタネイティブ的な気持ちを感じました。
わたしも心当たりがあるのですが、笑ってはいけない状況で笑う場面が所々にあり、失笑恐怖症なのか映画の「ジョーカー」を思い出し、不謹慎さの状況の中自分だったらどう感じたか、ここがポイントだったのかなと感じます。
この本を読む人によっては批判はあると思いますが、わたしは好みでした。
二世のイメージ、教員のイメージ、世の中ステレオタイプだらけの中でも、気にせず生きていく本物の素直さが目に沁みます。
どちらのお話しもストーリー重視で攻めず、人間の癖で攻める九段理江さんの本は、また読むのが楽しみです。
Posted by ブクログ
表題作の【女生徒】は、私も大好きな太宰の女生徒を本歌取りしているということで、どんな小説になるんだろうと芥川賞ノミネート作の中でもとりわけ気になっていた。
バイリンガル社会派Youtuberとして意識高く活動する14歳の娘から、“小説ばかり読んで頭がおかしくなった空想癖のある母親”と見下されている34歳の「私」。
彼女と同様、なぜ私も女生徒が好きかというと、ありのままの少女がありのままに描かれているからなんだよね。純度100%の共感があって、だからこちらの小説でも私はきっと14歳の娘の方に理解できるものがあるかと思ったんだけど、全然そうじゃなかった。驚愕。
娘から馬鹿にされ冷たい目を向けられる34歳の母親、もう彼女の方こそが私なんだ。あと数年後にそうなるであろうと思われる未来の私。
えっ待って?あと数年後にはうちも同じじゃん。私が34歳で、娘が14歳になるじゃん。自分が14歳だった頃の気持ちだって、まだすごくよく覚えてるのに。
子育てと家事しかない親を馬鹿にして、すごく嫌な娘だったと思う。お母さんにも14歳の時があったなんて一度も、想像したことなかったと思う。
そんな私は今や、娘のお母さんなのか。やがて娘も私に他人のような視線を向け、私の知らない言葉で喋り出すんだろう。
読みながら打ちのめされたような気持ちになった。でもとても好き。
続く【悪い音楽】、こちらが新人賞デビュー作とのこと。著名な音楽家を父に持つ音楽教師の話で、読んでいるこちら側を巻き込んで徐々に世界が歪まされていく感じが心地良かった。狂想曲って感じ。狂想曲がなんなのかよくわかってないけど。
Posted by ブクログ
◯Schoolgirl
34の母と、環境保護などのyoutuberをしている14歳の娘。母はその母から虐待を受けていて、娘の気持ちを優先するが娘の意識が高く噛み合わない。母視線と、娘は母の見るyoutubeの中で想いを語る。太宰の女生徒をきっかけに会話の兆しができて終わる。
巧みな文章で娘と分かり合えない母の感情が描かれているけど、なぜ娘はその高い意識に反して「本当はお母さんだけを助けたい」までの感情があるのか、たぶんそのために嫌いな小説、女生徒に興味を持ったのかがわからない。そこの葛藤を書くのが小説じゃないかしら、それが芥川賞の選評にある「ここから小説は始まるのでは」に繋がるんじゃないないか。
でも結局は文も構成もすごくて面白いです。異国の凄惨な映像を見て悪夢を見るとどうせわかっているのになぜ見なきゃいけないの、と言う母に激しく同意。
昔の小説を自分の作品世界に組み込むということは、敬意を持って、それを蹂躙する覚悟が必要である。ちょっと及び腰だったかも。by山田詠美さん
◯悪い音楽
個人的にはこっちの方がより読んだ後の面白さがあった。他人に共感できない音楽教師の話。表情筋を鍛えたりするのだけど友人が怒る理由、生徒が怒る理由がわからずいけないところで笑ってしまったり合唱祭で生徒をディスるラップを披露してしまう。良かったのはこの主人公が歪んでいた過程がなんとなく想像できたところ、クソジジイ主任や友人のよう分からない抽象画。Black monkey、聴きたかったな。
Posted by ブクログ
純文学は結構合う合わないがあって、こちらの方はあまり合わなさそうかな……。太宰治の「女生徒」読んでたら感じ方変わったかな?(太宰苦手であまり読んでない)
Posted by ブクログ
保奈美ちゃんの番組「あの本、読みました?」で著者が出演されていました。
自信家で、人をくったような態度の著者でしたが面白いなとその言動に惹かれ、現代版(太宰治の)女生徒、と紹介されていていた本書に興味が湧きました。
確かに女生徒、でしたよ。
意識高い系の中二病の主人公と母の話で、子供と大人の狭間な感じがよかったです。
でも私はそれよりも、もう一遍収録されている悪い音楽の方が好みでした。
悪い教師がよい音楽を作っても不思議はないよねとか、教師になることは音楽家一族にとって本当にもったいないことなのかとか、考えているうちに、どんどん展開してどんどんハラハラさせられました。
まあどちらも、ザ・純文学、でしたね。
著者の長編も読んでみたいけど、この感じで長くなるのは私には難しくなりすぎて読みにくそうな予感ですが・・
Posted by ブクログ
Schoolgirl。影響を受けたとされる太宰治の「女生徒」も読んでみようかな。
悪い音楽。こちらの方が読みやすく面白かった。先生のラップが良い