【感想・ネタバレ】白い病のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

チャペックらしい皮肉がきいた小説。彼の人間理解の深さを改めて痛感した。

この本には白い病の罹患で線引きされたことを契機に日頃の恨みまでもが顕在化してきた世代間対立、弱者救済への温度差など様々な比較軸がある。そしてプレイヤーをみても独裁者(=元帥、とその恩恵を受ける軍産複合体)と絶対平和主義者(=ガレーン博士)、そしてその中間で冷静に時にファナティックに行動する一般市民がいる。

いずれも絵が思い浮かぶようで、最後のシーンなんて切なくなった。でもあれが人間なのだ。

以下印象に残った箇所。

白い病に怯える親の前で娘が発した言葉
「だって、今の若者にはチャンスがないの、この世の中に十分な場所がないの。だから、私たち若者がどうにか暮らして、家族をもてるようになるには、何かが起きないとだめなの!」

チャペックの解説
戯曲が存在するのは、世界が良いとか悪いとかを示すためではない。おそらく、戯曲を通して、私たちが戦慄を感じ、公正さの必要性を感じるために戯曲というものが存在するのだろう

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2022年11月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

面白かった。
1937年に発表された作品だけど、そのまま現代に通ずるのはなんとも悲しい。

初めは枢密顧問官や軍事会社の社長、元帥など、支配者に対する批判の色が強い作品なのかと思ったが、読んでいくと彼らはかなり理性的で、主張も(ある程度)一貫しているように感じた。
むしろ第二幕で登場する「父」が代表するように、メディアを通して情報を得て、自身に都合よく意見をころころ変える群衆こそ、平和の敵であり、批判の対象なのだと思う。

狂乱状態の群衆が指導者の手に負えなくなるのは、様々な国家や宗教で実証済みだし、最終的にはその群衆たちが、己を破滅へと導いてしまうのも示唆的でよかった。

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2022年12月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

チェコの作家カレルチャペックによる戯曲。
軍国主義の国に致死性の伝染病「白い病」が流行する。対症療法しか為す術がなく多くの人が命を落とす中、ガレーン博士という町医者が特効薬を見つける。しかし、彼は貧しい人しか治療せず、お金持ちや権力を持つ人は、戦争を止めると約束しなければ治療しないと宣言する。
「人が亡くなるのを放っておくのですか?」と問われた博士は、「では、人々が殺し合いをするのを、あなたは放っておくのか?」と切り返す。「これは医師としての務めなのです、戦争を防ぐことが!」

この本は、『「その他の外国文学」の翻訳者たち』で紹介されていたのをきっかけに読んだ。チェコの作者の本を読んだのはおそらく初めて。
巻末にある、訳者の阿部賢一氏による解説が良かった。読んでいる間はあまりチェコの文学ということを意識することはなかったが(物語の舞台自体は架空の国ということになっている)、解説には作者のことや時代背景についての紹介があり、作品が生まれた背景を知ることができた。

本作は既訳があるとのことだが、新型コロナウイルスのパンデミックが始まったことをきっかけに新訳を出そうということで、2020年に阿部氏が翻訳を開始し5月には訳し終わっていたらしい。すさまじいスピード感…。2022年の今よむと、感染症と戦争というテーマがより現実にリンクして感じられる。
作中に出てくる家族の父親が、「中世でもあるまいし、病気でこんなにたくさん人が死ぬなんてありえない」みたいなことを言っていたのが印象的だった。コロナ前は現代でも多くの人がそう思っていたよね。。。

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2022年10月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

1937年刊行の戯曲です。
新型コロナパンデミックの今の一冊、ということで本屋さんで見つけて買いました。
小一時間もあれば読めます。
謎の疫病の治療薬を開発した一人の医師の、命を救いたいという想いや平和への願いと、戦争をしたい国家や民衆・・・。
ラストは衝撃的でした。
ファシズム批判の作品ですが、正義感・群集心理・倫理観・マスメディアについてなど…色々と考えさせられる作品でした。

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2022年02月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初めて戯曲を最初から最後まで読んだけど、ほとんど台詞で構成されている分、なまじな小説よりは読みやすいなと感じた。

感染症の治療と引き換えに平和を求めるという構図。
2022年の日本人の感覚からすると「そんなの戦争してる場合じゃない」と思うけど、当時はそうでもなかったと思うと事の深刻さが少しは分かる気がする。


なんか自然と
「たいした奴だな。簡単に5人も死なせるなんて。こっちは1人助けるだけで精一杯だ。」
というブラックジャックの台詞を思い出した。


ラストはこうなるか・・!やられた!!という感じ。

「『白い病』のこのような結末は、群衆の興奮、本能、激情と、それらを利用することに手を染める人々への警告となっている。しまいには、権力そのものも、浅はかに権力に近づいた者たちもすべて滅びる。」

と作者も書いているようだけど、正にその通りだと思う。

たとえ戦争下に置かれていなくても、現代のメディアの影響力とか情報の拡散スピードとかを考えると凄く普遍的なテーマだと思う。

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2022年01月10日

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