あらすじ
世界史上類を見ない「イスラム共和制」が樹立されてから40年。イランでは何が起きているのか。その現在を多面的に報告する。
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Posted by ブクログ
こうしている間にも、イスラエルの攻撃に応じるようにイランはイスラエルに向けてミサイルやドローンによる攻撃を行っている。元を辿ればイランの核開発に原因があり、それを阻止しようとしたイスラエルの先制攻撃にも一定程度の(イラン抑止の)正当性があるようにも見えるが、その様な単純な話ではない。何より大国が自身の利益のために理由を付けて弱者を攻撃するというのは、過去の歴史を見ても繰り返し行われてきた。ここでイランを弱者と呼ぶのは、彼らにとっては心外かもしれないし、イランは中東のイスラム諸国の中にあっても、軍事力に於いても強国である。何より資源にも恵まれ、イスラム諸国の中では比較的開かれた自由度の高い生活も送ることが可能な近代的国家でもある。では何故彼らを弱いと言うのか。それは明らかに核兵器を持っていないという一点に尽きる。勿論彼らの所有する兵器の多くは旧式のロシア製であったり、空軍力で言えば、イラクを挟んで国境を直接接していないイスラエルに対しては圧倒的に不利であるのは間違いない。だが、彼らにはシーア派の弧と呼ばれる軍事同盟的な盟友も存在する。それは中東アラブのスンニ派諸国の外周に覆い被さる様に弧を描き、その内側にはアメリカの盟友であるサウジアラビアとイスラエルが居る。全面戦争になれば大きな闘いになるのは明白だし、今現時点では薄氷の上の均衡に過ぎないかもしれないが、当事者2国以外に大きな動きは無い。話を戻し、彼らに唯一無いのは核である。一方でイスラエルをはじめとして、今回のイランの行動に対して警告するアメリカやフランスは核保有庫だ。この、いざとなれば振りかざせる究極の刃の前では、それを持たない国々は皆弱者という側面を持つ。だから、核保有国の大統領の言葉は軽いものにしか聞こえない。絶対的な強さを持ちながら、「いい加減怒らせるなよ」と脅しをかけても、屈しない国はいくらでもある。そう、イランにとって絶対に譲れない事、それはイスラエルの存在なのではないだろうか。イスラエルは自国の理論で今現在の土地をアラブから奪い、今もガザへの侵攻をやめない。イスラエルは周囲をイスラム諸国に囲まれたうえ、そのうちの一国でも核を保有すれば、現在の地位も土地も保てない事を認識のベースに置いている。このイスラエルから見た敵国の核保有はそのまま自国の存在の危険に直結する理論、そしてイランをはじめとしたイスラム諸国のイスラエルの存在の否定が存在する限り、この戦いは沈静化はあっても、その火種が消える事はない。そして力の均衡が齎す沈静化にはイスラエル以外の国家が核を持ち対等な立場まで登るか、イスラエルが核を捨てるかの二択になるのではないだろうか。
本書の内容とはずれたが、イランという一見日本人には馴染みが薄い様にも思える中東の大国家について、その国家の成り立ちから、人々の生活様式まで、同国を知る機会として興味を持つきっかけとして丁度良い内容だ。因みに日本とイランは従来から良好な関係性を築いており、日本にとってはエネルギー供給国以上の親密性を感じる国だ。勿論イランにとっても日本という国への親近感は高く、未だ過去の歴史から超親日の方も多いと聞く。そんな彼らが今戦争の表舞台に、再び立たされている。再びというのは、私の記憶の中でも隣国イラクとのイラン・イラク戦争など戦禍にあるイメージは幼い頃からあった。決して望んだ戦争などないはずであるが、中東の大国は、常に臨戦体制のイメージが強い。
本書はイランの起源にもふれているが、遥か古代オリエント時代に於いては、誰もが知る大帝国であるペルシアを名乗っていた。宗教は現在のイスラム教とは異なるゾロアスター教であったが、その後にこの地へ侵攻してきたイスラム系国家の影響により、イスラム教を主体とする国家が形成されていく。ヨーロッパ諸国のその後の近代化の起源となる様々な発明は、技術力や学問、医療技術などに於いて、この地域の影響を強く受けている。その中心的な位置にある(北はカスピ海、南はペルシア湾、オマーン湾)イランには世界遺産も数多く存在しており、学校教育(識字率など)も周辺諸国に比べ抜きん出た存在感を示している。本書ではそうした文化的な面についても触れており、一般市民の生活に触れ、様々な一般人にフォーカスした話は、彼らの考え方や行動理論を知る良い機会になる。
本書を読みながら今はただただ同国の平和と市民の安全を祈るばかりだが、そのためには西側諸国やイスラエル自身の自制が何より必要だと認識する。巨大な武器を振り翳しながら、相手を服従させる様な態度、行動は決してバランスの取れた状態=均衡や平和に繋がらない。互いに自国の理論だけを全面に出しても解決はできない。そんな想いを抱きながらページをめくった。因みにガザ侵攻以来、ソーダストリームは使っていない。本格的に暑くなる前に冷たいソーダが飲める事を祈る。