あらすじ
私たちは、どうしたら「よき祖先」になれるのか!
私たちは皆いずれは、未来に生まれてくる人たちにとっての祖先となります。その時、未来の人たちに私たちが「よき祖先」と思ってもらえるかどうか。負の遺産を残した「悪い祖先」にならないようにするには、今、どんな行動をすればよいのかを論じた内容です。
著者はイギリスの文化思想家。「よき祖先」になるための考え方、方法、過去から現在までの活動例を紹介します。また、その問題を様々な視点から分析し、私たちに行動を起こすよう提案しています。
考え方は、長期思考を重視するということです。
日本での政治施策の例
1550年~1750年にかけて日本の森林は荒廃し、生態系も社会も崩壊する寸前でした。
国の支配者は、森を切り開いて何千もの城や神社、邸宅を建てたのです。森林が大量に伐採されたため洪水に襲われ、その結果1600年以降は大飢饉が相次ました。
これに対して、徳川家は、1760年から100年間、世界初の大規模な林業計画に着手したんです。役人は村人に報酬を払い年間10万本の苗木を植えさせました。
この結果、1度は文明衰退の道をたどった日本が19世紀後半には再び緑の国に戻ることができました。これは私たちが環境危機に対処するためにどう長期計画をたてればよいかという希望のモデルだと言えます。
出版関連の事例では、オーストリアの「人類の記憶」という企画。人類の最も重要な著書1000冊をセラミック製のタブレットに保存し100万年保存するというもの。
また、スコットランドのケイティ・パターソンは、「未来の図書館」というプロジェクトを進めています。これは、2014年から100年にわたり毎年著名な作家が新作を寄贈し、100年後印刷され、22世紀の読者に提供するというものです。
現代の人々は、基本的に目先のことに追われて、短期思考になっているので、長期思考を意識することが未来の人々のためになると語っています。
現在、「SDGs」が叫ばれていますが、正にこの本は「持続可能な開発目標」を具現化させるための方法をわかりやすく記述した書でもあります。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
少子高齢化や環境問題など頭では解っていたつもりのことも、実際にはどれほどの解像度で理解できているのかと思う。自分が今ここに存在するのは祖先と呼ばれる人たちがいるからであって、いつの日か自分が祖先の側になる時に何を残してあげられるのだろうか。問いが深すぎて簡単に消化することも答えを出すこともできないが、グッドアンセスターになるためにやらなくてはいけないことを整理してみることが、まず自分の一歩目かと思う。
Posted by ブクログ
環境問題がなぜ今、これほどまでに叫ばれるようになったのか?
こういうことだ。
つまり、地球の崩壊(人間が住めない地球という意味)が、我々が想像できる未来の範囲内に、はじめて入ってきたということだ。
賢いと思っている人間もまだまだ発展途上であり、せいぜい自分の子どもの未来、頑張っても孫の未来くらいしか想像できない。たかだか200万年では、この程度の発達しかできないということだ。
だから、環境問題に対峙できない自分を責める必要はない。それが普通なのだ。
しかしながら、このままでは、人類は早晩絶滅してしまう。脳の進化を待ってる余裕はない。
なんとかして、7世代先の未来を想像し、行動しなければいけない。
7世代先の未来を想像するためのマインドセット、実践方法をさまざまに教えてくれるのがこの本だ。
読み終わったとき、私は、未来を見通し、行動できる人間に生まれ変わった!
Posted by ブクログ
何となく人ごとに感じていた、環境問題や将来世代という言葉。この本を読んで、身近に実感できた気がする。私たちの今があるのは、良いことも悪いことも含め、過去に生きた人(祖先)がいたから。祖先とのつながりを感じることで、私たちもいつか未来の祖先となることを、不思議なことに実感できる。将来世代は最も大きなサイレントマジョリティー、響いた。病的な短期主義の時代を生きて良いのか、出来るとこからするべきなのでは、ということが、腹落ち出来る形で多く書いてあった。
Posted by ブクログ
「グッドアンセスター」Roman Krznaric
人間の歴史は本質的に観念の歴史である。H.G.ウェルズ
短期主義-長期思考
時計の専制(中世以降の時間の加速)-ディープタイムの慎み(宇宙時間にける瞬きの存在である自覚)
デジタルディストラクション(テクノロジーに乗っ取られる注意散漫な意識)-レガシーマインドセット(後世によく語り継がれる)
場当たり的政治(次の選挙ばかり気にかける近視眼)-世代間の公正(七世代先まで考える)
投機的資本主義-大聖堂思考(人の寿命を超えた計画)
ネットワーク化された不確実性-ホリスティックな未来予測(文明の為の複数の道筋を描く)
永遠の進歩(終わりのない経済成長の追求)-超目標(地球の繁栄の為の努力)
現在の非効率なキーボードレイアウトは、1860年代に機械式タイプライターのキーが詰まらないよう、よく使う文字を離して設計されたもの。QWERTY問題。
我々がスマホを離さないのは、テクノロジーに意図的に組み込まれたドーパミンによる恍惚感がもたらす瞬間的な興奮を求めているから。
裕福な家庭の子供の方がおやつを我慢しやすい。欠乏への恐怖が我々を短期主義に向かわせる。
人が未来について考える時間は過去の3倍。
未来に関する思考の80%は当日または翌日に向いており、1年以上の事を考えているのは14%、10年以上先の事を考えているのは6%。
母方の祖母の存在が乳幼児の死亡率を下げる。
人間が長く考えられる脳を育ててきた方法
1.道順を見つける力
2.おばあちゃん効果(世代間の時間軸を広げる)
3.社会的協力(信頼、互恵、共感に基づく協力関係は、時を超えて続く繋がりが生まれる事から始まる)
4.道具のイノベーション(目標を明らかにして複雑な連続工程を計画する)
14世紀、初期の時計は1時間または15分刻みの表示だったのが、18世紀には分針が備わり、19世紀には秒針付きが標準となり、労働者を働かせる産業革命の重要な装備となった。
18世紀まで、地球は6000年前に神によって6日で創造されたと信じられていた。
年の前にゼロを置くと何万年先の未来を想像し始める事ができる。(02021年のように。)
自分の死後、未来の世代にどう記憶されたいかについてエッセイを書いた人は、書かなかった人に比べて45%多い金額を環境保護事業に寄付しようとした。
「私たちのクライアントの多くが遺言で慈善事業に寄付を希望されていますが、あなたが関心を持っている慈善活動はありますか?」と尋ねると17%の人が慈善寄贈を選択した。
言葉の選び方を少し変えるだけで、遺贈寄付に大きな影響は与えられる。
死について考え、自分がいなくなった時にどのように記憶されていたいかを考えることは、世代を超えた思いやりや責任感を強める。
「自分たちの先祖がこうしておいてくれればよかったのに」と、子孫が望むことはなんだろう?と問う。
レガシー思考法
オープンスペースに立ち、目を閉じたまま一歩下がり、親や祖父母などあなたが知る年長世代の人から1人想像する。次にもう一歩下がってその人が青年だった頃の人生、考え方や感情、希望や苦労を思い浮かべる。1分後、三歩目の後退をして、その人の5歳の誕生日を想像する。
次に、元の位置に戻って一歩前に進み、姪や子供など次の世代の1人を想像する。次にもう一歩踏み出して30年後のその人の未来を想像する。その人の人生に起こっていること、喜びや悩みを想像する。最後にまた一歩踏み出し、その人の90歳の誕生日を想像する。その人は暖炉の前であなたの写真を片手に持ちながらあなたから受けついだものについて皆に語っている。その人はどんなスピーチをしているかを書き出す。
遺産とは残すものではなく、一生かけて育てるもの。
これから生まれてくる世代はフューチャーホルダーと考える。
世代間の公正の為の4つの道徳的動機
1.矢(この世に生まれ落ちるタイミングに関わらず人々を平等に扱おう)
2.天秤(今生きている人と比べた時に、これから生まれてくる全ての人のウェルビーイングをより重んじよう)
3.目隠し(自分がどの世代に生まれるか分からないとした時に、どんな世界に生まれたいか想像しよう。
4.バトン(過去の世代から自分がこうして欲しいと望むような仕方で未来の世代に接しよう)
過去5万年の総死者の数は1000億人、これから5万年の間に誕生する人の数は6.75兆人。
イロコイ族のチーフ「我々は未来を見据えている。首長に与えられた第一の使命は、我々が下す全ての決定が来るべき七世代の幸福とウェルビーイングに繋がっているか確認することだ」
スウェーデンの都市農業会社プランタゴンは、第七世代株式と言って、七世代に渡る家族または七人がそれぞれ33年間以上株を保有しなければ換金できない。
急進的な長期計画は危機によって始動する。
未来予測の正確さは、予測者の知名度や職業的資質のレベルと反比例していた。
万物は離陸、成熟、衰退するシグモイド曲線を描く。
古代文明の平均寿命は336年。
何らかの到達点を意識して組み立てられていない人生はあまりに愚かだ。アリストテレス
良い人生の為に目指すべきなんらかの目標を持つこと。
2001年から2014年の間、長期志向の企業は短期志向の競合に比べて売上高は47%、利益は81%上回っており、金融危機を乗り切る能力も高かった。
全ての上場企業が長期戦略を採用した場合、米国GDPは年間0.8%押し上げられる。
ユニリーバの元CEOポール・ポルマンは2009年に就任した日に四半期決算を廃止した。
生物進化と異なる文化進化について
1.文化進化は意識的な選択の問題であり、民族文化圏の発展の方向性を形作る事も可能。
2.文化進化は生物進化に比べて遥かに早い速度で起こるので、気候危機や富の不平等の拡大など変化する環境に適応できる。
3.教育システムの他、価値観や思考を植え付けるその他の制度や活動によって世代を通じて繰り返し再現される必要がある。
19世紀のフランスでは、国民の半数はフランス語を話せず、流暢に話せる人は10% 未満だった。
変化を阻む4つの障壁
1.時代遅れの制度設計
2.既得権益
3.「今、ここ」の不安
4.希薄な危機感
Posted by ブクログ
タイトル通り、子や孫の世代が、私たちの世代を振り返った時に「あの時におじいちゃんが頑張ってくれたから今の平和で豊かな時代がある」と思われるのか、「どうして問題を認識していたのに何も行動しなかったのか」と思われるのか。社会に大きな影響を及ぼす大企業や行政、政府の動きをどう変えるかについての方法が説明されている。鍵は「大聖堂思考」「世代間の公正」。自分たちはその完成を見ることはできないことがわかっているのに、大聖堂を建築する。将来世代が投票権を持っていたらどう行動するだろうという思考で比較してみる、など。人類と呼べる種が生まれてこれまで5万年の間に亡くなった数は約1000億人、現在生きている人が100億人として、今後5万年間で生まれるであろう数は6.7兆人だそう。子や孫、その孫に恥ずかしくない生き方を考えないと。
Posted by ブクログ
グッドアンセスターを目指す事が必要な事はよく分かるが、筆者も指摘しているように、現在は短期的な収益を上げて裕福に暮らす事が、最大の目標となっていて、それを変えていくのは一朝一夕には困難だと思われる。
手遅れになる前に、多くの人の意識が変わる事を期待したい。
Posted by ブクログ
人間は「マシュマロ脳」と「どんぐり脳」を持ち合わせている、と著者は主張します。前者は短期の利益を求める脳、後者は(どんぐりを植えて木に育てるという意味での)長期的な利益を求める脳です。そして我々は(本書では特に西欧社会の人々を念頭に置いていますが)マシュマロ脳が不均衡なまでに大きくなっているので、どんぐり脳の大事さを改めて認識すべき、というのが本書のキーメッセージです。
率直な印象ですが、短期志向から長期志向へ、というメッセージ自体は特に目新しさはないです。また長期志向になるためのティップスとして「ディープタイムの慎み」「レガシー・マインドセット」「世代間の公正」「大聖堂思考」「全体論的な予測」「超目標」というカテゴリーで説明されていましたが、初めて聞く話も多かったとはいえ、特に目からうろこというような感じではありませんでした。
本書の中で非常に重要だと感じたのは、いま存在していない未来の世代をどう意思決定の場に取り込むのかという視点です。これは啓蒙の新フェーズに入ったということだと私は理解しました。つまり18世紀以降の啓蒙活動では、奴隷解放や女性参政権など「いま存在しているが政治的参画が認められていない人々を包摂する」という活動が行われたわけです。これはのちの植民地解放運動にもつながります。しかしこれはあくまで空間的な啓蒙活動でしたが、いままさに起きつつあるのは「時間的な啓蒙活動」だということです。何らかの政治的意思決定をするさいに、「いまは存在していない未来世代」をいかに意思決定プロセスの中に包摂するのか、未来世代を奴隷か植民地のように扱って搾取している状況をどう解消すべきか、という課題が提示されていると感じました。その意味で気づきは多かったです。
最後に、少し違和感を持ったことがあり、それは著者の時間概念の解釈です。著者は「いま、ここ」思考を脱却すべき、これこそが短期志向の象徴であると述べていますが、これは浅い思考だと思います。日本を見ると、加藤周一氏が指摘しているように、日本はまさに「いま、ここ」文化の国になるわけです。しかし日本は短期志向ではない。加藤氏が指摘しているように「時間の分節化が難しく、いまの連続で時間が流れて」いて、イエの存続にあるようにむしろ長期志向文化を持っています。つまり「いま、ここ」と長期志向は両立しうると考えますが、やはり西欧の人はこのあたりの感覚が乏しいのかな、「イチかゼロか」になってしまうのかな、という印象を持ちました。この手の本は西欧知識人ではなく、むしろ訳者のような僧侶や東洋の哲学者に書いてもらった方が説得力は大いにあるのに、と思いました。