あらすじ
病気はコロナだけじゃない。そして、死は誰にでも平等にやってくる。新型コロナウィルス禍と五輪、死の淵をのぞいた自身の心筋梗塞、愛猫まるの死――ヒトという生物であると実感し、2年間の体験からあらためて問い直す。人生そのものが、不要不急ではないか。それでも生きる価値はどこにあるのか。84歳の知性が考え抜いた、究極の人間論! 「壁」シリーズ4年ぶり待望の最新刊。
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Posted by ブクログ
【一言まとめ(キャッチフレーズ風)】
この本は、「効率化された社会の中で、人間らしさや関係性の本質を見つめ直す」ことを教えてくれる一冊でした。
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③【要約(内容の流れ・ポイント)】
本書は、大きく分けて以下の3つのポイントで構成されています。
1. **効率化社会への警鐘**
→ 著者は過去の失敗から気づいたこととして、効率化された社会において、人の話をじっくり聞く場は非効率と断じてしまう危険性を警告しています。現代社会では「役に立つ」「儲かるかどうか」が重視される傾向がありますが、その中で「ただいるだけの存在」に癒しを求める人が多い理由についても深く考察されています。
2. **他者との距離感の難しさ**
→ 著者は過去において、他者との距離感を間違えることが多かったと振り返ります。二人称関係(あなた、君)で聞くことで信頼関係を得ることができるが、相手に取り憑かれやすくなるという指摘は、人間関係の複雑さを端的に表現しています。小児科医の母親が決して我が息子を診断しなかったエピソードも、3人称で判断できず診断結果にぶれが出ることを理解していたからだと解説されています。
3. **日中文化の認識の違い**
→ 日中友好が困難な原因について、自然の中に人間があると感じる日本人と、人間を中心に考える中国人の認識の違いにあるとする解説は、これまで気づかなかった視点です。この文化的な違いが、両国の関係性に大きな影響を与えていることが語られています。
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④【読んで感じたこと・自分の意見】
特に心に残ったのは、「なるべくしてなった」という著者の言葉です。
私たちはつい「あぁすればこうなる」と社会を構築しがちですが、実際には多くのことが必然的にそうなったのだと気づかされました。この指摘は、理屈に囚われている自分の頭の固さに気づかせてくれました。
また、効率化された社会の中で「ただいるだけの存在」に癒しを求める人が多いという観察も印象的でした。役に立つかどうかが重視される時代だからこそ、何も求めずにただそこにいる存在の価値が改めて見直されているのだと感じます。
二人称関係の話も非常に興味深く、信頼関係を築くことと相手に取り憑かれることの境界線の難しさを実感しました。小児科医の母親のエピソードは、客観性と親密性のバランスを考える上でとても参考になります。
Posted by ブクログ
養老孟司さん、「バカの壁」は450万部超とか。軽度の肺気腫で糖尿病だけど、病院に行かないから健康だそうです。夜には死ぬという前提で毎日を始めている。「ヒトの壁」、2021.12発行。ウィルスにとっての人体は、ヒトにとっての地球以上になる。部分を見れば全体はぼける。ウィルス目線では、ヒトは大きすぎて見えない。専門家と官僚と政治家、目線の共有が不可能。→さすれば、意見交換はできないのでは? 著者は「こうすれば、こうなる」という意識からの脱却を提議されてますが、私には難しかったです。
Posted by ブクログ
「バカの壁」ぐらいは読んでいるかもしれないが、内容が思い出せないのでもしかすると著者の本は初読みかも。
基本、超絶頭のいい人が、難しい抽象的な話をイメージで語る系のこの手のものは、ド文系の私が科学の難しい論文を読んでいるようで、ほとんど頭に入ってこない。この本も、途中の哲学的話題の部分は、話の外側の箱の形ぐらいしかわからなかった。
それでも、「この社会はほとんど反応だけしている」という部分には深く肯首。コロナ感染者増加!国葬反対!オリンピック!円安!といちいちメディアの情報に反応し、過ぎ去れば何の検証もせず、何事もなかったかのようにもとに戻る。これからの社会は、思考停止になり、反応だけを繰り返す社会になっていくのだろうか。
Posted by ブクログ
気になった一文のメモ
・国家とは政治体制ではない。実質的には供給能力の総和である。(45)
→食糧、医療、コロナワクチン、そういった「供給」がどれだけ国民に提供できるかが国家の力なのかもしれない
・世界と見る時に、神学の位置付けは意外に大切である。(55)
→人の歴史に神(神学)ありきだと思うので、神学の位置づけを知っておくことは教養として必要
・「そうだったのか」と「理解」は向こうからやってくるが、「解釈」はもともとこちらの都合(71)
→理解は感覚の延長で、解釈は運動の延長。解釈は「わかったこと」にできる。
・「意味は外部(の体系、システム)を召喚すること(78)
→意味そのものが独立して存在するのではなく、社会的な行為はお金にならなkれば意味がない。つまり、経済という体系、システムが暗黙に召喚されている
・社会的には理性は学者で、学者は世界を理解しようとする。自由意志は政治家や資本家で、両者は世界を自分の思うように、なんとかしようとする(89)
・二人称の関係、親身になるとはそういうこと。相手と三人称関係であれば、いわば赤の他人(139)
・人間関係で社会停に適切な上手にとることができない。社会てが「わかっていない」。客ではなく、カウンターの内側に入ってしまうタイプ(140)
・伊藤祐靖(いとう・すけやす)『邦人奪回』(143)
→明白な意志をもって行動することは、現代日本社会ではほとんどタブー
・日本の神話である記紀で多用されるのは「なる」。創るより「なる」を優先するらしい(155)
・実際には自然に関わる官業はどこからで自然に復讐される。原発事故を見ればわかる。モノを相手にしていたら、どこかでからなず「想定外」の事態が発生する。現代人はこれを嫌う。だからすべてが人工、つまり意識の産物であるAIに向かう。(156)