【感想・ネタバレ】仲のいい死体 郷原部長刑事シリーズ3のレビュー

あらすじ

山間の町のブドウ畑から突然噴き出た温泉。即席の野天風呂に連日数百人の人がやってくる一方で、温泉ホテル建設の話まで持ち上がり、町はちょっとした温泉ブームに沸いていた。そんな折、寺の境内で男女の変死体が発見される。一見したところ心中事件だが、温泉が湧いた土地を所有する美貌の未亡人が、冴えない妻子持ちの中年男と心中するとは思えない。東京からこの町に移住していた郷原部長は、まったく頼りにならない上司や部下たちと捜査を進めるが・・・・・・。ひとり奮闘する郷原部長は真相にたどり着けるのか? 著者の初期を代表する長編推理。

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Posted by ブクログ

「そうだろう。きみの考えそうなことだ。しかし,きみはその2人がほんとうに心中したと思っているのか」
「ちがうんですか」
「死体を見たのはきみだ。わたしは見ていない。だからきみにたずねている」
「おかしいですね」
「何がおかしいんだ。きみはうらやましいくらい気楽な男だぜ。警察官になって何年になるか知らないが,そんなことで刑事の飯が食えると思っているのかね。死んだ女は持田加代,町でも評判の美人だ。しかもブドウ畑から温泉が噴きだして,明日にも大金持ちになろうという未亡人だ。世の中が楽しくてしようがなかったにちがいない。一方,心中の相手は駐在にくすぶっている草場巡査,五十二という年よりも老けてみえる。見栄えのしないじいさんだ。事件がないから勤まっていたが,事件があればまったく役にたたぬ巡査だった。そのかわり品行は方正,妻があり三人の子供がある。健康で病気ひとつしたことがない。仕事の余暇をみては畑の手入れをしている男だった。その草場巡査と持田加代が,月夜に恋を語らったあげく,世をはかなんで心中したというのか。こんなことは刑事じゃなくても,ひげの生える男ならだれだって考えつく」
「……なるほど」
 長山刑事の返事は遅かったが,頷く首は大きく振った。
(本文p.63-64)

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2009年10月04日

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