【感想・ネタバレ】「知の商人」たちのヨーロッパ近代史のレビュー

あらすじ

古来、思想は<出版>という形で普及し、後世へ残った。ならば、知の媒介者たる「印刷・出版業」から16世紀から20世紀の近代を眺めてみよう。そこには、名著を支えた蒐書家や出版人などの人間模様、「知」の商品化による印税騒動など、歴史に埋もれた事件が浮かび上がってくる! 思想史でも書物史でもない、碩学によるユニークな書。

本書は1985年4月、筑摩書房から刊行された『知の商人―近代ヨーロッパ思想史の周辺』を改題、加筆修正したものです。

目次

1 商品としての思想
エルセフィエル書店
リヴァイアサンの顔
ハーリーとソマーズ
知の商人―ストラーンのばあい
知の商人―エディンバラの出版業者
バーゼルのトゥルナイゼン
固有名詞の読み方
『ケール版ヴォルテール全集』始末記
イギリスのワイン
アメリカ革命の導火線
『エディンバラ評論』の運命
紅茶の話
ジン横丁

2 知識人層の成立
音楽の商品化
うたは世につれ
『共産党宣言』の英訳者
パリ・コミューンと芸術家たち
芸術至上主義と無政府主義・
黒猫のスタンラン
大学と女性
ディーツ出版社
ユニウスとジュニアス
ブラウンス・アルヒーフ
マスク・ヴェーバーをめぐる女性

3 ファシズムのもとで
グーテンベルク図書組合
マリク書店とハートフィールド
亡命知識人とスイス
左翼読書クラブ
一九三〇年代の墓標
ウォーバーグ家の人びと
空襲下のコンサート

内容抜粋)
「私は昨夜、ヴォルテールが死んだということを聞きました。これで人びとは、安心して彼の著作を買うことができるでしょう。彼はもう、あとからあとから書き直すということができないからです」(一七七八年一月十七日)。この知らせは誤報で、ウォルポールの安心は四ヵ月余り早すぎたのだが、ヴォルテールの止まるところを知らない改訂癖に蔵書家が悩んでいたことは、誤報ではない。 1「『ケール版ヴォルテール全集』始末記」より


ルイジ・エイナウディ研究所
本を愛した外科医
あとがき
学術文庫あとがき
人名索引

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Posted by ブクログ

 どんなに素晴らしい思想であっても、それが多くの人に伝わるためには、印刷・出版という形態が必要であった。そして印刷出版業者にとっては、例えその内容に強い思い入れがあったとしても、出版物はあくまで商品であり、そのことによって思想が、思想家にとっても商品とならざるを得ない。
 本書は、「印刷・出版業」の視座から、16世紀から20世紀の近代ヨーロッパ思想の伝達・受容過程を、多彩なエピソードにより描いたもの。

 出版される側については、ボルテール、ホッブス、アダム・スミス、スコットランド啓蒙思想、ウェーバー、マルクス主義系著者など有名な顔触れが多く大体は分かるが、出版する側については外国のことでもあり、ほとんど知った出版社もなくあまり興味を持てなかったのがちょっと残念。
 ただ、30編以上収録されているので、「これは面白い」と興味を惹かれる話があるだろうと思います。

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2024年07月08日

Posted by ブクログ

一般的読者が読んでも、歴史的事実を知ること以外に得られるものは多くないとの印象。ある事実に対して歴史の中の位置付けを考察するような記述はあまり見当たらない。
一方でおそらく西欧諸言語で書かれているであろう圧倒的量の原典に臨んでいることは明白であり、そのファクトに対する弛まざる努力とリスペクトは見習いたい。

扱う時代が下るにつれ、知的生産物とイデオロギーの関連が多くなり興味深い内容が増える。
19世紀末の象徴派詩人と印象派画家とで社会への態度、そして社会からのフィードバックが異なり、したがって両者に思想的分化が生じた。さらには印象派の中でも分解が生じて、一方は芸術を左翼的思想の喧伝に用いたようである。

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2023年07月17日

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