「箱入り娘」ではなくて、「箱入り息子」の恋ですって?
タイトルを目にしただけで気になってしまいます。
この世に生を受けて以来35年間、彼女がいたためしのない息子のため
出勤する息子の写真を物陰から隠し撮りした両親が
そのイマイチな写真を手に、「代理見合い」に出席するところから始まるのが
いじらしく
...続きを読むも可笑しくて。
ところが、思いっきり不甲斐ない登場をした箱入り息子の健太郎ですが
ひとたび恋を知るや、これまで節約してきた感情とエネルギーをすべて、
惜しげなくまっすぐに、愛する菜穂子に注ぐのです。
「そんなんじゃ、彼女は雨に濡れないけど、君は右半身びしょぬれじゃん!」
と言いたくなるような表紙の写真を見てもわかる通り
口下手で不器用だけど、とにかく純粋で心やさしい健太郎。
彼が濡れても頓着せず、天真爛漫に傘を差し掛けられているかのような菜穂子は
実は8歳の時に失明していて、健太郎の姿が見えない。
そんな彼女が、声、言葉、そしておずおずと繋いだ手を通して
彼のいちばんの理解者となり、どうしようもなく愛おしく感じ始めるというのが、とても素敵。
「気にしなくていいよ」と自ら箱に入ってそうっとフタを閉めてしまったような
ちょっと規格外の箱入り息子と
目の見えない娘を心配するあまり、過保護になってしまった両親に
ふわふわの羽毛で何重にも覆われた宝石箱に閉じ込められたような
超弩級の箱入り娘の恋。
初めて並んで座ったベンチで。 初めて連れていった牛丼屋で。
健太郎が示す、さりげない思い遣りにきゅんとします。
恋の作法は知らなくても、人としての作法はちゃんと身につけている彼を
菜穂子といっしょにどんどん好きになってしまう、愛すべき物語です。