デイヴ・キングのレビュー一覧

  • 小説家のための編集教室

    Posted by ブクログ

    小説の描写力を高めたい。読まれる文章を書きたい。そんな思いから手に取った一冊だ。

    本書は、ベテラン編集者のレニ・ブラウンとデイヴ・キングが、小説の推敲技術を十二のテーマに分けて解説する実用書である。描写と説明、人物造形、視点、会話、段落の分け方など、扱う範囲は幅広い。練習問題とその回答集も付属しており、実践を通じて編集技術を学べる構成となっている。

    結論から言えば、概ね期待どおりの内容だった。

    本書の優れているところは、初心者が陥りがちな文章表現の問題を具体的に指摘し、どのように書き直せば洗練された文章になるのかを実例によって示してくれる点だ。

    例えば、「まさか、本気じゃないでしょう」と驚いて言う人物の描写。一見すると何の問題もないように思えるが、編集者の目から見れば改善の余地があるという。こうした、普段なら見過ごしてしまいそうな文章の問題点を教えてくれるのだから、非常に実用的だ。

    また、興味深かったのは、先に読んだ『プロの編集者&小説家が教える クリエイターのための賞を勝ち獲る小説の書き方』と、内容の多くが共通していたことだ。

    説明しすぎないこと。登場人物の知識や認識を逸脱した地の文を書かないこと。洋の東西は違っても、編集者が注意を向けるところは似ているのだなと思った。

    ただし、本書は編集の指針を示しながらも、絶対的な正解を押しつけようとはしない。編集者が好む表現と、作家が書くべき表現は必ずしも同じではない。最終的にどのような文章を選ぶのかは、書き手自身に委ねられている。

    この姿勢には好感を持った。

    一方で、気になるところもあった。

    まず、原著が英語であるため、日本語の文章にそのまま当てはめるのが難しい技術も見受けられた。例えば、副詞の扱いである。英語と日本語では語感が異なるため、英語で不格好に聞こえる表現が、日本語でも同じように不格好に聞こえるとは限らない。

    もっとも、副詞を使わずに文章を書くこと自体には意味があると思う。表現に制約を設けることで、別の言い回しを工夫するようになるからだ。実際、私自身もそうした工夫を実践した結果、文章を褒められる機会が増えた。

    したがって、本書の技術は日本語の特性を踏まえながら応用する必要があるだろう。

    もう一つ困ったのが、最終章で扱われる「ボイス」という概念だ。明確な定義が示されないまま議論が進んでしまい、白状すると、最後まで何について説明しているのか理解できなかった。

    そして、何より驚かされたのは、『グレート・ギャツビー』を編集するという練習問題である。

    文学史に残る名作であっても、現代の編集技術という観点から見れば、修正すべき箇所が現れる。比類なき文学の金字塔にまで編集のメスを入れるとは、恐れ入った。

    同時に、ここには興味深い問題が潜んでいるようにも思う。

    現代の編集技術に照らして洗練された文章が、必ずしも文学的に優れた文章であるとは限らないのではないか。

    編集技術は、文章をよりよくするための道具である。しかし、その道具をどのように使い、どこまで手を加えるのかを決めるのは、結局のところ作家自身なのだろう。

    本書は、編集技術を身につけるための実用書であると同時に、自分にとって「よい文章」とは何かを考えさせてくれる一冊でもあった。

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    2026年10月12日