〝ヨシノに触られたい。ギターを弾くキレイな手で(観月)〟
Eros度★★
おやおや。嘘という不純物を一滴落とした共同生活から、これほど純度の高い恋が結晶するとは。実に興味深く、愛らしい観察対象です。
誕生日をひとりで過ごしていた観月は、路上で歌う吉野に救われます。「ヨシノと過ごす時間は僕にいろんなことを教えてくれる」という独白は、音楽の楽しさと恋の芽生えを同時に伝えるもの。やがて住居を失う吉野を引き留めるため、観月は親所有の高級物件の家賃を安く偽ります。善意でも、吉野が望む対等さを損なう嘘。その矛盾を抱えながら「もっと節約。もっともっと節約」と励む健気さが可愛く、胸を締めつけます。
一方の吉野は、生活力と関西弁の柔らかさを備えた世話焼き攻め。観月の行動がすべて自分への好意だと気づき、「あーあ。すっかりこの笑顔に絆されてもうた」と認める変化がたまりません。友達の境界を守ろうとしながら、喜ぶ観月を抱きしめたくなる。欲望を露呈した観月に手を差し伸べ、自分も「どハマりしすぎや」と自覚する展開は、身体が心より先に本音を採取してしまったようで素晴らしい。
しかし幸福な日常ほど、観月の罪悪感を増殖させます。「僕の一言で壊れるんじゃないかずっと怖い」、そして「ただ僕がヨシノと離れたくなかっただけだ」。嘘を正当化せず、弱さまで見つめて謝ろうとする姿には、対等な相手になろうとする成長が表れています。
吉野も隠していた恋心を明かし、「お前のことが好きや」「恋人としてお前と暮らしたいねん」と告げます。観月の「僕も帰りたい。ヨシノと離れたくない」が、二人の望みを鮮やかに一致させるのです。濡れ場でも「してほしいこと全部言うて」と願いを優先する吉野に、観月は「ヨシノが僕にしたいこと全部されたい」と信頼を返す。この甘い応答こそ、二人が辿り着いた対等さでしょう。
偽っていたのは家賃だけ。共に笑った時間も、触れたい願いも、帰りたい場所も本物。片恋と同居とすれ違いを重ね、仮初めの部屋を恋人たちの家へ変える構成に、惜しみない祝福を捧げたい作品です。