佐野真由子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
筆者の研究対象への愛情がありありと分かる作品だ。これは明らかに歴史小説である。ただし、歴史学の手続きを踏んでいるので、信憑性は高い。高いがあくまでこれは研究者が小説家となって書いた作品と言える。
オールコックが幕末の日本に来てどのような役割を果たしたのかについては同じ史料を前にしても全く異なる解釈がうまれるだろう。大英帝国の野望を持つものが未開の日本を傘下に組み込むための手段を考えないはずはない。ただ本書によれば幕府の不可解な制作決定機構に翻弄され、それでも日本文化に深い理解を示し、日本代表団をパリ万博に誘導して、国際社会へデビューさせた人物として描かれている。それは事実かもしれないが、本当の目的が日本をイギリスの影響下におくための画策であったと言えないことはない。
薩英戦争にオールコックが関与しなかったこと、日本領事退役後のあり方など、歴史の空白とも言える部分の説明が少々不足しているのではないか。
その上で本書は緻密な研究を積み重ねた筆者が歴史小説家のように一人の人物の姿を描ききったところに良さがある。案外歴史とはこういうものかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ江戸時代末期に英国公使だったラザフォード・オールコックの人生を切り取った本。英国公使の視点で見ることで日本史で習った幕末の違った見え方を知ることができる。オールコックという人物をこの本を読むまで知らなかったが日本の歴史に水面下で大きな影響を与えている。教科書では直接歴史を動かした事件、人物で一杯一杯になっているから歴史の裏舞台を知ると今までの歴史観が変わる。
オールコックと幕府の外国奉行とのやりとりを見ると、幕府はただ外国に押されてばかりではなかったのだということが分かる。特に神奈川を開港する条約を結ばされて横浜村を埋め立てて神奈川と言って通したのは面白い。外国人商人をうまく利用して政府代表の口を閉じさせた見事な手腕を持つやり手が幕府の中にもいたのだ。最近だと「竜馬伝」で幕府は外国の言いなりで攘夷派の敵というイメージが強かったが、実際には国を守るために奮闘していたようだ。
オールコックは日本の治安、幕府に対して不満を通り越して怒りを覚えることもしばしばだったが一方で日本の生活様式、自然、工芸品などに魅せられていた。著者は「オールコックの強みは、何か一つの面についての不満や怒りが、他のすべてを否定的な色で包んでしまうことがないところにある。」と述べている。
この時代の特徴として通信手段が発達していなかったことが挙げられる。スエズ運河までは電信が通っていたがそこより東は船で手紙を運んでいた。日本から英国には片道2か月を要したという。この「時間差」は様々な事件に関わり、時代の流れを左右する重大なファクターだっただろう。
さて1861年、幕府は新潟、江戸、大阪、新潟、兵庫の開港開市の延期を求めていたが当初オールコックはこれを拒否していた。しかし老中との秘密会談が実現したことで当時の幕府の置かれている状況を正確に理解し開港開市の延期を容認する姿勢に変わった。オールコックはこの時の秘密会談に非常に大きな感慨を感じたようである。
時を同じくして英国で万国博覧会が開催され日本の参加の可否を問う手紙が届いた。オールコックは日本を国際舞台でアピールするのと開港開市の延期の交渉を同時にやろうと考えた。様々な困難を乗り越えた末この計画は概ね成功したと言えるが日本に帰ってきた遣欧使節団を待っていたのは幕末の動乱だった。幕府はその時遣欧使節団の報告に耳を傾ける余裕などなかったのである。
もし攘夷運動が盛り上がるのがもう五年遅かったなら遣欧使節団の経験がいかに生かされたであろうかと想像してしまう。歴史とは常にそういったタイミングの交錯の繰り返しなのだろう。改めて今ある社会の成り立ちを知ることが大切だと感じた。