松本健二のレビュー一覧
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ものすごくおもしろかった。実在の科学者たちの研究と功罪とゴシップ色をまとうプライベートがただただ列記されていき、読むと科学の進歩をなぞることができる。書きぶりはまるで取材ノートかドキュメンタリーのような素っ気なさだし舞台は科学技術だし、とっつきにくいはずなのに冒頭から惹き込まれてしまう、不思議な文体だった。アインシュタインが量子力学をまったく理解できなかったエピソードがおもしろい。とはいえノンフィクションではなく、主にプライベートの部分について作者の創作が大いに混ぜられているらしいので読み方には注意が必要。
エピローグが唯一とても不穏で文学的で、詩的なタイトルの意味がここでわかる。表紙のデザイ -
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ネタバレすごく面白かった。文章が詰まっていたが、読みやすく、専門的なことはあまり詳しくはないけれど、史実の部分に関しては、以前見たNHKスペシャルや他の番組のおかげで想像しやすかった。
タイトルの恐るべき緑とは、毒ガスのことだと思うけど、もう一つ妻へ残した手紙にある、植物が異常増植して〜のところが、現実とは乖離していて面白い。
天才とか頭の良い人には、その人にしかわからない苦悩があるのだなと思った。
「私たちが世界を理解しなくなったとき」とは、まさに現在のことで、仕組みもわからないのに便利に使っているスマートフォンやAIについて、それまでのように、発明されたものや方法には良い面と悪い面があるのだという -
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『一九三四年、フリッツ・ハーバーはバーゼルで、冠動脈を拡張するための注射器を握り締めながら死んだ。それから数年後に、彼が開発に協力した殺虫剤がナチのガス室で使用され、彼の異母妹と義弟と甥たち、その他大勢のユダヤ人が殺されることになるとも知らずに』―『プルシアン・ブルー』
吉川晃司の抑制の効いた低い声の語りで科学史の闇の部分に焦点を当てたあの番組と似たような本かと思って読み進めると、作者の仕掛けた罠にまんまと嵌まることになる。その仕掛けについては作家ベンハミン・ラバトゥッツ自らが謝辞の中で述べているので敢えて記さないことにするけれど、望月新一とアレクサンドル・グロタンディークの人生が交錯する下 -
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ナチス将校たちが自決に使用した青酸カリと、合成顔料プルシアン・ブルーとのめくるめく繋がりから戦争と生と死の残酷で奇妙な因縁を浮かび上がらせる「プルシアン・ブルー」ほか、実在する科学者・数学者の伝記的事実を想像力豊かに脚色し、原子力以降の科学の発展に疑問を投げかける、ノンフィクションのようなフィクション短篇集。
面白かった~。最初はチリの円城塔じゃん!と思ったんだけど、読み進めると円城さんよりむしろ初期の宮内悠介っぽく思えてきて、どこかで「あ、これゼーバルトか」とわかった。案の定、あとがきで『土星の環』が挙げられていてニヤリ。
すごく面白かったんだけど、好みの話だけで言ったらすごく惜しいと思 -
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どこまで事実で、どこから想像なのか?
史実を交えたフィクションと帯にあって、最初はタイトルからサイエンスホラー的なフィクションかと思った。実際はあくまで史実の軸はぶれず、史実と史実の間の空白を、作者の想像で埋めていくように書かれたフィクション。
ただし、自らの意志で盲目的に研究に突き進み、自ら身を滅ぼしているようにしか見えない学者たちの様子が冷徹に、時に詩的に、かなり仔細に描かれているところは、ある意味でホラーのようだった。
自分が浅学なせいで、正直一番最後の「私たちが世界を理解しなくなったとき」については、各研究者の立場の違いを理解しきれなかった。けれども、理解できないところは潔く諦めて流 -
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世界的な発明、発見をした人たちのエピソード。
一つ一つの人生は異なるのに、メッセージ性がある書き方で、心に残る。
マックスハーバーは毒ガスを戦争で使った。でも、それは本来殺虫剤として発明したものだった。そして彼の親族がその毒ガスでユダヤ人として殺された。
また、彼は肥料を作り、それによる食料増産でもっと多くの人の生存を可能にしていたという話。
世紀の大発見をして、アインシュタインを驚かせた研究者は、アインシュタインが返事を書くときには戦場で死んでいた。
偉大さと、無差別な残酷さが無秩序に入り混じる。この理不尽さと儚さは、手塚治虫の火の鳥っぽいかも。
印象的な短編集。
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ネタバレ恐るべき緑って、タイトルがもうなんだか普通じゃない感。どういうこと?と思っていたらどこかの新聞で書評を見かけなんだか不思議な内容のよう、と手に取り。
いや、確かに恐るべき緑だった。中学校の時に実験で作った塩素が得も言われぬ緑(薄いバスクリン的な?)に見えたことを思い出しました。その一編を読んで本書の表紙を見たら「もくもく」が恐ろしく見えました。
5つの章立てですが、話の内容として
この順番しかなかったでしょう。最初の「プルシアン・ブルー」が本書はこういうテイストの物語ですよという導入としても話の内容としても面白くて自分は良かった。
フィクションがかなり入っているとのことで訳者あとがきを読 -
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著者は、オランダに生まれ、その後、アルゼンチンやペルーで暮らし、両親の祖国であるチリに移住した。大学ではジャーナリズムを専攻し、無名詩人に師事したこともある。
母語はスペイン語。本作は原語での出版年に英訳され、オバマ元米大統領が注目するなど、各所で高評価を受け、国際ブッカー賞の最終候補にもなったという。
20世紀、休息に発展を遂げた物理化学・天体物理学・数学・量子力学の何人かの巨人たちにまつわる物語5編。
「プルシアン・ブルー」は、青酸カリ・青色顔料・毒ガス兵器を巡る物語。表題の「恐るべき緑」は本作から採られている。毒ガス開発者のハーバーは、空中からの窒素固定を可能にした人物である。これは