初谷むいのレビュー一覧

  • スペース短歌

    Posted by ブクログ

    Xに、「スペース」という、音声を個人で配信できる機能があるらしい。
    その「スペース」を使い、歌人の初谷むいさん、寺井龍哉さん、千葉聡さんがテーマを決めて短歌を募集。選ばれた短歌を発表、御三方で講評するという、私製ラジオのような番組を書籍化。
    とても楽しく、読後は短歌というものがますます好きになった。

    まず、御三方(プラス、表には出ないけれど裏方の編集者の大久保さん)の、和気あいあいとした雰囲気が心地よい。
    鼎談ではなく、リスナーがいる開かれた空間という場所なので、交わされる言葉も内に籠もることなく外に向けられていて、配信している人も、聴いている人も、一緒に番組を楽しんでこう、という気遣いが感じられる。

    まるで、六畳ワンルームのタコパに迎え入れられたかのようにあたたかく、嬉しい。

    選ばれた短歌の解釈や思い浮かぶ情景が、歌人の御三方でもまったく違ったりするのがやっぱり面白い。

    第五回のゲストの枡野浩一さんがおっしゃる通り、短歌は、読むひとそれぞれの人生の経験によって、読み(解釈)が違ってきたりする。

    この歌は、千葉さんの読みに一票、とか、初谷さんの読みも素敵だな、とか、寺井さんの脳内にはそんな情景が浮かんでたんだ!とか、自分も参加しているつもりで読める。

    なぜか、芋ようかんのでてくる短歌が二首も選ばれてるのが地味に面白い。

    芋ようかん比率の高い書物です。

    ***

    いちばん好きだった短歌。

    ものすごい色の空さえ従えてあなたがなにか話そうとする 十条坂

    大きさ(空さえ従えて)と、小ささ(なにか話そうとする、だけ)の、対比がすき。
    「あなた」と、この歌の主役の関係の距離感はどんなだろとか、それによって、話される内容の意味、重さが変わるよね、とか、想像をたくましくさせられた歌。

    0
    2025年07月15日
  • スペース短歌

    Posted by ブクログ

    歌人の初谷むいさん、寺井龍哉さん、千葉聡さんの三人が「短歌を紹介するラジオ番組があったらいいな」と思い番組を作ってしまおう!と考えXのスペース(音声配信システム)で新しい短歌を募集し、紹介することを思いついたそうです。
    2024年4月から9月まで三人は月に一度90分間の「スペース短歌」を開いたそうです。
    この本は、「スペース短歌」で繰り広げられたトークをまとめたものだそうです。


    私は短歌の読解力がないので、この本は全部の短歌にお三人の解説(トーク)で説明があるので非常にわかりやすく面白かったです。
    お三人の他にゲストで服部真里子さん、枡野浩一さんも登場されます。

    番組に投稿された歌は、私が毎月読んでいる『NHK短歌』、Xでフォローさせていただいている方々の歌もたくさんあり楽しかったです。
    プロの歌人の方の歌も載っています。

    その中からプロではない方(と思われる方・間違えてたらすいません)の歌を少し載せます。


    ーーーーーーーー

    春はあけぼの。毛布のやわらかいところ。そしてシーツのつめたいところ    黒井いづみ


    朝の陽とマーマレードをひと匙に乗せたスプーンが手に添ってくる    藤原はるか


    みそ汁にトマトを入れることを知るようにわたしを拡げていこう    森井恵


    きみはまだ知らないでしょう真昼間に浴びるシャワーの澄んだあかるさ    菊智七星


    一面が蛍光ピンクの愚痴だった 西陽のなかの交換日記   
       霧島あきら

    わたしは荷台あなたは運転席だった百年前でも夢でもそうだった    湯島はじめ


    海は好き、だけどびわ湖は好きじゃないみたいなことを言われフラれた    ケムニマキコ


    傷跡は傷じゃないのに柄なのにわたしを見るとみんな痛がる    黒井いづみ


    ぬか漬けのことをみんなが責めているときは黙っていることにした    森井恵


    寝静まる住宅街で僕だけがよく噛んで歌舞伎揚げ食べてる    タカノリ・タカノ


    地球から左右の靴をはがすたび夜のファミマが近づいてくる    山下ワードレス


    わたしのわたしの余地を愛する自転車でたったひとつの栗買いにゆく    湯島はじめ

    0
    2025年01月15日
  • スペース短歌

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    Twitterのスペース機能を使った短歌ラジオのような企画があったらしい。お題に合わせて短歌を持ち寄りいろいろ感想を言う会の文字起こしまとめみたいな本でした。
    三名の歌人の読みがそれぞれ異なることもあれば同じこともあり、自分には思いもよらない考察が飛び交っていて世界が広がる感じがしました。たまにゲストもいます。

    個人的によかった短歌・解説

    ・違う鳥を見ているのかもしれなくてうれしくなった冬の湖畔で 霧島あきら

    恋人なのか、友達なのか、家族かもしれないけれど、誰かと一緒にいて、「鳥がいるね」「本当だ。かわいいね」と話している。でも、話しているうちに、もしかしたら違う鳥を見て話していたかもしれない、と気づいたっていう歌。二人がどんなに親しくても、全く同じ気持ちになることはないし、二人がどこか違っていることが嬉しいっていう感覚は、意外とあるなと思っていて。同じものを見ていることはもちろん幸福ではある。でも、違うものを見る嬉しさもある。私たちはそれぞれ違っている人間だ、という嬉しさってあるな、と再確認しました。すごく好きな歌でした。
    龍哉 初谷さんのお話、すごくよくわかります。今われわれは同じ短歌を読んでるわけだけど、三人とも、解釈が微妙に違ったりするわけですよね、自分はこう思い込んで読んでいたけど、たとえば千葉さんは全然違う読み方をしてて、初谷さんはまた全然違う読みを言ってきたとなると、正直、ビビるけど、でも、その違いがわかることがちょっと嬉しい。「ああ、そっち側にも世界があるんだ」という、そのことはわかる。
    それが、この歌の場合は鳥なんですね。「あそこに鳥がいるね」と、自分は夢中になって話していたら、どっかのタイミングで「え?違う鳥を見てた?」みたいな話だったわけですよね。そのときの、この人には別の世界が見えてるな、世界は実はもっと豊かだな、というのが嬉しいし、もっといろいろな世界を知りたいと思わせてくれるものですよね。
    ちばさと そうだよね。親しい間柄の二人なら、思い込みでおしゃべりしていても楽しめる。この二人が手探りで何か見つけようとしてる過程を詠んだのかもしれないし。
    さまざまな気づきをいただきました。霧島あきらさん、ありがとうございました。龍哉くん、次の歌をどうぞ。

    ・温かいまま骨になる祖父の手をひきながら見た北斗七星 ケムニマキコ

    「温かいまま骨になる」っていうのは、ひいている手に骨の存在を感じるくらいに痩せているっていう生前のイメージと、おじいさんの死が近くて、死んだあと焼かれて骨になる、その骨に火葬のときの熱がかすかに残っている、みたいな死後のイメージと、両方あると思うんです。どんなに痩せていっても生き続けていることを「温かいまま骨になる」って言っているかなって思って。なんかこのすさまじい感性に「うっ」っと胸打たれて、この歌を選びました。それに、歩きながら見た「北斗七星」の、少し冷たいような感じ。やっぱり星座なんで、星と星がつながってる見えない線、骨みたいな線をイメージさせて、祖父が温かいまま骨になって星座になってしまうということも想像しました。そう考えると、星座っていうのも、肉体はないのに、どこか焼いたあとの骨のように少しわずかな何かの熱を残しているような、そんな気までしてきます。祖父と手をつないでいることも星座みたいですよね、人が星で手をつなぐと星座になる。骨になる前の自分も、実は温かい骨が身体の中でつながってるわけなんで、自分自身の中にも星座がある。そう考えると自分も、生きながらにして死の世界に半分に足を踏み入れてるようにも思えます。やっぱり「温かいまま骨になる」というフレーズに、ものすごく力がありますね。
    ちばさと 深い解釈を、どうもありがとうございます。この二人は、「生きる」と「死ぬ」のちょうど境目にいるような気がします。

    0
    2025年09月29日