極めて不快だった。もっと気分を害する人が出てきてもおかしくないと危惧した。
本を読むだけでそう感じるのだから、ヘイトクライムというのはやはり凶悪でしかない。
元々ヘイトクライムは、黒人差別撤廃を求めた公民権運動が発端で誕生した概念。著者曰く、一般的な定義としては「人種や宗教など特定の属性を持つ個人
...続きを読むや集団への差別意識をもとに実行される物理的暴力・いやがらせ・脅迫」を指す。
「ヘイトクライム」と聞くと、自分の場合は海外で蔓延るアジアンヘイトを連想するが、本書は日本国内における在日コリアンへのヘイトクライムに焦点を絞っている。
「私たちの社会は100年の間、一体何を学んできたのだろうか」
読み終えた今、全ての元凶は「無知」なんだと実感している。
京都ウトロ地区やコリア国際学園で起こった放火事件。著者が放火犯に直接取材(!)したところ、ネット上の根拠不明な情報を基に犯行に及んだとのこと。在日コリアンに会ったこともないらしい。
北朝鮮によるミサイル報道があるたび誹謗中傷を仕掛ける人は皆、事実無根の情報(「学校はスパイ養成所」等)を盲信していた。子供たちの日常にまで乗り込んで主張を通したいのか?自分の子供がそんなショッキングな場に居合わせたらと、想像すらできなかったのか?申し訳なさと情けなさで頭が破裂しそうだった。
関東大震災のジェノサイドなんか「無知」の最たる例だ。震災前からくすぶっていた偏見と誤情報に惑わされ、地方出身者(純日本人だが訛りで「鮮人」と一方的に決めつけられた)や中国人まで犠牲になったという。日韓・日中関係が今なお不穏なのは日本政府が当時から非を認めてこなかったからでもあるようだ。
「日本社会は集団ととても相性が良く、個が弱いんです。集団になると同質でまとまり、異質なものを排除しようとする。100年前も今も変わっていませんよ」
「これは在日コリアンの問題ではなく、在日日本人の問題なんです」
だがしかし、本書に書いてあったほとんどが初めて聞くような話ばかりだった。不快になった一方で実態を知り、終始気持ちがざわついていた。あからさまな敵意を示す人間だけじゃない。自分も無知だったのである。
序盤には「憎悪のピラミッド」と言って、偏見による態度がエスカレートすると、ジェノサイドにまで発展することを表した図が掲載されている。最下層の「偏見による態度(冗談等)」を放置すると、徐々にその凶悪度が上がっていく危険性があるというのだ。
まさに帯に書いてあった「『普通の市民』が凶悪犯に変わる瞬間」をよく表しており、ご多分に漏れない自分もその言葉を強く噛み締めた。
本書の刊行時点(2023年8月)で日本にはヘイトクライムを定義・禁止する法律が存在せず、処罰も軽んじて見られている傾向がある。制定を待ちわびる間も過去の過ちを学んで検証し、更に在日コリアンの人々と出会っていくのが我々にできることだ。
無くしていけないかな、こういうこと。