著者が山小屋の主人などから聞き集めた話を、『今昔物語』風にまとめた作品集。
どれも実際に体験した人がいると思うと、いつしか噛み締めるように読んでいた。
特に印象に残ったのは、
第一章 霊鬼的な話「雪中行軍兵士の亡霊が八甲田山の避難小屋を覗いた話」
著者の『マタギ奇談』に、明治時代に起きた八甲田山の大事故についての話があり、地元の人たちを蔑み、忠告を聞く耳持たなかったこと、ケチって案内人を雇わなかったことなどが悲劇の原因のひとつと知り、なんとも言えない気持ちになったことを思い出した。悲惨な亡くなり方をした兵士の霊が100年以上経った今でも彷徨っているのだなぁ
第四章 動物ならびに昆虫の話
人も自然の一部なのに、独りよがりな理由によって自然を壊していく。その被害を真っ先に受けるのは、山の植物や、動物や昆虫たち。物事には原因があって結果がある。いつしかそのしっぺ返しが来る。というか、もうじわりじわりと来ているのだろう。
第七章 情けない話「陣馬山に現れた鬼たちの話」
都会の排気ガスなどに汚染されたスモッグが山まで到達して、雪を黒く汚すことに驚いた。山に積もった雪が黒く汚れているのを見て不思議に思っていたが、そういうことだったのか。。
第十章 人情話 『シカのツノを拾って有名になった男の話』
丹沢は同じ県内ということもあり、馴染みのある場所。第七章の話にも出てきたが、近年になって山の笹の葉が黒く汚れるようになったという。匂いを嗅ぐと排気ガスの匂いがして、東京や横浜、周辺の都会から流れてくる排気ガスが笹の葉を汚してしまうのだ。笹の葉が汚れると、枯れてしまう。枯れてしまうと、笹の葉を食べる鹿の餌がなくなる。食べるものがない鹿は麓に降りて木の芽を食べたり、町に出没したりする。
最近はクマや鹿が街に現れ人に被害を及ぼすニュースを頻繁に見かけるようになった。ニュースだけ見ていると、悪いのは人の住む街に出没する獣のように見えるが、本質はそこにない、ということを知って少なからずショックだった。
クマだって、マタギが伝統的な狩りを続けていた時代には里に降りることは稀だった。マタギが狩りをすることで、人と山の生き物たちとの暮らしのバランスが取れていたのに。
山の、こうした話を読むたびに考えさせられる。
また、こうした話を読みたい。