北山茂夫のレビュー一覧

  • 萬葉の時代

    Posted by ブクログ

    壬申の乱から平安遷都にいたるまでの歴史の流れをたどりながら、同時代を生きた万葉歌人たちの歌を紹介している本です。

    天武および持統天皇の時代に確立され、大仏造立という国家的事業をなしとげた聖武天皇にいたるまでの白鳳・天平時代は、天皇による専制を志向しつつもその内部で藤原氏がしだいに権力を掌握するというかたちで、政治が動いていきました。宮廷歌人であった柿本人麿は、天皇の治世を寿ぐとともに、権力闘争のなかで命を落とした人びとへの哀悼を歌に託しました。

    他方、農民たちの苦しい生活に目を向けた山上憶良は、「貧窮問答歌」に代表される独創的な作風を追求します。さらに東歌・防人歌には、公民の支配が強化されるなかで苦しみにさいなまれる庶民の心情が表現されています。

    『万葉集』は、こうした幅広い階級の人びとの思いを表現する歌を採録しており、この時代を生きた人々の息吹に触れることのできる作品になりえています。その背景には、中国文化を取り入れて詩作をおこない、遊園の席でそれを口誦する宮廷人たちの文化的成熟と、庶民のあいだで口ずさまれる民謡が洗練されて彼らの文学的な資質が高められるという、二つの潮流がありました。本書は、こうした文化史における変化と、政治史における出来事が相互にからみあって展開される時代の様相をえがき出しています。

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    2025年04月10日