あなた、よくオオカミの本を読んでいるけど、なんでそんなにオオカミが好きなの?ときかれた。
はて?
改めてきかれると、自分でも何で?と思う。
シートン動物記の『狼王ロボ』や、ジャック・ロンドンの『白い牙』や『野生の呼び声』、熊谷達也の『漂泊の牙』など狼を題材にした小説はどれも面白い。「大口眞神」のお札で有名な秩父の狼信仰について書かれた『オオカミの護符』という本は、日本人が狼をどのように考えてきたかがわかってとても興味深い。
でも、これらの本に出てくるのが、狼だったり、オオカミ犬だったり、イヌだったりで、それぞれの違いが曖昧。ニホンオオカミもヤマイヌと呼ばれて、ごっちゃにされていたみたいだし、天空のシリウスも天狼星と呼ばれたりするけど、おおいぬ座だし、人に飼われているイヌの先祖は全てオオカミの子孫らしいから、混同してしまうのは仕方ないとしても、狼のこと、実はよくわかってないかも?と常々感じていた。
そんなときに、この本がドーン!と自分の手元にやってきた!
実際に北米アイダホ州でオオカミの群れと6年間暮らしてきた夫妻のドキュメンタリー。
読むうちに、なぜオオカミの本が好きか、すぐにわかった。彼らが人間くさいからだ。
狼の群れには厳格な序列があって、アルファ狼が群れを統率して、他の狼は彼に従う。獲物を仕留めたときも、一番に食べるのはアルファだが、他の狼だって腹が減っているのは一緒だ。二頭の狼が知恵を出し合って、連携プレーでアルファを欺き、分け前を余分にゲットしたりする。一番立場の弱いオメガ狼は、他の狼にいじめられたりして、食事も一番後になりがちだが、それで飢えたりはしない。いじめっ子から、いじめられっ子を守る狼もいるからだ。
強い子、弱い子、ずる賢い子、正義感強い子、穏やかな子、怠ける子、でも本気出したらすごい子、人間社会にも、いるいる、こんな人。
一匹狼なんて言葉があるから、単独行動を好むと勘違いされるかもしれないが、狼は基本的には集団行動で、一匹でいる場合は、群れから追い出されたか、縄張り争いに負けた場合で、パートナーを探す途上の狼らしい。でも好奇心旺盛な若い狼が自ら新天地を求めて、群れを飛び出すこともあるらしい。ますます人間くさい。
狼たち、カラスと戯れることもあるらしい。カラス好きの自分としては、その映像がものすごく見たい。カラスもチームワークで猛禽類を追い払うし、なんか相通ずるものを感じとっているだろうか。
読めば読むほど、愛おしさが募るばかりの、そんな狼たちを、狩りの標的にする輩がアメリカには大勢いるらしい。ほんとにもう、しょうもない奴らだ。
罠にかかって弱っていくばかりのパートナーを、どうすることもできずに、死を待つだけの数日、毎日食べ物を運んで看取りにくるという、こんな愛情深い動物を、なぜあんたらは殺せるんだ?
どうも狼は家畜を襲ったり、人間に害を与える害獣という固定観念に囚われているようだ。そういえばシートンの「狼王ロボ」は食べるわけでもなく、遊びで家畜の羊を百数十匹殺していたなあ。あれ、実話? 実話にしても創作にしても、たぶんシートン動物記が名作であるがゆえに、狼の凶暴なイメージを広めてしまったと思う。
狼のようなトッププレデターを絶滅に追い込むと生態系が破壊される。日本は狼を絶滅させてしまったばかりに、鹿や猪が増えすぎて、山野の植生が変わり、毎年深刻な農作物被害が出て、何十万頭も、たぶん二つ合わせたら100万頭を超える数を、毎年のように駆除しなくちゃいけない国になった。
北米も一時期そうなりかけたにも関わらず、やっと増えてきた狼を、また殺そうとするなんて。愚かな行為でしかない。狼狩りは禁止にすべきだ。
この本、10代の子でも読めるような形でも出版して欲しい。大人より子どもが読んだほうが意味がある。