仕事を辞め、夫と一緒に新しい町に引っ越してきた青奈の日常を
ゆるゆると描いた本なのですが
面白いのは、普通の描写の中に時折顔を出す、不思議な数行。
たとえば。。。
初詣の帰り道、突如として現れ、いたずら坊主を投げ飛ばす閻魔様。
筆を振り回して通りがかりの人にペンキを塗りたくる、アーちゃんという子ど
...続きを読むも。
(しかも、アーちゃんは歴代何人もいるらしい)
民家の屋根の上で、蛇をむしゃむしゃ食べているシャチホコ。
指にはめると喋り出し、持ち主にアドバイスまでする指輪、おしゃべりオパール。
公園の池に浮かぶ蓮の花がひらくたび、毎日姿を現すちいさなお釈迦様。
黄金町に住む人々がなんてことはない日常として受け入れている
こんな摩訶不思議なできごとに、「ほうほう、そういうものなのね」とばかりに
青奈も夫の那津男も、実にあっさり馴染んでしまうのです。
黄金寺に捨てられて、寺で育てられ、町で乱暴狼藉をはたらいても
町の人になんとなく許され、13歳になるとその身分(?)を卒業するという
歴代のアーちゃんたち。
心の中に積った汚いものをアーちゃんという生け贄に投影して
みてみぬふりをして過ごしている町の人たちは
いつまでも成長しないコドモの部分を抱えながら
大人として偉そうに過ごしている自分を見るようで、なにやらほろ苦くて。
密かに不妊に悩む青奈も、崩壊しかけた熊のぬいぐるみを溺愛する那津男も
女性に見境のない、青奈の雇い主の千ちゃんも
アーちゃんなしでも自分の汚さに向き合って、浄化できる日のために
魔法の巣のような黄金町で、自分を包む卵の殻を
内側からコツコツと、たよりない嘴でつっついているのですね。
不思議な味わいの物語です。