写真集を本棚に入れるのは大橋弘一さん、寺沢孝毅さん、富士元寿彦さんに続いて4冊目、そろそろ写真集のカテゴリも作らないといけないかもしれない。
半田菜摘さんは看護師という仕事をしながら、野生動物と向き合って自然の中で、彼らに負担をかけないように気遣いながら撮影を続けてきた。
ひとことで言ってしまえばそういうことだが、これはとんでもないことである。
まず、看護師としての仕事がある。それはミスの許されない緊張感を伴う現場であり、人の生死を扱う現場でもある。
夜勤明けに仮眠をとって、森へ向かう。そこではブラインドを貼り、何時間でも動物が現れるのを待つ。
氷点下15度の中、3時間待って、くしゃみひとつで動物が逃げたこともある。
中には出会うことさえ困難を極める動物もいるし、出会ったら危険な動物もいる。
動物の習性を知り、行動を知らなければそこに現れることはないから、足跡や食痕をたどり、学習を重ねる。糞を見つけたら、臭いを嗅いでみるといった行動にも及んでいる。その結果、感じたことが印象的。
半田さんが看護師であり、死を看取ってきた経験もあるからこそ、野生の死や誕生にも半田さん独自の心の動きがあるのだろう。写真はそれを伝えようとしている。
キャプションから、半田さんが動物の生態や習性を学び、学習して、アイヌの気持ちが自分が動物に接するときに感じる気持ちと近いと感じたからこそ、彼らにカムイの名を冠し、その解説がなされている。
アマチュアの方も素晴らしい写真を撮っておられ、今はSNSでそれを見ることもできるが、写真家はテーマを持ってそれを1冊にまとめているので、やはり本として写真を見ることに意義を感じる。
アイヌ語で「獲物」を意味する「ユク」、エゾシカは道内のどこにでもいる動物だが、この動物の写真に、いちばん生と死を感じさせられた。年老いたエゾシカの姿、そしてその後を追っている半田さんの言葉が身に沁みる。