ペスト,コレラ,腸チフス,赤痢,淋病,ジフテリア,結核,梅毒,破傷風,炭疽病,ハンセン病など,さまざまな感染症の歴史がまとめられている。古くは異なる病気が同じものと見なされたり,その記録を探るのも困難があろう。
病気の歴史は,病気とのたたかいの歴史と同義だ。その解明と治療に向けて,多くの科学者の努
...続きを読む力がある。必死に探る姿から,目の前の病人を救いたいという思いが伝わる。栄誉欲による探究のものもあるのだろうが,それを感じさせない献身的な取り組みがある。
ただその一方で,今から考えると人権を損なうような研究方法もある。また,多くの犠牲の上に,研究の成果があることも事実だろう。
いわれのない差別も,感染症には多くあった。特に,ハンセン病については,日本では2008年まで隔離政策が続いていた。はじめは未知のものに対する恐怖心から,それが徐々に固定化していく。現在でも,エイズなど新しい感染症に対する偏見はなくならない。また,新型インフルエンザに対する世の中の反応でも,そのようないわれのない差別が見え隠れしている。何と愚かなことだろうか。
また,これらの病原体を使った生物兵器の開発,実験が行われている。自らを犠牲にしてまでも,病気の解明や治療法の開発に力を注ぐものがいる一方で,その知識を使って人殺しを考えるものもいる。人類の醜い心とのたたかいは,特効薬がないだけに難しい。
間違ったことを繰り返さないためにも,過去の事実を知っておく必要がある。また,未知のものに対する過剰な反応を避けるためにも,過去の感染症の歴史と,それが起こるしくみ,さらに治療法などについて,知ることは大切だと思う。過去の知識があれば,新しい感染症に対しても,冷静に対応できるものと信じたい。