「今度うちの奥さんと息子と3人で、NHKに出ることになったんだ。是非見てよ」
10年前に出席した大学のゼミの同窓会。
大学の教員をする同級生が、「クローズアップ現代」の取材を受け出演することを教えてくれた。
テーマは「小児医療」。
「神奈川県立こども医療センター」で、難病と戦うこどもたちとそのご家族、そして最前線で奮闘される医療関係者へのインタビューなどで構成されたドキュメントだった。
その番組に、思わぬ人が登場する。
横浜ベイスターズ(当時)の村田修一選手だった。
村田選手は、ベイスターズ、ジャイアンツで活躍し、2018年、独立リーグの栃木ゴールデンブレーブスに移籍後引退。
戦力外通告を受けた選手の引退記念試合を開催されるのは異例中の異例。
しかも、対戦相手はフリーエージェントで別れを告げたはずのベイスターズなのだ。
彼の背番号25を引き継いだベイスターズ筒香嘉智、ジャイアンツ岡本和真が花束贈呈。
そして、3チームの「背番号25」を背負った3人の息子さんから花束が贈られた。
両チームの応援団から、それぞれの応援歌が奏でられる。
そのセレモニーを見ながら思った。
ベイスターズファンとして「フリーエージェントで出て行った選手」という短絡的な見方を、このままずーっとしていていいのか。
彼の本当の思いはどこにあったのか。
あの時、仲間の子どもと一緒に病気と闘っていたあの子が、元気に花束贈呈をしている。
そして、この本を手にとって見た。
高校時代の松坂大輔との出会い。
日本大学での鍛えの日々。
横浜ベイスターズの四番打者としての矜持。
北京オリンピック。第2回WBC。
日の丸を背負う舞台での挫折と栄光。
そして芽生える「優勝」への憧れ。
「勝つ」野球に徹するジャイアンツでの発見。
そして、まさかの戦力外通告。
独立リーグで、野球の原点に戻った日。
栃木と東京ドームでの引退セレモニー。
指導者として第一歩を進み始めた今。
球界を代表する強打者の、これまで知ることの出来なかった想いが綴られる。
引退後だからこそ明かされる技術論や、メンタルの問題。
悩み抜いた本人にしかわからない赤裸々な語りに吸い込まれていく。