乙川優三郎のレビュー一覧

  • 潜熱
     正直に話す。本当に文体だけで読ませる。
     今、こんなに端正で乾いて快い文章に出会うことはあるかな。
     
     
  • 潜熱
    広告コピーライター、作詞家、小説家と言葉を連ねることに生涯を捧げてきた男の物語。多くの文学賞を受賞し、死を意識する年齢になった作者が「言葉」への思いをぶつけた遺作なのだろう。

    タイトルの「潜熱」とは物質が固体や液体になるために必要とする熱量のこと。男は出会った人の潜熱で人生を変えてきた。友情や愛情...続きを読む
  • 潜熱
    作詞家を目指し、一角の者になり、音楽がただで聴けるようになって作家になった相良という男の一生が、一日で読めてしまう小説。あれ、珍しく主人公はハッピーエンドで終わらないのかなと思いきや、やっぱりそこそこの幸せに落ち着きそうに終わる。
    この人の小説はいくつも読んでいるが、文筆家が主人公の話が多く、中でも...続きを読む
  • あの春がゆき この夏がきて
     言葉を、表現を、そして神木の人生を、しっかりと味わった。劇的なものはないかもしれないが、それは仕方の無いこと。憧れはないが、こんなにふうに成し遂げられないままで終わるのも本当の人生だな。
  • ロゴスの市
    『ロゴスの市』‪ 乙川優三郎さん

    2年前に一度読み、再読。

    英語と日本語、翻訳家と通訳の対比表現、そしてそれらを弘之と悠子へ当てはめていく描写が素晴らしいです。‬
    ‪恋愛模様だけでなく、翻訳家事情についても非常に詳しく描かれていると思います。日本語は美しい、しかし用い方によっては醜くも...続きを読む
  • ロゴスの市
    昨年読んだ「太陽は気を失う」がなかなか良かったので買ってみたが、新年早々、良いお話を読んだ。
    学生時代に出会い、惹かれあって、しかし仕事と生活の狭間で苦悩し、すれ違う男女の切なくなるような愛情模様。
    結婚という枠から外れても、こういう事情の情事なら…。
    直截的な表現はなくても艶めかしく、互いの精神の...続きを読む
  • ロゴスの市
    男は翻訳家、女は通訳。二言語の間を取り持つという果てのない世界に、少しだけ違うアプローチで魅せられた二人の運命を、長い年月にわたるがほんの短い交流で描いている。
    とにかく暖かく重みがありながら、エッジを失わない文体で綴られている。翻訳という作業も、こういう選びぬかれた言葉でじわじわと積み上げていく苦...続きを読む
  • ロゴスの市
    ロゴス愛に溢れた一冊。
    翻訳という仕事のことがよくわかりました。まるで異業種交流したような気分です。
    恋愛については…昭和感が味わえると思います!

    翻訳には明確なルールがなく、訳者のセンスに任されるところが大きいことから〈翻訳という作業も創作〉といえるそうです。

    そういった意味で、個人的に一番気...続きを読む
  • 潜熱
    信州の小さな街の貧しい畳屋の一人息子として生まれた主人公の相良梁児が、故郷を捨てるようにして上京、小さな広告代理店にもぐり込む。
    そこから始まる主人公の人生が、昭和30年代から令和までを舞台に描かれる。
    そしてその道連れとなるのが、遅れて上京してきた大庭喜久男。
    母子家庭に生まれた大庭は上昇志向の強...続きを読む
  • 潜熱
    畳屋の息子がコピーライターを夢見て家出同然で東京へ。同じく俳優を夢見る大庭との友情などの章。次はコピーライターから作詞家への転身と結婚、最後はさらに作家を目指す。
    関わってくる人々への深い人間観察と書く言葉選ぶ言葉への偏執的なまでのこだわりが文章になって表れている。
    時代の流れ、空気感、そして主人公...続きを読む
  • ある日 失わずにすむもの
    NYのスラムで生まれたマーキスは、弟とともにジャズミュージシャンとして生計を立てていた。そんな中、近々戦争になるという噂を耳にし……
    ある日戦争によって失われる日常を描いた短編集。ゆっくりとあるいは突然に、容赦なく。
  • ロゴスの市
    はじめて恋愛小説を読んだ。
    なかなか面白いもんだ。
    ストーリーを追うのが楽しくて、読めない漢字をそのままにしてしまったことが少し後悔。
    漢字が読めたらもっと楽しめたかも。
  • 地先
    面白いかな?なんて不安はこれっぽっちもなく安心して読める貴重な作家さんです。旧作の時代物がデジタルで読めることを願います。
  • 潜熱
    人生を振り返る時。また、まだこれか先を見つめる時。その人の潜熱。内部にひそんでいて外にあらわれない熱量を見つめる時。
  • ナインストーリーズ
    また、読み終わりたくない時間があっという間に過ぎてしまう。なんでなのかな。話自体は九篇あるうち、もの珍しいのはそれほど多くないのだけれど。しかも、それぞれの登場人物から見れば悪いばかりではない終わり方なんだろうけど、話としてのハッピーエンドではない話も多いしな。でも逆に、これからのことを考える話ばか...続きを読む
  • あの春がゆき この夏がきて
     過去、現在、未来 → すべてつながっているが、過去の不幸は現在の不幸でも未来の不幸でもない。現在の不幸は今現在作り続けている不幸であり、未来の不幸は悩み続けているからの不幸であるから。
     どこか納得させられました〜
  • ナインストーリーズ
     語り口の巧みさは、この人の現代小説の持ち味。
     ほろ苦さ。その味付けから外れない。
     そこは魅力ではあるが、無い物ねだりしたいところでもある。
  • あの春がゆき この夏がきて
    乙川氏の髄ともいえる文、そして選びつくされた言葉が並ぶ。

    黄昏期に立つ男女の機微を主人公の語り手神木の言葉で紡いでいく。しかし、このくらい嫌な男はいないだろうと言うのが正直な感想・・ほとほと嫌悪感で充満した。
    だから読書っていいんだなとも思う・・好きな人とだけ、好きな時間を生きていた結末の空虚さを...続きを読む
  • ナインストーリーズ
    初出 2019〜21年「オール讀物」
    タイトルどおりの9つの短編集。

    昔からこの人の文体が好きだ。
    こなれて静かですんなり入ってくるのに、表情を持つ言葉が記憶に残る。
    9人の初老か老年の主人公たちも、またそのような感じがする。

    フランスに行って宝飾デザイナーとして成功した妻に、帰国を懇願するが拒...続きを読む
  • ロゴスの市
    通訳者の悠子と翻訳家の弘之の恋愛を描いた作品。すれ違いを重ねながらも心の奥底でお互いの仕事や生き様を理解し合い、結局一番互いを必要としている数十年が描かれていた。使われている表現が綺麗で読んでいる中で心が洗われるような作品。御宿にもドイツのブックフェアーにもにも行ってみたくなる。
    なぜ通訳をすること...続きを読む