乙川優三郎のレビュー一覧
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大学時代に英語を学び、ロゴスの世界にのめり込んでいった男女、主人公の男は翻訳家になり、ヒロインの女は同時通訳家になった。彼らは大学生の頃から、お互いに対し恋心を抱いていたが、2人ともそのことを打ち明けることはなかった。それぞれの仕事が順調に躍進する一方、会う時間も減り、お互いの人生がすれ違い始める。しかし、心の中にはいつも存在していた。
翻訳家と通訳家の仕事の喜びと苦悩を知ることができ、この本に表現された美しい言葉の旋律を読んで小説家の言葉の尊さを感じた。
言葉が深く、美しい文章も何度も噛みしめるように読み返した。
最後の衝撃の結末は涙腺を崩壊させた。
最後に第三者から手紙で語られる -
Posted by ブクログ
『ロゴスの市』 乙川優三郎さん
2年前に一度読み、再読。
英語と日本語、翻訳家と通訳の対比表現、そしてそれらを弘之と悠子へ当てはめていく描写が素晴らしいです。
恋愛模様だけでなく、翻訳家事情についても非常に詳しく描かれていると思います。日本語は美しい、しかし用い方によっては醜くもなる…そう、母語は時に敵になるんですね。。
言葉を紡ぐことがどれだけ日常を豊かにするか、再度学びました。
ドイツのブックフェアのシーンは、読書好きにはたまりません。会場で弘之が興奮している描写は、私の琴線に触れました。
帯にある通り、切ないです。しかし、最後の一ページで -
Posted by ブクログ
昨年読んだ「太陽は気を失う」がなかなか良かったので買ってみたが、新年早々、良いお話を読んだ。
学生時代に出会い、惹かれあって、しかし仕事と生活の狭間で苦悩し、すれ違う男女の切なくなるような愛情模様。
結婚という枠から外れても、こういう事情の情事なら…。
直截的な表現はなくても艶めかしく、互いの精神の中に巣食うような表現に情愛の深さを思う。
とても端麗な文章で、初めて触れるような言葉の使い方もあり、作中、翻訳家が英語から日本語を絞り出すのに呻吟する様が描かれているが、日本語を紡ぐだけでもどれほどのことかと思い知る。
向田邦子、芝木好子、ジュンパ・ラリヒも読んでみたいと思った。 -
Posted by ブクログ
信州の小さな街の貧しい畳屋の一人息子として生まれた主人公の相良梁児が、故郷を捨てるようにして上京、小さな広告代理店にもぐり込む。
そこから始まる主人公の人生が、昭和30年代から令和までを舞台に描かれる。
そしてその道連れとなるのが、遅れて上京してきた大庭喜久男。
母子家庭に生まれた大庭は上昇志向の強い野心に満ちた男で、俳優として世に出ることを夢見ている。
さらに大庭の恋人となり、後には相良とともに生きていくことになる女優の宇田川陽子が加わって、それぞれの歩みが綴られていく。
読み始めるとすぐにその世界に引きずり込まれるのは、これまで同様で、全体に抑えた調子の品格ある文体が心地いい。
そしてその -
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ロゴス愛に溢れた一冊。
翻訳という仕事のことがよくわかりました。まるで異業種交流したような気分です。
恋愛については…昭和感が味わえると思います!
翻訳には明確なルールがなく、訳者のセンスに任されるところが大きいことから〈翻訳という作業も創作〉といえるそうです。
そういった意味で、個人的に一番気になるのはタイトルのつけ方です。
たとえば本書にもでてくる『若草物語』。
原題は『Little Women』(直訳: 小さな婦人たち)だったそうですから、つけた人のセンスに脱帽です。
有名な『レ・ミゼラブル』は黒岩涙香氏によって『ああ無情』となりますし、世の中には素晴らしい邦題がたくさんあることに