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直木賞、山本周五郎賞はじめ、大佛次郎賞、中山義秀文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、島清恋愛文学賞を受賞など、あまたの文学賞を受賞した実力波作家が、書くことをテーマに、真正面から向きあった力作長編小説。昭和から、平成、令和へと生涯を通して、書くことへの飢えを希求した一人の男の魂の変遷を描く。
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Posted by ブクログ
ありがたくて、正座して読みたくなる、特別な作家です。 どの一文も意味があり、流してしまいたくない。
正直に話す。本当に文体だけで読ませる。 今、こんなに端正で乾いて快い文章に出会うことはあるかな。
広告コピーライター、作詞家、小説家と言葉を連ねることに生涯を捧げてきた男の物語。多くの文学賞を受賞し、死を意識する年齢になった作者が「言葉」への思いをぶつけた遺作なのだろう。 タイトルの「潜熱」とは物質が固体や液体になるために必要とする熱量のこと。男は出会った人の潜熱で人生を変えてきた。友情や愛情...続きを読む、同情、敵対などが複雑に入り混じり、そこから生まれた感情を言葉として吐き出し、行動に変換する。 作者の豊富な語彙力がふんだんに使われて、テンポの良いストーリー。男の40数年の人生があっという間に語られる。
作詞家を目指し、一角の者になり、音楽がただで聴けるようになって作家になった相良という男の一生が、一日で読めてしまう小説。あれ、珍しく主人公はハッピーエンドで終わらないのかなと思いきや、やっぱりそこそこの幸せに落ち着きそうに終わる。 この人の小説はいくつも読んでいるが、文筆家が主人公の話が多く、中でも...続きを読む壱番この本が、俺もこういう残余の人生を送れないものだろうかと思った小説だった。 まぁ、でもこの相良みたいに奥さんと国を違えて別居になって事実上の離婚なんてことになるのは望みたくない。 に、してもいつもながら、至福の時間だったな。
信州の小さな街の貧しい畳屋の一人息子として生まれた主人公の相良梁児が、故郷を捨てるようにして上京、小さな広告代理店にもぐり込む。 そこから始まる主人公の人生が、昭和30年代から令和までを舞台に描かれる。 そしてその道連れとなるのが、遅れて上京してきた大庭喜久男。 母子家庭に生まれた大庭は上昇志向の強...続きを読むい野心に満ちた男で、俳優として世に出ることを夢見ている。 さらに大庭の恋人となり、後には相良とともに生きていくことになる女優の宇田川陽子が加わって、それぞれの歩みが綴られていく。 読み始めるとすぐにその世界に引きずり込まれるのは、これまで同様で、全体に抑えた調子の品格ある文体が心地いい。 そしてその底に見え隠れする深い想いが胸を打つ。 それは古稀を目前にした作者自身の現在の心境が強く投影されているからだ。 そこには悔恨や哀しみばかりでなく、秘めたる熱情を感じとることができる。 それこそが「潜熱」なのであろう。 なお「潜熱」とは、物質が状態変化する際に発生するエネルギーのことである。
人生を振り返る時。また、まだこれか先を見つめる時。その人の潜熱。内部にひそんでいて外にあらわれない熱量を見つめる時。
潜熱というごく簡潔なタイトルが、全てを物語っているのが、素晴らしい。 作者を彷彿とさせる主人公。フィクションだと分かりつつも、重ねてしまう。 創作者の苦しみというか、業というか、向き合い方を覗き見る感じで迫ってくるものがある。 老いてからの侘しさや、悲哀を抱えながらも、なお蠢く創作の欲。まだまだ、次...続きを読む作を期待してしまう。
乙川さんの洗練された文章は相変わらず心地いい。 昭和〜平成〜令和を生きた男の一生も、作者にかかるとこれほどまでにスタイリッシュで軽快になるから不思議。 人生って、作中で何度か描かれる「中央フリーウェイ」の一節のように滑走路のような道を車で飛ばしているようなものなのかもしれないなと思う。 過ぎてしま...続きを読むえばあっという間。 失敗も、挫折も、苦労も、風に飛ばされて後方に過ぎ去って行き、最後は夜空へと旅立つ‥‥みたいな。 そんな感傷に浸った読後。
畳屋の息子がコピーライターを夢見て家出同然で東京へ。同じく俳優を夢見る大庭との友情などの章。次はコピーライターから作詞家への転身と結婚、最後はさらに作家を目指す。 関わってくる人々への深い人間観察と書く言葉選ぶ言葉への偏執的なまでのこだわりが文章になって表れている。 時代の流れ、空気感、そして主人公...続きを読むたちの移り変わりと変わらずにいるものが心に染みる。そんなに長い小説ではないけれど、じっくり読み応えのある一冊でした。
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