乙川優三郎のレビュー一覧

  • ロゴスの市
    小説を選ぶ際、主人公の年齢と読み手である自分自身の年齢が近いかどうかが、ひとつの基準になっている。10代の頃に読んだ小説は、明治に編まれた小説であっても青春小説であれば好んで読んだし、高校時代、あの「竜馬がゆく」でさえ幕末を舞台にした青春小説として読んだ。それが今や、10代の甘酸っぱい青春小説には手...続きを読む
  • 喜知次
    藤沢周平の「蟬しぐれ」を彷彿させる作品という評判を聞いて読んでみたが、三人の若者達の関係に復讐が介在するので、「蟬しぐれ」のような爽やかさはなかった。しかし、登場も少なく、ほとんど描写されなかった花哉の恋心、心の強さが最後にきて効いていてタイトルを何故、喜知次にしたのかがわかったような気がする。良い...続きを読む
  • ナインストーリーズ
     外国での仕事・暮らしが絡んだ中年男女の恋愛、離婚、再婚など、9話が収録。著者、乙川優三郎さんは房総が一番のようですがw。「ナインストーリーズ」、2021.6発行。第2話「1/10ほどの真実」、第3話「闘いは始まっている」、第8話「あなたの香りのするわたし」がお気に入りです。
  • あの春がゆき この夏がきて
     今月は、乙川優三郎さんに凝っていますw。乙川優三郎さん、時代物から入りましたが、近年は現代物のようで。女性が主人公の場合、凛とした女性が多いと思っています。男性の場合はいかがでしょう(^-^) 「あの春がゆき この夏が来きて」、2021.10発行。出版社に勤務、絵描きと文筆に造詣があり、バーのオー...続きを読む
  • 潜熱
    潜熱というごく簡潔なタイトルが、全てを物語っているのが、素晴らしい。
    作者を彷彿とさせる主人公。フィクションだと分かりつつも、重ねてしまう。
    創作者の苦しみというか、業というか、向き合い方を覗き見る感じで迫ってくるものがある。
    老いてからの侘しさや、悲哀を抱えながらも、なお蠢く創作の欲。まだまだ、次...続きを読む
  • ナインストーリーズ
    ホテルの上階は音も絶えて、そろそろ若い人たちが睦み合う時間であったが、亜希子はもう来ることのない海を眺めるために部屋の明かりを消してみた。曇天なのか月も星もなく、海原は暗く澱んでいたが、薄明かりの眼下に白い波が寄せているのが見える。すぐ近くで同じ海を見ている男を感じながら、彼女は終わったことにいくら...続きを読む
  • 潜熱
    乙川さんの洗練された文章は相変わらず心地いい。

    昭和〜平成〜令和を生きた男の一生も、作者にかかるとこれほどまでにスタイリッシュで軽快になるから不思議。
    人生って、作中で何度か描かれる「中央フリーウェイ」の一節のように滑走路のような道を車で飛ばしているようなものなのかもしれないなと思う。
    過ぎてしま...続きを読む
  • あの春がゆき この夏がきて
    現代を描いているかと思いきや、戦後の浮浪経験のある人が壮年として生きてきた時代。
    男女の機微については、共感し難い部分も多いが、芸術についての文章が多く、作家の思考に触れる感じがいい。
  • ナインストーリーズ
    「毎日顔を合わせている夫婦が私より幸せとは限らないわ、お互いの欠点に触れて憎み合ったり、夫婦をつづけるために大事なものを犠牲にしたり、そんな十年ならひとりでいる方がましでしょう」p26
  • ある日 失わずにすむもの
    「失う」ということは、連なりが断たれることなのかなと思う。血縁、地縁、積み上げた人生、経験。進んできた“これまで”が途絶して、後ろが無くなる、“ここから”しかなくなってしまう状況、状態。
    先が見えないことは恐ろしいが、先しか見えず後ろが無くなることは尚恐ろしい。そんな不安に晒された人間の地金に指を這...続きを読む
  • あの春がゆき この夏がきて
    画家として、装丁家として、ひたすらに美を追い求め闘い続けた男の生き様を、その歳々にすれ違い、情を交わした女たちとの水のような関わり通じて描き出す8つの物語。

    まず本の装丁が美しいの一言。開かずに表紙を眺めているだけでうっとりする。乙川さんの作品はいつも装丁が一つの美術品のようだけれど、今回は特に好...続きを読む
  • ナインストーリーズ
    歳を重ねれば、人に疲れも見えてくる。その戸惑い、戸惑いに流れてくる冷たい風。
    そんな風があちこちに吹く九つの景色が書かれている。
  • ナインストーリーズ
    現代小説へと舞台をギアアップした氏の短編9編。
    何れも人生黄昏期を迎えた男女の来し方行く末を偲びやかな辛口であったり、乾いた文体で・・あたかも俯瞰する視点で見つめている。

    あれ、乙川さんって・・直木賞だったよねと思うほど、最後の作品は芥川賞っぽく、それを読む私も・・あれ?(芥川賞系は合わないので)...続きを読む
  • ナインストーリーズ
    満足? 後悔? 愉悦? 絶望? 
    人生の黄昏を迎えるとき、人は自らの来し方をどう捉えるでしょうか。
    長く別居して年一回の対面を重ねる夫婦、
    定年間近の独身男の婚活、
    還暦過ぎの女友達二人、
    かつて交際していたアイドル歌手同士の再会……。
    乙川さんの新作は、誰の身にも起こり得る人生模様を端正な文章で紡...続きを読む
  • ナインストーリーズ
    短編の時は特に、各タイトルが秀逸。
    しかし、どれもなかなかに辛い話。5と8話は幸福感があるか。1と7話が好き。
    何時もの如く、女は強く、男は流されていく。
    人と人の心のすれ違いを描いているだけなのに、なぜこんなにも格調高く感じるのか。
    とは言え、似た感じのものが増えてきているのは、少しつまらない。
  • ナインストーリーズ
    晩年を迎えた男と女の来し方行く末を美しい文章で、時に甘く、時に辛辣に描く9つの短編。
    若さの青さと苦さを描いたサリンジャーの短編集と同じタイトルながら、それとは対照的なのが面白い。

    安定を捨てきれず、人生の後半に差し掛かってなおぐずぐずと逡巡する男に対し、あまりに強く身軽な女性たちの姿が印象的。
    ...続きを読む