本をよく読む人ならこれまでに何度となく、本の片隅にある〈装丁:鈴木成一〉という文字を目にしているだろう。
装丁に詳しい訳ではないが、本を読んでいると、「あ、この本も鈴木さんのデザインなんだ…」と思うことが少なくない。
そんな、読書生活の中でお名前を非常によく見かける装丁家(ご本人にその自覚はないらし
...続きを読むいのだが)、鈴木成一さん自身が装丁について語った本ということで、本書を書店で見つけた時は即購入を決めた。
本書は、これまでに装丁デザインを手掛けた8千冊以上の本の中から約120冊を選び出し、それぞれの演出意図について本人が解説している。
装丁とは、「個性をちゃんと読み込んで、かたちにする」、「その本にとっての一番シンプルで必要なものを明確に演出する」ことだという鈴木さんは言う。その作風は、『赤毛のアン』や『ぽろぽろドール』などの女心をくすぐるとびきりキュートなものから、クライム・ノベル『邪魔』や猟奇的な小説の不穏・不気味な感じまで、作品に合わせて実に変幻自在だ。それゆえどのページをめくっても、同じ作家の作品だとは思えないくらい新鮮で、制作秘話も興味深く、始めから終わりまで一気に読んでしまった。
中でも、「どうしても人格とか性格とか、人間の生っぽさ」が出てしまう」という、手書きの文字についてのエピソードが面白かった。
劇団ひとりのベストセラー小説『陰日向に咲く』の題字は、鈴木さんの幼い息子に初めて筆を持たせ、見本を見せながら書かせたものだという。改めて見てみると、鈴木さんの言う通り「完璧」である。
また、桜沢エリカの『掌にダイヤモンド』に至っては、事務所に届く請求書の中で、文字に特徴があって気になっていたという業者さんに書いてもらった題字なのだという。す、すごい。そんなところからもデザインのネタを引っ張ってくるんですね。確かに、「女子高生っぽい」特徴的な手書きの文字が、非常に良い味を出している。
これらのように、種明かしをされてからもう一度装丁デザインを眺めてみると、普段は見落としがちな細部の演出に気付くことができ、とても楽しめる。
この本を読んで思ったことは、ベストセラー本の陰には鈴木成一あり、ということだ。そりゃ、お名前もしょっちゅう目にする訳だ。これでもかという程、書店で目にするあの本もこの本も、鈴木さんが手掛けているのだと分かった。
最後に、トリビアを一つ。
裸の男女が絡まっている写真が大きく表紙に載っていて、書店で見かけて強く印象に残っていた、石田衣良の恋愛小説『美丘』。
女性の方はAV女優だが、男性の方はなんと角川書店の社員だという。
あっけらかんと「すっぽんぽんになってもらいました」と解説しているが、特徴的な文字の業者さんといい、以外と身近な所から素材を持ってきているものだ・・・。