個人的に推してる文庫シリーズ・ハヤカワ演劇文庫の第32巻。このシリーズ、51巻が欠番になってる気がするんですが、知ってる方いたら教えて下さい。
この巻は今をときめく劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんの作品を収録したもの。
ハヤカワ演劇文庫のセレクションは本当に、古今東西新旧入り乱れていて勉強になるので、今後とも楽しみにしています。
ケラさんの作品は、舞台も含めて触れるのは初めて。
この巻には
『消失』
『神様とその他の変種』
の二作品が収録されています。
どちらの戯曲も、深刻なテーマを持っているのにそれをくだらなさ・面白さといった物で巧みにオブラートに包んでいる感じ。
オブラートに包みながらも、不穏さが全体に漂っている感じで、隠された真実の存在感がスゴイ!と思いました。
私の世代としてはケラさん大好きな演劇人がいっぱいいて、大学時代なんかもさかんに戯曲が上演されていたのですが、その意味が今になって分かった感じ。皆が夢中になるわけだ。
「消失」
兄と弟が暮らす家に色んな人々がやってきて展開する劇。
兄と弟の関係性に常にほのめかされる謎が印象的。何かが起きている事は確実だけれど、何が起きているのかはっきりとは分からない、という状態が、劇の進行の大部分を占める。
なんだか皆怪しい。この妙な雰囲気が面白い。基本的にはコメディタッチで進んでいくのだけれど、どうも世界がなんだか変な事になってるらしい感じが、笑えるようで笑えない、笑えないようで笑える、不思議な空気を醸し出している。
場所も時代も関係性もよく分からない世界で繰り広げられる、妙な人たちの人間喜劇。
ケラさんの戯曲は読むのが初めて。上演で観たらより面白いんだろうなぁ。
皆が夢中になるわけだ!
「神様とその他の変種」
『消失』に続いてケラさんの戯曲を読む。
ハヤカワ演劇文庫の同じ本に収録されていた『神様とその他の変種』
『消失』ではやや荒廃したシリアスな世界っぽい所で物語が進んだけれど、今回は日本のお話っぽい。
冒頭から立ちションしてる男の人が
「私は神様です」
と観客に呼びかけてくる破天荒なスタイルで始まる。
動物が好きで、どうやら学校でいじめを受けている様子のケンタロウという少年とその父母を中心にして進む物語は、裏に暗い物が隠れていそうな雰囲気を放っている。
動物園での動物の不審死や、ケンタロウの母が色々な人に振る舞う謎の「お茶」
どこかにミステリーの香りが常に漂いつつ、なんだか様子のおかしい人々が繰り広げるお芝居。
あとがきには「別役実っぽいものを書きたかった」とあって、「なるほど」となる。
その場においては意味は成立するやりとりなのに、流れとしては圧倒的にそぐわない、とか、言葉の意味だけに絡め取られて会話が変な方向に行っちゃう、とか、まさに別役実エッセンス。
真相は何か?と色々考えながら、なんだかよくわからない世界に連れて行かれるサスペンスコメディでした。