西村英一郎のレビュー一覧

  • 密林の語り部

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    ネタバレ

    ひとつの文化に魅せられ、回心してその内部へと踏み込み"語り部"となるサウルと、文化を外側から物語にしようと試みる筆者(?)の2人の物語が交互に折り重ねられている。

    初め語り部の物語が始まった時、なれない情景や言葉に戸惑いつつも引き込まれている自分がいた。

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    2022年01月28日
  • 密林の語り部

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    2012.7記。

    「チボの狂宴」の著者バルガス・リョサ再読。ペルーの少数民族マチゲンガ族の「語り部」が伝える神話的記憶と、人類学者の考察やドキュメンタリー制作の描写が交互に描かれる。

    「木が血を流した時代」と語り部が呼ぶ、白人の過酷なゴムプランテーション経営による人口の激減、乱開発から滅び行く民族を守ろうと努力する同じ白人の人類学者たち。定住し農耕することを教え、人口維持に貢献する学者たちは、しかし同時に境界なく森を行き来する民族の誇りと文化を破壊したのだろうか?こうした問題を考えさせられながら、めくるめく神話の数々にも圧倒される。

    ところで、本作のハイライトである「大地の揺れ、怒りを鎮

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    2019年01月03日
  • 密林の語り部

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    ネタバレ

    語り部のことを小説にしたいと思う「私」と、(1・2・4・6・8章)
    マチゲンガ族に飛び込んで語り手になる「私」。(3・5・7章)

    頬に痣のあるサウル・スターラスが語り手に転身したことは謎でもなんでもない自明の筋だが、
    語り手になろうと思った彼の内面が徐々に明らかになるのが凄い。
    流浪のユダヤ人である(ペルーの白人社会の中ではマイノリティ)こと。
    頬に痣のある畸形的な外見であること。
    マチゲンガ族では畸形の嬰児を川に流すという風習。
    どれだけの驚愕と怒りを自分自身の実感として受け止めなければならなかったことか。
    自分のトーテムであるオウム、足が不完全に産まれた子を母オウムから奪い、肩に載せて旅

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    2016年06月05日
  • 密林の語り部

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    私は怒りを感じる。〈車や大砲や飛行機やコカコーラがないからといって、彼らを滅ぼす権利があるとでもいうのだろうか?〉宣教師たけでなく民俗学者も悪だ。彼らと共に生活し、ジガバチが芋虫に産みつけた卵から孵る幼虫のように彼らの内部から破壊するのだ。マチゲンガ族はロマのように放浪する民。しなやかな強靱さをもつ。語り部は物語る、世界の生成、月と太陽、善き神と悪魔、死者の国、タブーなどを。顔に傷のあるカシリの偽りの光ではなくタスリンチに息を吹き込まれた真の光だった。密林から呼ぶ声がする。マ・ス・カ・リ・タ…

    〈聖書、二言語の学校、福音の指導者、私有財産、金銭の価値、商業、洋服…それらがすべて向上に役立つと

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    2014年08月13日
  • 密林の語り部

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    バルガス=リョサは最も好きな作家の一人だ。今まで読んできた彼の作品はどれも、近代的社会と前近代的な文化という二つの世界を対位法的に描くことで世界の可能性を暴き出しながら深い感動へと導いてくれる。密林の向こう側から紡がれる物語はかつて語る事が社会そのものであったという事実を私たちに突き付け、それをこちら側の世界から懸命に語ろうとすることでその可能性を乱反射させる。例えそれが解読困難な呪文の様なものであろうとも、遠い世界に手を伸ばそうとする事を決して諦めてはいけないと思わさせてくれる素晴らしい読後感であった。

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    2014年05月09日
  • 密林の語り部

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    味わったことのない読書体験。物語そのものに引力があって引き込まれた。語り部という存在、語る言葉、その全てが楽しく幸せだった。

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    2013年04月30日
  • 密林の語り部

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    「密林の語り部」(バルガス=リョサ)を読み終わりました。私は静かに目を閉じて密林に差し込む月の光を想い、密林に降る雨を想い、マスカリータを想い、そうして少しだけ悲しくなった。近代化という大きなうねりの中でしだいに失われていく神話や知恵について、痛みに似た喪失感を伴う静かな物語。

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    2011年10月27日
  • 密林の語り部

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    真に他者、異文化を理解することと、それと同化することの間に大きな隔たりがある。理解は対象を分析し自身のコードに合わせて再構築すること。同化は自身がそれまでに得た世界観を捨て、生まれ変わること。同化には完全な理解は必要ないのかもしれない。サウルはマチゲンガ族が不具の子供を殺す理由を理解できなかった。

    サウルは西洋的な価値観は捨てたが物語は捨てなかった。カフカやユダヤ教、キリスト教の物語。サウルは密林の物語の中に自身の物語を自然に織り交ぜて同化した。これは宣教師や学者の理解とは違う。

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    2022年12月07日
  • 密林の語り部

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    ルソーの絵がまた良い。ふと、池澤夏樹のマシアス・ギリの失脚を思い出した。リョサの、楽園への道もおすすめ。

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    2020年08月24日
  • 密林の語り部

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    南米文学の「普通」に慣れるにはまだまだ読書量が足りません。。南米文学自体がもはや密林。歩き回ってぐるぐる迷っているような、濁流に豪快に流されるような。

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    2023年03月22日
  • 密林の語り部

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    命題は 「宗教やイデオロギーを超える精神的糧、刺激、人生の理由づけ、責務は あるか」

    率直な感想は 「面白かったが、それを伝えるのに 330ページ必要か?220ページまで テーマが 全くわからなかった」

    時間、場所、ストーリーテラーが 章ごと 変わる。視点を変えられるのに 慣れてくると、語り部が 密林で 物語る章は 本の中に異空間を演出している 著者の意図が 見えてくる

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    2017年07月19日
  • 密林の語り部

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    語り部の物語を何故真実ではないと言える?100年近く前、宇宙が膨張している証拠が見つけられていなければ、ビッグバンは真実ではなかった。
    そういうことだよ。
    ……そういうことではないか。

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    2013年06月18日
  • 密林の語り部

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    「緑の家」と比べて、ゆったりした印象に思えたが、通読するとやはり面白い。私小説的な著者の独白と、マチゲンガ族の語り部の独白となる章が交互に進行してゆくが、終章近くになってそれが重なってゆくところで、驚かせられる。日本では立松和平「ウンタマギルー」などが影響を受けていたのかもしれないが、どうだろう。

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    2012年01月22日
  • 密林の語り部

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    現代は西欧的なモノの見方を根底に判断するのが当たり前のように受け入れているが、認識したモノに対する解釈の与えかたや考え方の体系は文化や文明に因って様々で、優劣をつけるべきでもないのだということを再認識させてくれる。

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    2014年06月18日
  • 密林の語り部

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    顔半分にアザのある大学の同級生がどうやら未開部族の「語り部」になったらしいことに「語り手」が気づき、その後、「語り手」と「語り部」の物語りが交互に展開されてゆく。自然と文明だけでなく、西洋と第三世界、ユダヤとイスラムの対立を描いていて、「語る」という行為の本源というよりはむしろ人間の同一性そのものを問題にしている気がする。欧米の60年代(政治の季節)を第三者的視点から捉え直し、フィード・バックした小説。

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    2013年06月18日
  • 密林の語り部

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    好きなモチーフ満載なんだけど、思ったほどハマらなかった…。一瞬、盛り上がるポイントはあったんだけどな〜。やはり語り部の部分が最初、タスリンチって何?とかいろいろ考えちゃったらハテナだらけになってしまった。ま、そのハテナが徐々に気にならなくなっていくのが醍醐味でもあるんだが。

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    2012年08月28日
  • 密林の語り部

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    何か物足りなさを感じた。
    『緑の家』のような複雑に絡む物語と同じ手法を取っているのだけど、登場人物が少ないので平易に理解することができる。
    しかしながら物足りなさも感じた。
    そこまで面白い話ではなかったというか。
    自分の読解不足かもしれないが、語り部がそこまで重要な人物であるのかがどうも掴み切れなかったので。
    秘密の存在ならば他民族が語り部になりえるのだろうか、という疑問ばかりが残ってしまった。
    青春小説として自分は読んだというのが正直なところ。
    ジャンルは違えどもクラカワー『荒野へ』にも似た読後感があった。
    青春・自我・文明の間で煩悶する青年像は優秀な人材にのみ許された特権だ

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    2012年06月07日
  • 密林の語り部

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    未開の地の人類が自己、取り巻く世界、自然をいかに捉え
    死生観、運命、神の存在を世界、地球の中で作り上げたか。
    白人、西洋文明、近代化が未開を開拓していく中で
    それまでの世界を染め上げ、均一化。
    言葉と物語が形作り築き上げる集団の共通の世界。
    人が人として自己を見つけて意味のある存在として
    残っているのはいずれか。

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    2011年12月27日