処女作にして書き下ろし?と思ったら朝日時代小説大賞最終候補作とか。
平安までの古代が舞台だが、単なるファンタジーに終わっておらず、(少々くどいほど)枠組みがしっかりしていて、十分楽しい。
一つの枠組みは右大臣藤原道長と左大臣藤原顕光の氏の長者(権力)争いで、七夕の相撲会という宮中行事での勝
...続きを読む負することになる。顕光には邪悪な勢力(芦屋道満が見え隠れする)が付きいており、道長には古希を過ぎた安倍晴明と鬼を斬った渡辺綱が付いている。
もう一つは千年遡った垂仁天皇の御代の野見宿禰と当麻蹴速相撲勝負で敗れて、領地を取り上げられ追放された後者の子孫である播磨の城牟礼一族が、勝者の子孫である秋篠の里の聖なる力士たちの千年の恨みを晴らそうとする。前者が顕光を利用し、後者は晴明に見いだされる。
この聖なる力士たちの力が凄い。四股を踏めば大地の穢れを払って清浄にする、まだ若いが百年に一人の神の子と言われる出雲は、鬼見(神霊が見える)だけでなく神と相撲を取ることもできる。
神武東征で敗れた物部王権の残党が銅鐸の音響を相手の神経に対する攻撃の武器にしたとかで、城牟礼一族がそれを再現したりとか、江戸の時代小説にはできないことをいろいろやっていて面白い。