Seeing is believing.
見ることは信ずること(百聞は一見に如かず)という。
“see”は「見る」の他に、「理解する」の意を持つ言葉でもある。
本書の膨大な顕微鏡写真を見ていると、かたちを見ることの楽しさに時を忘れる。
光学顕微鏡・蛍光顕微鏡・透過型顕微鏡・走査型顕微鏡などの多様な
...続きを読む装置、グラム染色・銀染色・免疫染色・DAPI染色などの数多くの染色法、凍結割断法・パラフィン切片作製法などの標本作製法を組み合わせ、人体の各部や病原体のミクロの世界に読者を誘う。
細胞内の各器官、それぞれの働きに合わせて特殊化された形態を持つ細胞、臓器の内部、病気に罹患した臓器の像、そして病原体。
体内にあるそうしたものたちの形を見ることで、身近で具体的なものとして内なる宇宙を思い浮かべることができる。
写真はScience Photo Libraryによるもの。写真家や科学・医学の専門家の集団であり、医学や科学に関する質の高い写真を提供しているようだ。
写真の美しさはとにかくすばらしい。技術に関する簡単な説明があるところもよい。
個人的には手指の血管造影法による写真、受精の瞬間の電顕写真、膀胱のコラーゲン線維、胆石の結晶、赤血球を取り巻く大腸菌の写真あたりが印象的だった。
各項目に付記された解説(左明氏)は、雑学的なおもしろさもあり、読み応えのあるコラムになっている。
印象に残ったものを拾うと
・肝臓の細胞には染色体数が23対より多いものがある。
・腸は脳とは独立に働き、そればかりか毒素が入ってきたときには脳に働きかけ、嘔吐を促す働きもあるという。
・かつての煙突掃除夫には皮膚癌が多く、掃除後に体を洗う習慣がある者では発症が低かったそうだ。
・野口英世は梅毒が精神障害の元となることを突き止めたが、身体的な疾患と精神障害が同じ原因に基づくことを明らかにしたのはこれが最初であったという。
気になった点を2つ挙げれば
・各項目ごとに人体の輪郭図が描かれているが、せっかく描くのであれば、話題となっている臓器や病原体が体内のどの辺りに位置するか、簡単に記してあるとよりイメージが湧きやすいと思う。全身なら全身を別の色で塗ったり、血液なら血管を模式的に書き入れたり。
・倍率がx(数字)で書かれていたが、1μmとか100μm等のスケールバーを写真内に入れてもらった方がわかりやすいのではないか。
見て美しく、読んで楽しい。
手に取るたび、さまざまに発見がありそうな楽しい図鑑である。
高校生、大学生、一般の広い方にお薦め。