一人称で語られるリリカルな表現が特徴的な物語。素面で吐いたらキザ過ぎるような台詞も、嵐の吹き荒れるような世界観と相俟って、むしろ心地良く思えました。
主人公である諒子は、「姉と母を殺した」と独白する。余生として何をするわけでもなく生きている彼女に降りかかる偶然の数々。誰ともわからないストーカーに嫌
...続きを読むがらせを受けながらも、それを悪いとも感じなくなっていた日々に、転機が訪れる。ひったくり少女を助けたことから始まる新たな殺人と逃走劇の行く末で、彼女は何を見つけるのか。
とにかく場面や仕草の描写が巧い、というか好みです。若干クサいかもしれないですが、やっぱり小説はこうでなくてはと思います。
例えば135頁の「まるでそれが人間でなく、ゴキブリのそれでも指しているようだ。」なんて、書き方一つで白々しい表現になってしまうのを、こうも印象深く仕上げています。近頃出てくる若い作家さんは親しみやすい文体(良く言えば)や口語表現が多いので、若干の苦手意識がありました。だから個人的な嗜好として、こういう「小説らしい」書き方は大歓迎です。
特に際立っていたのが、姉と妹の海辺のシーンです。姉は一切言葉を発しないのですが、その動作一つ一つの描写が的確すぎて、むしろ臨場感が増すという不思議な感覚。映像が浮かぶというより、はっきり「見える」というのに近い気がしました。
最初の行と最後の行が効果的に使われていたり、登場人物の絞り方だったりと、物語以外の点でも楽しませてもらいました。内容はジャンル分けが難しいものでしたが、「しがらみ」がテーマだったのではないでしょうか。
人の二面性や繋がりを綺麗事抜きで描いた作品です。
【キーワード】
余生、悪戯電話、ストーカー、間の抜けた茶番劇、ストーミーマンディ・ブルース、姉のやり口、死体がふたつと大人が三人、ホームレス、淫乱な女、三人の馬鹿、しがらみ、人殺し
【主要人物】
倉田諒子、ミチル、岡島、長谷川洋佑、清水孝志