カントの実践哲学を現実の政治に当てはめて考えるとどのようなことを論じうるかを、カント自身が示した名著。
カント自身が本書のタイトルを「風刺的」と呼んでいることに象徴されるように、永遠平和など実現不可能な絵空事と見なされがちである。
カントはただ理想を語っているのではなく、人間の本性を「利己的」とし
...続きを読む、法的状態が構築される以前の自然状態を「戦争状態」とした上で、地に足の着いた議論を展開している。
人間が利己的で、各国家が言語と宗教によって互いに隔離されているということは一見戦争の種であるように思われるが、カントはむしろ、そのような現実があってこそ、平和は構築可能だとする。人間の利己性は社会契約による共和的国家の樹立を促し、言語と宗教による隔離は、国家の規模を大きくなりすぎないように役立ったと。目からウロコであった。
「付録」では、政治と道徳の対立、すなわち利益と正義の対立について語られており、「前者が後者に従属すべし」というカントのリベラルな立場が簡潔に表明される。
薄いけど中身の濃い、素晴らしい本だった。