高橋和海のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ大崎善生さんの書くものが好きだ。
読むのは12冊目になる。
熱帯魚、出版業、環状線をぐるぐると回る、ヨーロッパ、音楽…
そういう繰り返されるモチーフの中に、はっとする言葉がある。
キャラクターとか関係性とか心情とかそういう物語の在り様ではなくて、
言葉拾いをしながら読むような感じ。
安定して流れる物語の中で、安心して自分のための言葉を探せる。
小説の中で扱われたような意味合いでは見たことの無い言葉。
今回は「くもの巣の修繕」、「窓」、「掘削機」がわたしに差し出された。
「鍋」や「ノシイカ」、「ロバ」、「小石」、「中指」、それだって良かった。
読みながら、沢山の知人を想起したこともおもし -
Posted by ブクログ
ネタバレ大崎善生さんの『ロックンロール』
主人公の作家の植村は、第2作目の小説執筆のため、パリ近郊のポートオルレアンのホテルに滞在しています。そもそも彼は、熱帯魚の雑誌の編集長をしていたが、高井という編集者が彼を訪れ、口説き落とし、小説家にしたのだ。植村のデビュー作は評価が高かったが、2作目の筆が遅い。そのため、ヨーロッパに来訪し、小説を書くことにしていた。しかし、それでも筆が進まず、焦燥感に苛まれる日々を送っている。
植村は、彼宛に送られてきたCDをふと思いだす。ジョージハリスンの『All things must pass』。送り主の名前に心当たりはない。
ではあるが、20歳の頃、ジョンレノンが亡 -
Posted by ブクログ
大崎善生を読むと小説の醍醐味は中身の内容だけではないことに気づかされる。
このロックンロールというなんの中身の無い小説が面白く感じるのは、1行1行の文章がとても緻密で、計算されていて、繊細で、優しくて、突き刺さるような言葉の集合体だから。
この小説の中でも語られていたが、
「なんでもいいからひとつのことを、正確で美しい、ということはつまり適切な言葉を使って表現する。その枝葉の積み重ねの先にある樹が小説なんだ。」「犬の交尾を正確に描いていても泣くね。」
とある。1つのことを洗練させる必要性。小説家でないがしろにしてはいけない要素。人にとっても何かを1つ正確に出来る人の方が、心を揺さぶるのだ -
Posted by ブクログ
最近の作家さんで唯一読み続けているのが大崎善生です。
作品のトーンは毎回似ているんですが、でも、読み出すとしみこむように文章が頭の中に入ってきて、さくさくと読み続けることができます。
この作品の主人公が語った言葉にそのヒントが。
「僕にとっての小説の感動は、ストーリーや感情の起伏というよりも、もっと単純で文章そのものということが多いんだ」
「何でもいいからひとつのことを、正確で美しい、ということはつまり適切な言葉を使って表現する。その枝葉の積み重ねの先にある樹が小説なんだと僕は考えている」
これは主人公の小説家の小説感として描かれていますが、筆者自身の小説感ではないかと思うのです。
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Posted by ブクログ
ベックの「哀しみの恋人達」がず~~と流れている。
《本文より》
小説を書いてみませんか、と高井の言葉は小さくて性能のいいマグネットのように僕の心にピッタリと吸いついた。
何をしていても、何を考えていても気がつくとふくらはぎや肩甲骨あたりに、離れずに張り付いているそのマグネットの存在を感じる。
僕はこれは恋に似ているなと思った。そう、この感情の揺れは確かに恋に似ている。
それからこう考えた。
恋に似ている感情なんてあるのだろうか。恋に似た感情をも含めて、それを恋と呼ぶのではないか。
そうだとすれば、薔薇窓からの光の輪の中に立ち、それに手をかざしている久美子に、僕は恋をしているのだ。そう思うと