本書は1999年発行の本の再販である。福島第1原発事故をうけて、2011年9月に急遽再発行された本だが、福島第1原発の問題点や危険性はすでにこの1999年の時点でも一部の専門家には明らかであったたことが、よく理解できる良書であると思った。
本書の「ハイリスク=テクノロジーとしての原子力発電」では、1999年9月におきた「JOC臨界事故」の詳細を紹介するとともに「原子力は危険なものという認識が欠けている」と断言している。まったくそのとおりだと思う。また「核燃料サイクル技術」についても「未成熟技術である」と断言している。本書の内容を読むとこんな不完全な技術でリスクの大きい政策を推進することの危険性についてよくわかった。
本書では原子力発電体系の問題点として3点をあげている。
①巨大事故の可能性。
②放射性廃棄物の処置方法の未確立。
③軍事転用阻止手段のみ確立
説得力がある上に、まるで福島原発の事故を予言したかのような認識であると思った。
「原発を点検する」においては、原発と地方自治体の問題が取り上げられている。電源立地促進対策交付金は、はたして過疎に悩む地方自治体にとって、救いの金なのかそれとも痛みを忘れさせて対策をとる事を忘れさせる麻薬なのかと考えさせられた。しかし、こんな危険で不安定な原発に子孫の未来を託す過疎の地方自治体はやはり誤っていると思った。
「核燃料サイクル」と「高速増殖炉の失敗」では、原発政策の全体像とそれがすでに破綻していることも良くわかったが、現在の政治家も科学技術者もこれについてきちんと発言しているとは思えない。
また、本書では「高レベル放射性廃棄物の処理」について、地下水が多い日本では困難として、「地球上でもっとも適したところに処理するのが良い」と提案しているが、それはちょっと現状では不可能な提案なのではないのかと思った。「最悪の汚れたゴミ」を金をつけて、貧しい国に輸出することと受け取られることは必定である。はっきり不可能と言ったほうがよいと思った。
本書は警世の書であると思うが、原子力発電の詳細な事実の積み重ねと論理が多すぎて一般書としてはちょっと難しすぎると感じた。ここまで細かいと読み続けるのはちょっとつらいが、福島原発事故が、突然に起こったのではなく、ある意味必然であったことをうかがわせる良書であると思った。
それにしても、いままで「5重の安全」とか「大きな事故は考えられない」とか発言していた多くの学者・専門家は現在一人も表に出てきていない。自らの誤りを認める勇気のある学者・専門家が一人として出てこない日本の風土を情けないとも思った。