薬理学の講義の中で、多少統合失調症に関する説明も受けていたけれど、それは、分子生物学的な観点を基調としたもので、本書の筆者の言うところの「人間学的」な視点は欠けていた。
僕らは、DISC1だの、ドーパミン仮説だのと、客観的、科学的、物質的な視点から病気を見る立場に陥りがちだけれど、殊、精神科領域で
...続きを読むは、患者に向き合って、じっくり訴えを聞き、患者がどのような心的、外的な状況を経て今の状態になったのか、把握していこうとする姿勢が大切なのだと改めて感じた。
特に本書では、主に筆者が体験した多くの症例が提示されており、大変興味深い。
対人/社会恐怖様段階→幻覚・妄想段階→夢幻様段階
という経過や、各段階への遷移について、本書を読んでおおまかに「了解」することができたように感じた。
ところで、本書を読んでいると、独特の言葉/言葉遣いが多く見られ、読みづらく感じた。
例えば、「了解」という言葉が、ディルタイ哲学的な意味で用いられており、慣れるまで、違和感が拭えなかった。
また、筆者は本書の中で、先人の視点を度々援用しているのだが、その際それぞれ、病態の分類の仕方が異なっている。
この人のこの概念は、ほぼあの人のこの概念に対応する、などといったことが述べられているのだけれど、
正直言って、全てを追いきることはできなかった。
これは著者の書き方の問題というよりも、精神医学に固有の難しさなのだろうとは思うが…。
身体的な疾患と比べて、精神科が扱う疾患では、患者間の客観的な比較が難しく、そのため、分類も困難であるのだろう。
精読したわけでなく、割にさらっと流して読んだけれど、統合失調症について症例に基づいた経過とその人間学的理解を得、精神医学の雰囲気を感じ取ることはできたように思う。