最後に本書の原題は"La Tristeza Del Samurai"(サムライの悲しみ)である。作中に重要な道具として存在する日本刀の名である。日本人は、この作品には一人も登場しないが、人間の魂を込めた精神性のシンボルとしてこの日本刀が非常に印象的に使われている点に、是非ご注目頂きたい。バルセロナやピレネーなどスペインの国土の美しさともども、過酷な生と死の物語に、より深みを与えていることがわかると思う。
小説の中で日本刀が大事な役割を果たしている。ただし、日本で作られたものではない。ピレネー近くの村で鍛冶職人をしているマリアの父が作ったものだ。日本人読者からすれば、それはちょっと、と思ってしまうのだが、鞘は泰山木と竹、鍔には龍が彫られているというから本物の拵えのようだ。原題は<La Tristeza del Samurái>(侍の悲しみ)。西洋人から見た武士道に対する憧憬は感じられるものの木に竹を接いだような違和感が残る。